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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
四作目『狐の巫女と天気雨』

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結衣、あなたの友達なんかやばくない?

七夜夢と契約して一番よかったことは?と聞かれたら、瞳はこう答えるだろう。

「機械的な作業がすごく減ったこと、かな」ってところかな。




たとえば、セリフの収録が終わったあと、それを順番通りにゲームに組み込む作業。

もし瞳がひとりでやっていたら、どれだけ時間がかかったか、想像もつかないだろう。

しかもバグのテスト作業まであるとなれば、もう他のことなんて何もできない状態だった。



でも七夜夢のバックアップがあるから、すごく楽になった。

定期的に進捗をチェックしに行って、ゲームをテストして、想定通りに動いてるか確認するだけでいい。


今日も七夜夢のところへ行って、ゲームの細かいところを調整してきた。

進捗はもう九割くらい。あとはテストして、問題がなければ、発売準備だ。




家に帰った瞳は、ゲームのことを考えながら自分の部屋のドアを開けた。

そこで目に入ったのは、見知らぬ少女の後ろ姿が、なぜか自分の部屋にあった。

ベッドの前でうつ伏せになって、何かを探すようにベッドの下に手を伸ばしている。


……ん?




「部屋、間違えた……?」

瞳は一瞬、自分の目を疑った。


……まさかとは思ったが、見間違いじゃない。

それが理解できた瞬間、反射的にドアを閉めていた。

廊下を見てもう一度確認。うん、間違いなく自分の部屋だね。

はっと我に返って慌ててドアを開けた。




「ちょ、ちょっと待って!君、誰だよ!?」


「もう帰ってきたの?」


少女は何事もなかったかのように立ち上がって、にっこりと笑った。




「おかえりなさい、お兄さん」


瞳はよく見て、前回の収録会で会った少女、西村弥紗が部屋の中にいた。


「……君、西村じゃないか」


「も~兄さんだら、弥紗でいいって言ったのに」

「いや、今はそういう話じゃない、なにしてんの?」


「道に迷いました」


自信満々にうなずいて、まるで自分の家かのようにひょいっと瞳の横をすり抜けていく。



「じゃ、そういうことで。お兄さん、お邪魔しました~」



「いやいやいや、ちょっと待った。なんで俺の部屋にいたのか、ちゃんと説明してから帰ってくれ!」




「ちっ、さすがに誤魔化せなかったか」


弥紗は小さく舌打ちして、でもすぐににっこり笑顔で振り返った。



(いや、聞こえるから……)




「ちょっと気になっただけよ~。……まあ、他にも色々、ね?瞳中之景先生のお部屋って、どんな感じかな~って」


「いや、だからってベッドの下を探る必要ある?何か探してたんじゃないのか?」



「そりゃあ……って、危ない危ない。今、ちょっとえっちなこと言いそうになったじゃん!お兄さんって、意外と策士なんだね~」


弥紗は口元に手を当てて、じとーっと警戒するように瞳を見つめる。




「いやいやいや、小学生かよ。それに、エロ本をベッドの下に隠すって、どんだけ古い発想してんだよ……」

「え?違うの?」

「さすがにそんな人もういないじゃないか?」



瞳は収録中の弥紗の反応を思い出し、少し疑問に思って尋ねた。

「俺、何か悪いことした?なんか君、俺に対してずっと……ちょっと厳しくない?」



弥紗はじっと彼を見つめ、しばらく黙っていた。

その後、彼女の顔から笑顔が消え、低い声で厳しい表情になりながら言った。


「あなたが私の態度に気づいているなら、もう正直に言うわ。私、見たの。」



「……何を?」


「あなたがカフェで、いろんな女の子と会って、話して、楽しそうに笑っているところ。私はてっきり、先生はまともな人だと思ってたのに。」



「……は?何言ってるんだ?違う、誤解だよ!説明させてくれ!」



「ふん、言い訳する気?私はちゃんと見たんだから、今さらなかったことにするつもりか?」



「確かに会ったのは女の子だけど……でも本当に君が考えてるようなことじゃない!」



「なんて汚いの。こんな人が結衣の兄なんて……危険すぎる!」


「汚い……?」



「私は決めたわ」


弥紗は拳を強く握りしめ、目をしっかりと瞳に向けながら言った。


「あなたを改心させて、まともな人間にする!」


「違うんだ、君、まず話を聞いて!」




「弥紗ちゃん?大丈夫?何があったの?」


二人が言い争っていると、結衣は弥紗が戻らないことに気付き、ようやく出てきて探しに来た。


「まずい、結衣ちゃんが来ちゃった……」

「弥紗ちゃん~!あ、お兄ちゃんもいたんだ?二人は……何を話してたの?それにお兄ちゃんの部屋で」



結衣は二人の様子を見て、首をかしげながら不思議そうに尋ねた。


「ふふっ、なんでもないよ。ただね、結衣ちゃんの部屋に飾ってある絵を見て、まさかと思って……もしかしてお兄さんが、あの瞳中之景先生なんじゃないかなって。で、聞いてみたらビンゴだったから、ちょっと話してたの」


弥紗はそう言いながら、こっそりと鋭い視線を瞳に送った。


(違うって言ったら殺されそう)

「はは、そんな感じかな」

瞳は一先ず話を合わせた。



「あー!ごめん、お兄ちゃん、私のミスで」

「いや、別に構わないか」


結衣は両手を合わせて瞳に謝り、それから人差し指を唇に当てて弥紗に言った。


「弥紗ちゃん、これはナイショだからね?」


「もちろんっ!誰にも言わないよ!」


弥紗は顔を赤くしながら、元気よく返事した。




「うん、じゃあ、用が済んだら早く戻ってきてね。ゲーム、まだ途中なんだから!」


そう言って、結衣はリビングへと戻り、冷蔵庫から麦茶を取り出した。




「う、うん……すぐ戻るよ……」

ホラーゲームが待っているのを思い出したのか、弥紗の顔は一気に曇った。



瞳は(これで一旦終わったか……)と思ったその瞬間、結衣が目を離した隙を見て、弥紗がそっと瞳に近づいてきた。

ほとんど顔が触れそうなほどの距離で、瞳を無表情な目でじっと見つめながら、低い声で囁いた。



「さっきのこと、絶対に結衣ちゃんには内緒よ。もしバレたら……私、本当に、自分でも何をするか分からないから」


「お、おう……言わないよ……」

瞳は思わず後ろにのけぞりながら返事した。

「約束だよ」


「弥紗~?」

「はーい、今行くよ」


瞳は弥紗の背中を見つめながら、

(下手ホラーより怖いぞ、この子)

まさか結衣の友達が、ここまで“ヤバい”子だとは……完全に想定外だった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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