その理由は予想外だ
「断られた…?」
絢音も驚いた様子だった。瞳とは一度協力したこともあるし、天歌の性格からして、そう簡単には断らないはずだと思っていたのだろう。
「うん、まさか即答で断られるなんて思わなかった。せめて話くらいはできると思ってたのに……」
「うーん、こっちでちょっと聞いてみるね」
絢音はそう言って、相手の名前を見つけてメッセージを送った。
【ちょっと聞きたいことがあるんだけど、今大丈夫?】
すると予想外にも、向こうから直接電話がかかってきた。
絢音は瞳に「静かにして」というジェスチャーをしてから電話に出た。
「もしもし〜」
だが、返ってきたのは苦しそうな呼吸音だけだった。
「大丈夫?なにがあった?」
「た…す…」
無理やり絞り出したような声。そして何かがぶつかる音がして、電話は切れてしまった。
慌ててかけ直すも、何度かけてもつながらない。
「どうしたの?何かあったの?」
瞳が焦った様子の絢音を見て、心配そうに聞いた。
「わからない、天歌ちゃんの様子がちょっとおかしい。今、電話もつながらないの」
「えっ!? じゃあ…絢音、彼女の住所知ってる?」
「知らない。でも…そうだ、マネージャーに聞いてみる」
絢音は急いで事務所のマネージャーに電話をかけた。
「もしもし、私、鈴宮琉璃です。さっき天歌ちゃんと電話してたら急に声が切れて…。そっちの様子もなんか苦しそうだから、様子を確認してもらえる?うん、うん、ありがとう」
絢音は電話を切った。
「どうだった?」
「私と天歌ちゃん、担当違うから、今から確認してくれるってさ」
「そうか…。あっ、そうだ」
瞳は、以前ゲームセンターでの自己紹介や、朝倉社長が言っていた「姪が瞳と同じ学校に通っている」という話を思い出した。
「黒崎さんに聞いてみるわ」
「黒崎さん?七夜夢の?」
「うん」
瞳はそれ以上説明せず、そのまま電話をかけた。
「はい、黒崎です」
「黒崎さんですか、長谷川です。ちょっとお聞きしたいんですが、朝倉歌奈さんの住所をご存知ですか?」
「お嬢様?何かあったんですか?」
黒崎は少し驚いたように聞き返した。瞳は簡単に今起きたことを説明した。
「わかりました。すぐに確認しに行きます。社長にも伝えておきます」
黒崎の声は急に厳しくなり、即座に判断を下した。
「どうかしたのか?」
朝倉社長は、普段冷静沈着な黒崎が動揺しているのを見て、怪訝そうに眉をひそめた。
「さっき長谷川さんから連絡があって、お嬢様に何かあったようです」
黒崎はすぐに社長のもとへ駆け寄り、簡潔に状況を報告した。
「歌奈が!? 私の車を出して。ご両親から預かってる合鍵がある。行こう」
「はい」
二人は急いで出発した。
「まったく、あのバカ親たち、子どもを置いて海外で仕事なんて!急ぐぞ」
一方その頃。
「うん、ありがとう」
瞳は電話を切って安堵のため息をつき、顔を上げると、絢音がじっとこちらを見つめていた。
「な、なんですか?」
「色々聞きたいことはあるんだけど、どうして歌奈ちゃんの本名を知ってるのか、黒崎さんのことも…。でも今は緊急事態だから、後にするね」
絢音はにっこりと笑っていたが、目はまったく笑っていなかった。
その視線に、瞳は冷や汗を垂らした。
「とにかく、今一番大事なのは歌奈ちゃんのこと。無事だといいけど…」
二人は他の話をする気にもなれず、それぞれ続報を待つことにした。
無言のまま、絢音がそっと隣に座る。瞳はその温もりに、わずかに肩の力を抜いた。
一息ついたところで、再び絢音の携帯が鳴った。
「そうなんですか、はい、わかりました。ありがとうございます」
「どうだった?」
「会社でも、やっぱり歌奈ちゃんと連絡が取れないみたい…。それに住所もわからないらしくて…。でも、なんとかしてみるって」
絢音はため息をつきながら答えた。
「お、黒崎さんからだ。」
瞳も電話を受けた。
「はい、今は病院に運ばれたんですか?そんなに大変ですか?はい、わかりました。ありがとうございます、どうかお大事にとお伝えください」
「病院に運ばれたって?」
「うん、ひどい風邪だったみたい。今は病院で治療を受けてるって。でも命に別状はないみたい」
「それならよかった…」
絢音はその言葉を聞いて、胸の奥に渦巻いていた不安が、ほんの少しだけ静まった。
「お見舞いに行けるかな?」
「今はちょっと難しいかもね。数日して、様子を見てからまた聞いてみよう」
「そうだね。でも、こんなにひどいとは思わなかったな。だから断られたのか…。じゃあどうしよう?歌奈ちゃんが良くなるまで待つ?それとも他の人を探す?」
「うーん、とりあえず様子を見て、それでも無理そうなら、他の手を考えてみるよ」
「ニナちゃんじゃダメなの?」
瞳は絢音のわざとらしい言い方に、うんざりしたようにジト目を向けたが、何も返さなかった。
「さっき何話してたの?ニナちゃんって聞こえた気がするけど」
玄関から戻ってきた結衣が、リビングの二人を見て不思議そうに尋ねた。
「なんでもないよ、ちょっと雑談してただけ」
「結衣ちゃん、おかえり〜!」
絢音は満面の笑みで両手を広げた。
「絢姉!ただいま〜!」
結衣もためらうことなくその胸に飛び込んだ。
「私は部屋に戻って、ゲーム作りの続きをするね。二人でゆっくり話してて」
「やったー、絢姉は私のもの〜!」
しかし瞳は知らなかった。
結衣がその背後で、密かに弥紗へと連絡を取っていたことを——。
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