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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
五作目『灰燼から燃え上がる天使の歌』

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その理由は予想外だ

「断られた…?」


絢音も驚いた様子だった。瞳とは一度協力したこともあるし、天歌の性格からして、そう簡単には断らないはずだと思っていたのだろう。


「うん、まさか即答で断られるなんて思わなかった。せめて話くらいはできると思ってたのに……」




「うーん、こっちでちょっと聞いてみるね」


絢音はそう言って、相手の名前を見つけてメッセージを送った。




【ちょっと聞きたいことがあるんだけど、今大丈夫?】




すると予想外にも、向こうから直接電話がかかってきた。


絢音は瞳に「静かにして」というジェスチャーをしてから電話に出た。


「もしもし〜」


だが、返ってきたのは苦しそうな呼吸音だけだった。


「大丈夫?なにがあった?」


「た…す…」


無理やり絞り出したような声。そして何かがぶつかる音がして、電話は切れてしまった。


慌ててかけ直すも、何度かけてもつながらない。




「どうしたの?何かあったの?」


瞳が焦った様子の絢音を見て、心配そうに聞いた。


「わからない、天歌ちゃんの様子がちょっとおかしい。今、電話もつながらないの」


「えっ!? じゃあ…絢音、彼女の住所知ってる?」


「知らない。でも…そうだ、マネージャーに聞いてみる」


絢音は急いで事務所のマネージャーに電話をかけた。




「もしもし、私、鈴宮琉璃です。さっき天歌ちゃんと電話してたら急に声が切れて…。そっちの様子もなんか苦しそうだから、様子を確認してもらえる?うん、うん、ありがとう」


絢音は電話を切った。




「どうだった?」


「私と天歌ちゃん、担当違うから、今から確認してくれるってさ」




「そうか…。あっ、そうだ」


瞳は、以前ゲームセンターでの自己紹介や、朝倉社長が言っていた「姪が瞳と同じ学校に通っている」という話を思い出した。




「黒崎さんに聞いてみるわ」


「黒崎さん?七夜夢の?」


「うん」


瞳はそれ以上説明せず、そのまま電話をかけた。




「はい、黒崎です」


「黒崎さんですか、長谷川です。ちょっとお聞きしたいんですが、朝倉歌奈さんの住所をご存知ですか?」


「お嬢様?何かあったんですか?」


黒崎は少し驚いたように聞き返した。瞳は簡単に今起きたことを説明した。




「わかりました。すぐに確認しに行きます。社長にも伝えておきます」


黒崎の声は急に厳しくなり、即座に判断を下した。




「どうかしたのか?」


朝倉社長は、普段冷静沈着な黒崎が動揺しているのを見て、怪訝そうに眉をひそめた。




「さっき長谷川さんから連絡があって、お嬢様に何かあったようです」


黒崎はすぐに社長のもとへ駆け寄り、簡潔に状況を報告した。




「歌奈が!? 私の車を出して。ご両親から預かってる合鍵がある。行こう」


「はい」


二人は急いで出発した。


「まったく、あのバカ親たち、子どもを置いて海外で仕事なんて!急ぐぞ」




一方その頃。




「うん、ありがとう」


瞳は電話を切って安堵のため息をつき、顔を上げると、絢音がじっとこちらを見つめていた。




「な、なんですか?」




「色々聞きたいことはあるんだけど、どうして歌奈ちゃんの本名を知ってるのか、黒崎さんのことも…。でも今は緊急事態だから、後にするね」


絢音はにっこりと笑っていたが、目はまったく笑っていなかった。


その視線に、瞳は冷や汗を垂らした。




「とにかく、今一番大事なのは歌奈ちゃんのこと。無事だといいけど…」




二人は他の話をする気にもなれず、それぞれ続報を待つことにした。


無言のまま、絢音がそっと隣に座る。瞳はその温もりに、わずかに肩の力を抜いた。




一息ついたところで、再び絢音の携帯が鳴った。


「そうなんですか、はい、わかりました。ありがとうございます」


「どうだった?」


「会社でも、やっぱり歌奈ちゃんと連絡が取れないみたい…。それに住所もわからないらしくて…。でも、なんとかしてみるって」


絢音はため息をつきながら答えた。




「お、黒崎さんからだ。」




瞳も電話を受けた。


「はい、今は病院に運ばれたんですか?そんなに大変ですか?はい、わかりました。ありがとうございます、どうかお大事にとお伝えください」


「病院に運ばれたって?」


「うん、ひどい風邪だったみたい。今は病院で治療を受けてるって。でも命に別状はないみたい」


「それならよかった…」


絢音はその言葉を聞いて、胸の奥に渦巻いていた不安が、ほんの少しだけ静まった。




「お見舞いに行けるかな?」


「今はちょっと難しいかもね。数日して、様子を見てからまた聞いてみよう」




「そうだね。でも、こんなにひどいとは思わなかったな。だから断られたのか…。じゃあどうしよう?歌奈ちゃんが良くなるまで待つ?それとも他の人を探す?」


「うーん、とりあえず様子を見て、それでも無理そうなら、他の手を考えてみるよ」


「ニナちゃんじゃダメなの?」


瞳は絢音のわざとらしい言い方に、うんざりしたようにジト目を向けたが、何も返さなかった。




「さっき何話してたの?ニナちゃんって聞こえた気がするけど」


玄関から戻ってきた結衣が、リビングの二人を見て不思議そうに尋ねた。


「なんでもないよ、ちょっと雑談してただけ」


「結衣ちゃん、おかえり〜!」


絢音は満面の笑みで両手を広げた。


「絢姉!ただいま〜!」


結衣もためらうことなくその胸に飛び込んだ。




「私は部屋に戻って、ゲーム作りの続きをするね。二人でゆっくり話してて」


「やったー、絢姉は私のもの〜!」




しかし瞳は知らなかった。


結衣がその背後で、密かに弥紗へと連絡を取っていたことを——。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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