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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
旧バージョン
4/85

【弥紗】まだまだ旅は続く!

「どっちを選ぼうかな?」


弥紗が椅子をくるりと回し、カメラに笑顔を向けて言った。

画面には、二つの選択肢がポンと表示される。


体験版はここで終わっていたはず。つまり、この先は完全に未知の世界。

初めて踏み込む領域だ。


:猫の唄、一択

:もちろん弥紗のオリジナル曲でしょ!


「ふふん、さっすが分かってる〜! そうなの、実は私の曲がゲームに使われてるんだよね〜!やったぁ、めっちゃ嬉しい!」


決めポーズをビシッと決めて、誇らしげに拍手する弥紗。


:8888888

:うおおおお、これはガチですごい!


「フルバージョンが聴きたい人は〜? はいっ、私のチャンネルで何回でも聴けますよ〜!……でも今はダメ、配信に集中してっ!」


笑顔全開で、弥紗は「猫の唄」を選ぶ。

まるでステージに立つ前の歌姫のように、深呼吸してキーボードに手を置いた。


「私の華麗なテクニック、見せてあげましょう!」


画面の上から、音符が降ってくる——

しかし、


「……あれ?」


:あっ

:ミスったw


最初のミス。ちょっとだけタイミングがズレた。


弥紗は舌をぺろりと出して、苦笑い。

「ミスっちゃった〜」


「えっ? また!?」


二回目のミス。今度は焦りの色が隠せない。

額にはうっすらと汗が浮かび、指の動きがぎこちなくなる。


「ちょ、ちょっと待って! 待ってってば〜!」


音符の雨に押し流されるように、叫ぶ弥紗。


「待てって言ってるでしょぉーっ!」


演奏終了、結果:ランクA。


:あれ? 弥紗さんって本家……だよね?

:それでもAなのはさすが

:この展開、待ってたw


「う、うるさいなぁ……! 本家だってミスくらいするのっ!」


頬をぷくっと膨らませて抗議する弥紗。


演奏後、新たな選択肢が表示される。


【今夜はもう休む】【もう少し探索する】


「物資もまだ余ってるし……うん、今日はこの辺で切り上げておこうかな」


弥紗は「今夜はもう休む」を選んだ。


「時間もちょうどいいし、そろそろ休もうか」


画面の中、ミュウが微笑んでムウに話しかける。


「じゃあ、最後にもう一回セッションしよう?」


「うん、いいよ」


ムウがギターを手に取り、少女は目を閉じて、そっと息を吸った。


「いーち、にー、さんっ!」


「……あっ」


その瞬間、弥紗は思い出した。

さっきのリズムゲームで、満点じゃなかったことを。


そして流れ始めるギターの音。

案の定、ちょっとズレた伴奏が鳴り響いた。


「いやああああ、やめて〜〜! 殺して〜〜!」


両手で顔を覆って叫ぶ弥紗。その裏では、少しズレた音程の曲が律儀に再生されていた。


:この仕様、リアルすぎて逆に好き

:かわいすぎるw

:事故wwwww

:切り抜き決定


無機質だった世界に、少しずつ色が戻っていく。

瓦礫の壁、崩れかけた天井、そして静かな空。

そこに、わずかな温もりが差し込んでいく。


:この演出、神すぎる……

:センス良すぎて震えた


(さすが先生……)

弥紗は、小さく息をのんだ。

画面に映る光景に、思わず見入ってしまう。


やがて画面が暗転し、ふたりの静かな会話が始まる。


「ねぇ、未来ってどうなると思う?」


「未来……うーん、分かんない。でも、よくなるといいな」


「大丈夫、人間ってね、生きてる限り希望があるの。……ま、私はもう幽霊だけど」


「軽く言うね、それ、全然笑えないんだけど」


弥紗のツッコミが、少し遅れて飛んだ。


:最初ほのぼのだったのに、急に重いんだがw

:笑えない冗談w


朝、ムウは黒猫の頭を撫でた。

黒猫は少し不満そうに「ニャー」と鳴いたが、

缶詰を開けるとすぐに機嫌を直して、ムウにすり寄ってきた。


「いいなぁ、私もちょっと猫飼いたくなっちゃう」

弥紗は羨ましそうに言った。


:現金すぎるw

:猫はほんと癒されるよね

:VTuberでもペット飼ってる人多いよな〜


「うちはダメなの、パパがアレルギーでさ、ペットは飼えないの」


:パパ呼びかわいいw

:それはしかたない


「うるさいな〜! そういう話してる場合じゃないでしょ、今はゲーム!」


弥紗は顔を赤らめながら、配信に戻った。


ムウはゆっくりと朝ごはんを食べ、

ミュウは頬杖をついて、にこにこと彼を見つめていた。


「……なんだよ、そんなに見て」

ムウが少し照れたように言うと、金髪の少女は一瞬きょとんとした後、ふわっと微笑んだ。


「ううん、なんでもない。ただね、ちょっと嬉しくて。誰かと一緒に朝ごはんを食べるの、すごく久しぶりなの」


「……うっ」

弥紗は、こういうのに弱かった。

少女がどれだけ長い時間、一人で過ごしてきたのかを想像すると、思わず涙がこぼれそうになる。


:やばい、泣きそう……

:一緒にご飯食べるって、当たり前じゃないんだよな


食後、しばらく休憩したあと、二人と一匹は再びバイクに乗った。

果てしない空、広大な地平線、心が少し軽くなる景色。


「ロードトリップって、なんか憧れちゃうなぁ」


:それな

:自分もいつか旅に出たい……


そんなふうに弥紗がコメント欄とおしゃべりしていたそのとき、

バイクのエンジンが不穏な音を立て、突然煙を吹き出した。

ゆっくりと道の真ん中で止まっていく。


弥紗はその光景を見て、目を見開いた。


「……えっ?」



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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