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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
三作目『退院』

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君との想い出

瞳と絢音は並んで廊下を歩いていた。

「すごく熱気ね。絢音は何か見たい?」

瞳は行き交う人々を眺めながら尋ねた。どのクラスも工夫を凝らしていて、展示をしているクラスもあれば、食べ物を販売しているクラスもある。


二人は、それぞれメイド服と執事服を着ていたため、道すがら多くの視線を集めていた。


「うーん、そうだな……あ、あのクレープ、美味しそう!」

絢音は周りを見回しながら、ひとつのクラスを選んだ。


「私はイチゴのを一つ。瞳は?」

「じゃあ、チョコレートのをお願いします」

「はいよ、どうぞ~」

二人は店員さんからクレープをもらった。


「ん~甘くて美味しい!」

絢音はクレープを両手で持ち、一口食べてにこっと目を細めた。


「確かに、けっこう美味しいね」

瞳は絢音の幸せそうな顔を見ながら、自分のクレープに一口かじりついた。たしかに悪くなかった。


「そうだ、さっきはありがとうね」

絢音は先ほどの出来事を思い出し、もう一度お礼を言った。


「いや、幸いに相手もそんなにしつこくなかったし、それに、絢音も助けてくれたでしょ?お互い様だよ」

瞳は笑いながら答えた。


「瞳の出会いを邪魔しちゃったって怒らないの?あの二人、けっこう可愛かったよね?」

絢音はチラッと瞳を盗み見た。嫉妬してるのを悟られないように。


「はは、あれはたぶん執事服が珍しいだけだよ」

瞳はあまり気にしていない。もともとゲームに夢中な彼は、そういうことには無頓着だった。

「そうか」


「午後は部活の出店を手伝わなきゃだけど、それまでに他の部活も見て回らない?」

「うんうん、行こう行こう!」

絢音は元気よく答え、部室棟の方へ足を向けた。


校庭を横切ると、瞳は野球部の出店を見かけた。そこでは、九つの的がある投球ボードが設置されていて、当たった数によって景品がもらえるらしい。


「お、佐藤もいるね」

茶髪の少年はユニフォームを着ていて、黙っていれば意外とカッコいいのだが、口を開けば台無しになるタイプだった。


「見に行く?」

絢音は瞳の視線に気づき、尋ねた。


「うーん……やっぱり、やめとこう。邪魔するのも悪いし」

佐藤がショートカットで眼鏡をかけた少女と話しているのを見て、行くのをやめた。


少女は少し嫌そうな表情をしていたが、それでも佐藤と話し続けていた。


「え、あれって委員長じゃない? あの二人って、まさか……」

絢音は信じられない様子だったが、佐藤が投球フォームをとって少女に教えているのを見て、もしかして…という気持ちにもなった。


「どうだろうね。とりあえず行こか、あとやってみたいならまた来よう」

「うん、そうだね」



文化祭を存分に楽しんだ二人は、部室へとやって来た。

「先輩、来ましたよ」


現在、部室にいるのは高野先輩だけだった。二人の姿を見ると、笑顔で立ち上がった。

「おお、ちょうどいいところで。クラスのほうで用事があってね。すみませんが、あとは君たちに任せたよ」


「はい、任せてください」

そう言い残し、先輩はそそくさと去っていった。


「先輩、大丈夫かな?」

絢音が少し心配そうに尋ねた。


「たぶん平気だよ。顔見た感じ、深刻そうじゃなかったし」

「なら良かった」


絢音は部室内を見回した。

元々あったパソコンは一時的に部屋の隅へ移動され、歴代の作品や部誌が展示されている。最新号の部誌も販売中だった。


「瞳、見て見て。けっこう売れてるみたい」

絢音は在庫を確認してから、椅子に腰を下ろした。


「うん、思った以上に人気みたいだね」

瞳も椅子を見つけ、絢音の隣に座った。


「あ、そうそう、前に言ってた、メイド服でお礼するって約束……覚えてる?」

絢音がふいに言い出した。


「あ、うん。そんな話あったね」

瞳は少し動揺しながらも、冷静を装った。


「じゃあ、まずは一緒に写真撮りましょうか」

絢音はスマホを取り出して、瞳のそばに寄った。

その体温が伝わってきて、瞳の心臓は一気に高鳴った。

声を出せば、鼓動の音まで聞こえてしまいそうだった。


「はい、笑って〜」

絢音は連写で何枚も撮影し、ベストショットを真剣に選んでから瞳に送った。


瞳が写真を確認すると、そこには絢音の自撮り写真も混ざっていた。

メイド服姿で、スカートの裾をつまんでお辞儀するポーズだった。


「絢音、これって……?」

瞳は疑問に思って尋ねた。


「それが、お礼の写真。でも、変なことに使っちゃダメだからね?」

「誰がそんなことするか!」

「はは、冗談だよ〜」


ふたりとも、特に何を言うでもなく、ただ静かに時間が過ぎていくのを感じていた。

それが妙に嬉しくて、瞳は少しだけ笑った。

教室内の静けさと、ドアの外からうっすら聞こえる賑やかな声。まるで別世界のようだった。

この穏やかな時間は、お客さんがやって来るまで続いた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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