【絢音】このゲーム、戦闘もあるのか!
「えへへ、巫女さんかわいい~」
絢音はすでに白禾の声が自分と同じであることも気にせず、物語にどっぷりと浸っていた。
『少年』を解決した後、ようやくわかったのは、小判以外にも、昼間に自宅で家事を手伝えば現金がもらえて、商店街でプレゼントを買えるということだった。
前回、白禾と「一緒にゲームをやろう」と約束していた佑真は、ゲーム機を持ってきていた。
白禾「来たのね」
今回の巫女さんは最初からお面をつけておらず、素顔をさらしていた。
白禾「これが現世で流行っているゲームなの?」
白禾は佑真の手にあるゲーム機を興味深そうに見つめる。
佑真「流行ってるかはわからないけど、私はこのゲーム結構好きだよ」
そう言いながら佑真はゲームを起動し、『エンドレス・エクスペディション』のタイトル画面が表示された。
「宣伝うまいなぁ」
絢音が笑いながら言った。
:宣伝助かる
:良いゲームだよね
ニナ:このゲーム大好き~
ニナの登場に、リスナー達のチャット欄が盛り上がった。
:ニナちゃんだ!こんばんは~
:ニナちゃんこんるり~
「ニナ、こんばんは、ようこそ~」
絢音は後輩の名前を見つけ、声をかけた。
ニナ:こんばんは、琉璃先輩
白禾「わあ、いっぱい選べる!これは?これはなに?」
巫女さんが興奮気味に質問する。
佑真「これは種族だよ。ほら、好きなの選んでいいよ」
白禾「うーん……じゃあドラゴン族にしよう。現世ではあまりドラゴンって見ないけど、せめてゲームの中で見てみたいな」
そう言って、白禾は迷いなく白いドラゴンを選んだ。
「ん?」
絢音は一種のデジャヴを感じた。
白禾「属性?よくわからないけど、とりあえず氷にしてみるね」
絢音はまさか自分の昔の配信内容が、そのままゲームに使われているとは思っていなかった。
(瞳のやつ、こんな話聞いてないよ!)
ニナ:琉璃先輩の話がゲームに使われてて、羨ましい~
:やっぱり琉璃ちゃんの配信が元ネタなのか
:作者やるな~
「これはちょっと恥ずかしいな……」
やはり、ゲームの中でもあのときの失敗が再現され、ラスボスに敗北する展開に。
白禾「もう一回!もう一回!」
:琉璃ちゃんの反応と全く同じだw
:かわいいw
絢音は羞恥心と、うまく言葉にできない、どこか嬉しさにも似た感情を抑えながら、主人公と白禾が一緒にゲームを楽しむ物語を締めくくった。
場面は夜へと移る。
地図上には新たな【???】という地点が現れた。
絢音がその場所をクリックすると、そこは無数の無縁仏が埋められた、荒れ果てた墓地だった。
:墓地って怖すぎる……
:夜はもちろん、朝でも無理でしょこれ……主人公たちメンタル強すぎ!
