表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
四作目『狐の巫女と天気雨』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/116

え、自分の声のヒロインを攻略するの?ムリ!

絢音は、最近買ったばかりのゲーム柄Tシャツにショートパンツという格好で、すらりとした脚を無造作にベッドの上でばたばたさせていた。


その光景は、瞳にとってかなり目のやり場に困るものだった。



「絢音、今夜本当に参加しないの?」

瞳はパソコンを見て、後ろの絢音に訊いた。


【狐の巫女と天気雨】の発売に合わせて、瞳は天川社に宣伝を依頼していた。

もともとは、天川社が手伝ってくれた声優の人たちが、今夜一緒にライブ配信をして宣伝する予定だった。


彼女たちへの感謝の気持ちを込めて、瞳はそれぞれがゲームキャラクターの衣装を着た姿を特別に描いていた。

正直、浅海学姉の絵柄に寄せるのは、かなりの時間と労力がかかった。


しかし、どうやら社長が突然ひらめき、このような共同宣伝の効果をどれだけ試せるかを試すことに決め、社内のVTuberが誰でも自由に参加できるようにした。


その結果、今夜は大盛況となった。





絢音はごろごろと転がるのをやめ、突然枕を抱いて顔を隠した。

「うーん…」と苦悩するような声を漏らし、少し恥ずかしそうに目を伏せる。


瞳はその姿を見て、心の中で思わず悲鳴を上げた。

(俺の枕がっ!)

絢音が使ったあとの香りが残ってて、それだけで眠れなくなるってのに……。




だが、絢音はまったく気にせず、枕を抱きしめるようにして無防備に顔を隠した。

「うーん、ライブ配信で、自分とまったく同じ声のヒロインを攻略するなんて」と絢音は顔を赤くしながら言った。

「だって、まるで自分を攻略してるみたいで…テストプレイのときもうそんなに恥ずかしいのに…」


瞳はその無邪気な悩みに、少し戸惑いながらも「それは…確かにな」と答えた。




「うーん、でも、俺が知ってる絢音なら、サムネももう事前に作ってるんじゃない?それに、せっかく描いたんだから、使ってくれと嬉しいなぁ」


「ぐっ!」

絢音は図星を突かれた顔をして、ちょっと苦しそうに悩んでいる。



「……そうだね、瞳があんなに頑張って描いてくれたのに」


絢音は小さく呟き、枕を抱いたまま天井を見つめた。

彼がどれほど時間をかけてイラストを描いてくれたか、絢音は知っている。

それでも、あのキャラの声が自分だという事実が、どうしても受け入れがたかった。



「ああああっ!もう、わかったってば!」

絢音は叫び声と共に枕を放り、勢いよく起き上がった。

「じゃあ、私はもう帰るね!」

「おう、頑張ってね」



夜になり、瞳は琉璃のチャンネルで新しい配信枠「【狐の巫女と天気雨】巫女さんに会いに行くッ!!」を見つけた。


サムネイルは自分で描いたイラストを加工して作成されており、瞳は思わず満足げな笑顔を浮かべた。




:琉璃の巫女服、めっちゃ可愛い!

:新衣装は巫女服に決定!

:巫女!巫女!


(そうだろう、かわいいだろう)

瞳は自慢気に胸を張った。


「みんな、こんるり~、鈴宮琉璃です。」

琉璃の胸の前には、サムネイルと同じように小さくした、巫女服を着て、右側に狐の面を掛けた鈴宮琉璃の立ち絵が置かれていた。



「今日はプレイするのは、【瞳中の景】さんの新作【狐の巫女と天気雨】です!」

と元気な挨拶をするものの、その声にはどこか力が抜けた様子が感じられた。


配信が始まり、最初に琉璃のテンションがあまり高くないことにリスナー達が気づいた。




:こんるり~

:大丈夫?なんか元気ないね

:新作だ!



「だいじょーぶ……たぶんね」

琉璃は冗談めかして笑ったが、その声にいつものハリはなかった。


「もう知っている人もいるかもしれないけど、画面にいる狐のお面をつけた巫女さん、あれ、実は私が声を担当してるんです」




:へーそうなんだ

:知ってます、楽しみだ

:狐のお面の破壊力やばい!



「うん、光栄なことだけど、でも自分の声と全く同じキャラを攻略するのはちょっと…うーん…」


:なんかすごい悩んでるw

:つまり琉璃ちゃんの声するキャラ―を攻略できるってこと?

:主人公=琉璃ちゃん=俺の嫁



「認めたくないけど、そうなりますね」

鈴宮琉璃は「ハハハ……」と力なく笑った。




:うおおおおおおお!

:買います!今買います!




「落ち着いて、みんな、落ち着いて、とりあえずゲームを始めるね」




ゲームの開始ボタンを押すと、鈴の音が鳴り響き、画面が暗闇に包まれた。

その後、ゆっくりと光が差し込み、小さな黄色い点が浮かび上がる。それはシベリアンキャットで、画面をじっと見つめている。


カメラがゆっくりと猫の顔に寄っていき、その瞳が黄黒い光をきらりと反射する。

その瞳の中に、近づいてくる影が映り込み、手が猫に伸びていく。


その瞬間、猫の右目が軽くウィンクをし、リスナーたちは息を呑んだ。




:かわいいいいい!

:いつもと違うね

:なにこれ!なにこれ!



「くっ、なんという破壊力!」


琉璃はまるで重い一撃を受けたかのように倒れ込んだ。


「まさかこんなところに刺客がいるなんて…」




:始まる前から大ダメージw

:これはやってんね




「は…は…なかなかやるじゃん」

琉璃は気を取り直して画面を見た。





画面がゲームの本編に切り替わり、田舎の風景が広がる。

黄金色に輝く田んぼが広がり、遠くには青く霞んだ山々が連なっている。

土でできた小道には、自分の足音だけが響き、まるで時が止まったかのような静けさを感じさせる。


俺は宮崎祐真。ここに来るのは久しぶりだ。


今年、両親と一緒に帰省してきたが、実家にいるのはあまりにも退屈なので、やはり外に出て少しぶらぶらすることにした。



祐真「空気はいいけど、ここ、ほんとに田舎だな。田んぼと木しかねえじゃん」


祐真は少し退屈そうに周りを見渡し、駅からここまで来るのに2時間もかかったことを思い出した。



「2時間はなかなか遠いね」



:本物の田舎はもっとすごいよ


:一日バスが3本だけとか



「バスが一日に3本だけとか、それも意外と多い方だよね」と琉璃がリスナー達と田舎あるあるについて話している。


その間、瞳は他の天川社のライバーたちに、感謝の意を伝えていた。



元々、声優は5人だけで、その5人にはイラストと依頼費が用意されていた。

しかし、社長のおかげで、宣伝する人の数は一気に増え、予想外の配信者も加わった。

このような純粋な善意に対して、ただ「ありがとう」と一言で済ませるのは気が引ける。

そのため、予想外の大きな出費になった。


(でも、なにもしないよりはいい。よし、がんばるぞ!)


瞳は事前に受け取ったライバーリストを見ながら、スーパーチャットを送った人の名前にチェックを付けていった。


(これで漏れがないはず……大丈夫よね?)

と心の中でつぶやきながらも、正直なところ、何度も確認しなければ気が済まなかった。


瞳の顔に疲れが浮かぶが、手は止まることなく、次々とリストを消化していく。


予想外の大きな出費に心が痛むが、それをただの「必要経費」として割り切るしかなかった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

もしよろしければ★★★★★とレビュー、それにブックマークもどうぞ!

励みになりますのでよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