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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
四作目『狐の巫女と天気雨』

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VTuberがゲームのキャラクターに声を担当するそうです

ギャルゲーでは、キャラクターに声優をあてるのが一般的だ。

通常は、プロの声優がセリフを担当する。


しかし、宣伝目的や他業種とのコラボを理由に、異なる分野から声優を起用することもある。



当初はヒロインだけに声をつける予定で、絢音に依頼し、天川社からも了承を得ていた。

だが、瞳はふと思った。


(どうせなら、他のキャラクターにも声をつけたほうがいいんじゃないか?)



しかし、ここで一つ問題が浮上する。

瞳には、声優業界へのコネが全くなかったのだ。

絢音は幼馴染じゃなかったら、ヒロインすら頼める相手を知らなかった。



「そうだ、七夜夢に聞いてみよう」


瞳は七夜夢の存在を思い出した、七夜夢はゲーム会社だし、声優事務所のコネくらいあるだろう。


そう考えた瞳は、黒崎にメッセージを送った。


【七夜夢って、声優関係のコネありますか?】


【少々お待ちください】



「社長」

黒崎はメッセージを読み終えて、頭を上げた。


「何かあったのか?」

朝倉が興味深そうに尋ねた。



「長谷川さんからです。声優を紹介してもらえないかと」

黒崎は丁寧に答える。



「ほう……」

朝倉の瞳に、興味の光が宿る。



「新作か?」

「はい、そうみたいです」

「内容を送ってもらう。もし面白そうなら手を貸してもいい」


「承知しました」

黒崎は相変わらず表情一つ変えず、静かにうなずいた。


「いや、待て。もし本人に時間があるなら、直接こちらに来させろ」

朝倉は気を変わって、そう言った。

「了解しました」


黒崎は社長の意向をそのまま瞳に伝えた。




(あの社長に直接話すのか?いや……こっちはお願いする立場だし、行くしかないな)


そう決めた瞳は、すでに用意してあった企画書とゲームの試作版を手に取り、会社へと向かう準備を整えた。



「何度見ても、やっぱり壮観だな……」


受付で名前を告げ、エレベーターに乗ろうとしたそのとき、ちょうど一人の短髪の少女がエレベーターから降りてきた。

小柄で中学生くらいに見える彼女は、リュックを抱えて、うつむきながら歩いている。



(社員の家族かな?でもこんなに小さい子がいるなんて珍しいな)


瞳は少女のことを見て、そんなことをぼんやり考えながらも、瞳の意識はこのあとに控える面会に向いていた。

前回会ったとき、朝倉社長の威圧感が強すぎて、どうしても緊張が抜けない。




瞳は考えごとに夢中になっていたせいで、少女がこちらに真っ直ぐ向かってくるのに気づいてなかった。

ちょうど、彼女も何か考えていたので、二人はそのまま、



ドン、とぶつかってしまった。


「きゃっ」

体重差のせいか、少女はその場に尻もちをついてしまった。




「ご、ごめん!大丈夫だった?」

我に返った瞳は、慌てて手を差し出した。

少女は瞳の手を取って、立ち上がった。

「ありがとう……」


「いや、本当にごめん、ぼーっとしてて……」


「ううん、私も……ちょっと考え事してたの」


「怪我はしてない?」


「うん、大丈夫……」

少女は少し恥ずかしそうに、うつむいたまま小さな声で答えた。




「なら、よかった……あの、じゃあお先に……」



「はい……」


ちょっとしたハプニングのあとで、瞳は最上階に到着した。

受付嬢の内線連絡を経て、社長秘書の黒崎が再び中から迎えに出てきた。

この様子を見て、受付嬢たちは少し驚いた表情を浮かべていた。どうやら、こうした待遇は珍しいようだ。




「こちらへどうぞ」


黒崎はスリムでシャープなスーツを着こなし、軽く瞳にうなずいた。


「ありがとうございます。お手数をおかけしてすみません」


「いえ、これは私の仕事です」



黒崎は社長室のドアをノックし、許可を得た後、瞳を中へ案内した。


「座って。企画書を持ってきた?」


朝倉社長は顔を上げて瞳を一瞥し、すぐさまに本題に入った。

これが朝倉社長が“キャリアウーマン”と呼ばれる理由だろう、と瞳は感じた。



「はい、こちらが企画書です。それとゲームの試作版も作ってきました。まだ未完成ではありますが……」

瞳は慌ててリュックから企画書と、試作版の入ったノートパソコンを取り出した。




「試作版まで?早いわね」


朝倉社長は少し感心したようにうなずき、黒崎から企画書を受け取った。


「ありがとう。じゃあ、まずは企画書を見せてもらうわ」


朝倉社長は企画書を一ページずつ丁寧に読み進め、瞳は緊張しながらその様子をじっと見守った。




あるページで社長が眉をひそめた時は、瞳の心臓が締め付けられるようだったが、その後に小さくうなずいた瞬間には、胸をなで下ろした。



さらに試作版も軽く確認した後、


「なるほど、だいたい把握できた。結論から言うと、悪くない。声優の件は任せるわ」


「ありがとうございます、社長!」


瞳は歓喜に満ちた声を上げた。




「あなたは有能ね。ストーリーはしっかりしているし、細部の設計も悪くない。ただ、正直言って、それだけなら平均的なレベルね。だけど、Vtuberを起用するというアイディアはいい」



「この企画が成功すれば、最低限の利益は確保できるはず。損はしない」



「それと、ヒロインの声は天川社の鈴宮琉璃を起用するのね?しかもキャラデザも鈴宮琉璃を担当しているイラストレーターに頼んでいる。これもいい手だ」


朝倉社長は、瞳と鈴宮琉璃の間に何か関係があるのではと察したが、あえてそれ以上は聞かなかった。




「ヒロイン以外にも、個別ルートが展開できそうなキャラが何人かいるわね。だったら交渉できる。ちょうど天川社とは多少コネがあるから、何人か協力できるか聞いてみる。ただし、ギャラはあなた持ちよ。もちろん、七夜夢と契約してくれるなら、その費用もこっちで持つわ」


瞳は少し考えてから、分配契約を結ぶことを決めた。一定の取り分を支払う代わりに、宣伝や人材確保などの支援を受けるのだ。


何もせずに他人に頼れるほど甘い世界ではないと、瞳はよく分かっていた。




「いい決断ね。黒崎、契約書を用意して」

「かしこまりました」

黒崎さんはうなずいて、契約書を取りに社長室を出ていった。




「契約書を受け取っても、すぐに署名しなくていいわ。一度持ち帰って考えて」


この時、朝倉社長は強引に押し進めることなく、一歩引いた。


自分の提示した条件が業界の中でもトップレベルだという自信があったのと、瞳がまだ未成年であることも考慮してのことだ。




「分かりました。それでは、今日は本当にありがとうございました」


弁護士である母からチェックを受けた後、瞳は後日、署名済みの契約書を手に七夜夢を訪れた。そして、その場で正式に契約が交わされた。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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