「「「こんばんは~」」」
それはフードを被った存在で、フードの下の顔は、少年、少女、男の子、女の子と次々に姿を変えていった。
白禾「あれは応声おうせい、若くして亡くなった子供たちの化身だよ」
佑真「じゃあ、『少年』と似てるんじゃない?」
白禾「いや、応声はとても危険な存在だよ。絶対に気を抜いちゃだめ」
彼らは佑真と白禾を見つめ、声を揃えてこう言った。
「「「一緒に遊ぼう。正解したら君たちの勝ち、間違えたら、我々の一部になれ!」」」
「言い方が怖すぎるけど……まあ、やるしかないか!」
彼らはさまざまな声で“かごめ”を歌いながら、祐真と白禾の周りをくるくると回った。
声が混ざり合い、不気味な輪唱となって響いた。
「かごめかごめ~
籠の中の鳥は~
いついつ出やる~
夜明けの晩に~
鶴と亀が滑った~」
「後ろの正面だあれ?」
「ここは天川社の皆が一緒に収録したやつか。なるほど、こういう使い方なんだね」
:豪華
:耳が幸せ~
佑真「君だ……君が“後ろの正面”だ!」
佑真はピシッと正解を指差した。
正解した瞬間、絢音は思わず胸を撫で下ろし、ほっと息をついた。
「よかった……これ、間違えたらみんなにどう顔向けすればいいか……」
応声を倒した後は、昼は巫女さんといちゃつき、夜は怪談を解決するという、そんな日々がしばらく続いた。
だがある日、絢音が神社をクリックすると、いつも掃除しているはずの白禾の姿がなかった。
「おかしいな、白禾ちゃんは?」
絢音が主人公を操作して神社を見回してみると、林のそばの片隅で、血と土にまみれて倒れている白禾を発見した。
「白禾ちゃん!?」
佑真「白禾さん!よかった……まだ息をしている」
一瞬、最悪の可能性が脳裏をよぎったが、白禾の胸がわずかに上下しているのを見て、佑真は膝から崩れ落ちそうになった。
「……生きてる。よかった……!」
絢音は、物語が大きく動き出す気配を感じた。
:よかった
:白禾ちゃん……
「そろそろ終わりにしようと思ってたけど……気になりすぎて無理!もうちょっとだけ進めちゃおうか」
絢音は時計をちらりと見て、少し迷った末にそう言った。
:ここで終わったら気になって眠れないやつだわ
:賛成~!
佑真は気を失った白禾を社務所へ運び、水とタオルを用意して、彼女の顔についた血や汚れを丁寧に拭った。
白禾「ここは……社務所、かな?」
佑真「よかった、目を覚ましたんだ。大丈夫?」
白禾「なんとか……。ここに連れてきてくれたの、あなた?ありがとう」
佑真「いや、大したことじゃないよ。でも一体何があったの?どうしてあんなところで倒れてたの?」
白禾は少し沈黙してから、決意を込めたように口を開いた。
白禾「仕方ないね……この件、君とも無関係ってわけじゃないし。話すよ」
佑真は緊張しながら彼女の話に耳を傾けた。
白禾「……山神様が、ついに目を覚ましてしまったの」
佑真「山神様? それと君が倒れてたのに何か関係があるの?」
白禾「山神様は普段、神社の裏山で静かに眠っていたんだけど……黄泉の穢れが、神域に入り込んでしまって。神様の眠りを妨げてしまった。
それが原因で、最近あんなに怪異が活発になっていたの」
佑真「黄泉の穢とは?」
白禾「黄泉の穢れは、死者の未練や呪いが形を成したもの、」
白禾によれば、目覚めた山神様は激怒し、その怒りに恐れた怪異たちが山から逃げ出したという。
だが、山から散らばった怪異たちを放っておくのは危険すぎるため、退治しなければならない。
でも今の白禾は霊力を使い果たし、深手も負っているため、しばらくの間は佑真にその役目を託すしかないという。
佑真「でも、私はただの一般人だよ?」
白禾「わかってるよ。不本意だけど……今は、君にしか頼れないの」
白禾「だから、私のお面を貸します」
佑真「お面?」
白禾「それがあれば、私の力の一部を使えるし、猫の店主から買ったお守りもある。きっと何とかなるよ」
「やった! 白禾ちゃんのお面、ゲット!」
絢音はガッツポーズをして、満面の笑みで言った。
:ゲットだぜ!
:白禾ちゃんのお面、まさかの装備アイテム!?
:これで主人公も戦えるようになるのか!胸熱!
こうしてゲームには【裏山】という新たな選択肢が追加された。
そこでは様々な怪異に遭遇し、退治することができる。
まるでRPGのように、戦って経験値を得て、スキルを習得し、自分のステータスを強化していくのだ。
物語は、思っていた以上に深く、そして……危険だった。
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