探索と音楽
ゲームは再び、荒れ果てた街道をバイクで走るシーンに切り替わり、
絢音は自分がそのバイクを操作できることに気づいた。
バイクはムウが運転していて、バックパックは前方の両脚の間に置かれ、黒猫がその上に寝そべっている。少女はバイクに横座りし、ときおり鼻歌を歌っていた。
「見た目はほのぼのしてるけど、これ実はかなり危ないんじゃない?こういうのってリアルでは見たことないぞ」
バイクに乗ってる二人と一匹を見て、絢音は思わずつぶやいた。
「いくつか違うポーズを設計してあって、ランダムで切り替わるようにしてるけど、危険性とかは…画面の美しさのためには必要な犠牲ってことで」
瞳は真面目な表情で言ったが、すぐに付け加えた。
「でも、本当に危ないと感じるなら、変更もできるよ」
「はは、そこまで深刻じゃないよ。ところで、これはただ走ってるだけなの??それとも探索もできるの?」
「今はまだ固定の拠点しか探索できないけど、後で支線の探索も追加予定だよ」
瞳は少し申し訳なさそうに答えた。
「まあ、テスト版だしね」
絢音は、レストランのような建物の前に到着し、そこに「探索可能」のマークが表示された。
探索を選ぶと、ムウがバイクを停めて、後ろに座っているミュウに話しかけた
「今日はここで休もうか」
「やったー!」
バイクが止まると、画面は45度の俯瞰視点に切り替わり、絢音がムウを操作して探索可能な場所をクリックしていく。
探索の難易度を下げるため、瞳は調べられるものにハイライトをつけて、カーソルを合わせると「調べる」「拾う」などのヒントが表示されるようにしていた。
「うーん、これって逆に没入感を下げちゃわない?」絢音はハイライトされたアイテムを指差して言った。
「うん……確かにね。もう少し自然に見せる方法を考えてみるよ」
瞳は顎に手を当て、絢音の意見に同意した。
「もしくは、オプションでハイライト切り替え出来るようにするか」
「その方がいいかもね」
ムウたちは建物の中に入った。
「レストランか、食べ物か使えそうなものが見つかるといいな」
ムウはあたりを見回しながらミュウに言った。
「食料、必要なの?」
「うん、左上見て。空腹度と燃料が表示されてるでしょ?」
絢音は画面を確認すると、瞳の言った二つの数値に加えて、日付と時間も表示されていることに気づいた。
「つまり、資源管理もあるのね」
「でも、そこまで厳しいものではないよ。これはゲームの深みを出すための要素で、プレイヤーを困らせるためじゃないから」
瞳は最初から資源量を多めに設定しており、メインストーリーだけを進めても、十分な資源で物語を進められるようになっている。
「探索探索〜」
絢音は鼻歌まじりで、テーブルの上のチラシをクリックした。
チラシは『ネコ待ちカフェ』の猫のイラストが描かれていた。
「かわいい!」
「これは収集要素のアイテムで、後で世界観に合ったデザインに変える予定だよ」
「こういうの、サプライズ感があっていいね」
絢音はキッチンの奥でいくつかの缶詰を見つけ、倉庫ではガソリンの入ったタンクを発見した。
ハイライトのおかげで、絢音はすべてのアイテムを簡単に見つけられた。
「おっ!ここに引き出しがある」
絢音はムウを操作してレジカウンターの前へ向かい、引き出しを開けると、帳簿用のノートが入っていた。
ノートを開くと「テスト用」と字幕が表示された。
「これは、文字が書かれているアイテムを入手したときに、読みやすいように字幕が表示される仕組みなんだ。没入感のために字幕をオフにもできるよ」
絢音は設定を開き、字幕をオフにして体験してみた。
「うーん、字幕はない方が好みだけど、便利さを考えると、あった方がいいのかも」
「そろそろ時間だよ、ご飯にしよう」
ムウがプレイヤーに探索終了を知らせた。
食料は単独でも使用できるし、組み合わせて料理にすることもできる。プレイヤーにいろいろ試してもらうため、料理にした方が空腹度の回復量は高めに設定されている。
食事が終わると、ミュウをクリックして会話を始めると、彼女は笑顔でこう言った。
「じゃあ、約束通り、お兄さんにギター教えてあげるね!」
「そうね、よろしくね、ミュウ先生」
「先生なんて……へへへ」
ミュウは髪を指でいじながら、頬を赤らめて笑った。
そして、画面は演奏モードへと切り替わる。
画面中央には譜面枠が表示され、その下にはギターを弾く青年と、胸の前で手を組みながら歌う少女の姿が描かれている。
枠の上からは音符が次々と降りてきて、プレイヤーはリズムに合わせて対応するキーを押すことで演奏を進めていく。
音符には「羽」「灰」「光点」の三種類があり、それぞれ異なるタイミングと判定が要求される。
絢音はさっそくプレイしてみた。
「まずは、適当にボタン押してみて」
「え?どういうこと?……まあ、いいけど」
首をかしげながらも、絢音は言われた通りに、わざとミスするよう操作した。
失敗が重なるたびに、少女の表情が少しずつ変化していく。
最初は額に汗を浮かべながら困ったような顔を見せ、やがて演奏を完全にミスすると、ふくれっ面で画面を睨みつけた。
「……かわいい」
絢音は思わず声を漏らした。
「どう?悪くないでしょう?だいたいこんな感じでね」
「うーん……失敗した時の反応がしっかり作り込まれてて、プレイヤーもクスッとしそう。
でも、もうちょっとバリエーションがあってもいいかも?」
「なるほど、ありがとう。じゃあ、表情のバリエーションはもう少し増やしてみるよ。じゃあ、今回は普通でやってみて」
絢音はもう一度試してみた。満点じゃなかったけど、サクッとクリアできた。
「ちょっと簡単すぎるかも。これだと、ガチ勢には物足りないかもね。あと、短すぎて、盛り上がる前に終わっちゃう気がする」
「なるほど、そこも調整しよう。こうして演奏を成功させると――ほら、こうやってCGに切り替わるんだ、背景の音楽はさっきプレイヤーが演奏したものになるようにしている」
ゲーム画面はCGに切り替わる。まだラフの状態で、少女はダイニングテーブルの横に座り、青年はそのそばでギターを弾いている。
「それ、けっこういい感じかも、私もこういうの好きなんだ」
「調整が終わったら、また手伝ってくれる?」
「もちろん、任せて!」
絢音は白い腕を曲げて、自慢げに二の腕をポンッと叩いた。
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