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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
五作目『灰燼から燃え上がる天使の歌』

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テスト版だから、これからもっと良くなるから!

「来たよ~」

絢音は微笑みながら挨拶した。


今日の彼女は髪を三つ編みにして、淡い青色のスカートに白いブラウスを合わせた、清楚で可愛らしい格好をしていた。

……まるで隣に住んでいる女の子みたいだった、いや、実際に隣に住んでいるのだが。



「うん、いらっしゃい」

瞳は絢音の新しいスタイルの破壊力に耐えつつ、なんとか仕事に集中しようとしていた。

絢音はそんな瞳の反応に満足そうに、口元を引き締めて小さく笑った。



「じゃあ、始めようか」

瞳は自分がいつも座っている席を絢音に譲った。


「はーい」

絢音はにこにこして椅子に座った。


「うん、それを押して」


瞳はパソコン画面の「テスト01」と書かれたファイルを指さした。



「了解でーす!」

絢音はわざと大げさに敬礼してみせた。



「先に言っておくけど、まだテスト版だから、まだまだ未完成だぞ」


瞳は少し恥ずかしそうに言った。

ゲーム内の画像もまだラフスケッチの段階で、こんな中途半端な状態を他人に見せるのは、彼にとってとても気恥ずかしいことだった。




「わかってるってば。何回テストプレイしてきたと思ってるの?」


絢音がファイルを開くと、ゲームのスタート画面が現れた。


そこには、蒼白い廃墟の中に停まった一台のバイクがあり、空からは灰のような白い粒が降り続けていた。




「じゃあ、始めるね」

絢音がクリックすると、画面がゆっくりと動き出した。




最初は素朴なアニメーションから始まった。一台のバイクが荒れ果てた道路を進んでいく。


この世界はすでに死んでしまったようだ。暗い空、灰色の大地、静かすぎて、バイクのエンジン音だけが響いている。


道の両側には崩れた建物ばかりで、ほとんど完全な建築物は見当たらない。




「なんだか、すごく寂しい世界だね」


絢音は画面をじっと見つめながら、ぽつりとつぶやいた。




パタ……パタ……。突然、雨が降り始めた。


バイクのライダーは偶然に雨避けになりそうなバス停を見つけ、そこにバイクを停めた。


「わ!雨だ!」




画面がズームし、オリーブ色のジャケットを着た青年がヘルメットを外す。

濡れた前髪が額に張りついていた。やつれた顔には疲労の色が濃かった。

青年は空を見上げてため息をついた。


「しばらくは止みそうにないな…」


「ニャー」



「ネコ?」

「ネコちゃん!?」

絢音と青年のセリフがほぼシンクロした。


バス停のベンチの上に、黒猫が一匹寝そべっていた。ほとんど影と一体化していたが、緑色の目だけが光っていた。



「かわいい!」

絢音は一気にテンションが上がり、瞳はそんな彼女を見て、猫をゲームに入れて正解だったと感じた。



青年は相手を驚かせないように、そっと手を差し出した。

「おいで、ネコちゃん」


黒猫はゆっくりと近づき、彼の手の匂いをくんくんと確かめた。

食べ物がないとわかると、不満げに「ニャー」と鳴く。


首には鈴のついた深紅の首輪があって、猫が人間を恐れていない理由がそれだった。

「はは、大丈夫。食べ物は多くないけど、キミに分けるくらいならあるよ」

青年は背中のリュックから缶詰を取り出し、半分を黒猫に分け与えた。

黒猫は遠慮なく、夢中で食べ始める。




その様子を穏やかに見守っていた青年の表情が、ふと変わった。

雨音が次第に弱まり、どこかからかすかに何かが聞こえてきた。




「歌声…?でも…こんなところで…?」

青年はその音を頼りに歩き始めた。



カメラが切り替わり、瓦礫でできた小さな丘の上に、一人の少女が座っていた。


白いワンピースを身にまとい、目を閉じたまま、静かに歌っている。

ラフスケッチの画面の中、唯一色づけされていたのは、彼女の金髪だけだった。

風に揺れるその髪だけが、まるで生きているかのように感じられた。


他のものは簡単な影しか描かれていない。


「これは……」

絢音は思わず声を漏らした。




「テスト版だから、まだ……」

瞳は少し恥ずかしそうに言い訳する。



「ううん、わかってるよ。……でも、この絵、すごくいいね。歌声は、まだ……入ってないんだ?」

「うん、あとで入れる予定だけど……どうするか、まだ決まってなくて」

「今回のヒロインも、声つける予定?」

「そう考えてるけど、歌も歌う必要あるから、コスト的にちょっと…そうだ、絢音、あなたは…」


瞳が尋ねようとしたとたん、絢音はぶんぶんと首を横に振った。


「わ、私?無理無理……歌はちょっと……自信ないし」

「そうかな?絢音の歌声、けっこう好きだけどな」

「ありがとう。でも……恥ずかしいもん、やっぱり無理……」

「そうか……じゃあ、誰かこの役をやってくれそうな人、知ってる?」


瞳は、前回でVTuberを声優に起用して、結構いい宣伝効果があったことを思い出した。

演技のクオリティも悪くなかった。


「歌上手い人なら、天川社に結構いるよ。ニナちゃんとか、天歌ちゃんとか。

……引き受けてくれるかはわからないけど」


「へえ、その二人が……」

瞳は少し驚いた様子だった。

天歌が歌に長けているのは知っていたが、結衣の友達までプロレベルとは思っていなかった。


そんなことを思いながらも、瞳は前に弥紗に会ったときのことを思い返し、やはり距離を取っておくべきだと感じていた。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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