退院おめでとう!でも……また“誰か”が帰ってくるだろう
テケテケをまいた後、琉璃と天歌は少し休憩した。
そして、琉璃はさきほど手に入れたノートを開いて読んだ。
ノートは誰かの随筆のように見える。
「ここの読み上げは天歌に任せるね」
「わかった、えっと…」
天歌はノートに目を落とし、読み始めた。
【あいつから儀式を教わった後、目的を達成するには、生け贄を捧げる必要があると知った。】
「え?なに?私たちって、生け贄として捕まったのかな?」
天歌の声は少し震えている。
「ああ、だからシオンちゃんの服があんなにボロボロなんだ」
琉璃は冷静に推測した。
【儀式には霊力のある特別な場所が必要だ。でも、そんな場所には心当たりがない。
幸いにも、あいつが直接場所を教えてくれた。
千峰病院、かつてあいつが所属していた教団によって設立されたらしいが、何かの理由で廃院になった。】
:教団って?
:ここはやばい所だなぁ
:あいつって誰?
「へーここが千峰病院だったんだ」
琉璃は「ふむふむ」と頷いた。
「廃院の理由って何だろう?知りたくないけど、すごく気になる」
「気になるよね、それに教団も謎がいっぱい」
【儀式はすでに設置完了、生け贄も準備できた...最近、意識がしばしば途切れ、頭の中で何かの声がずっと話しかけてくる。
ダメだ、ここで倒れるわけにはいかない、まだ叶えていない願いがあるんだ...】
ノートの文字は後半に進むほど、どんどん乱れて狂気を帯びた筆跡に変わっていった。
「お兄ちゃん、ホラーゲームって、必ずこういう『ノート的な物』が出てくるけど、不自然じゃない??」
結衣は思わず愚痴をこぼした。
毎回、黒幕みたいな人が日記を書いて、出来事の経緯を説明している、まるで、自分のやったことを誰かに知らせたいみたい。
「まあ、ストーリーを進めたり、雰囲気を作るには、これが一番手取り早い方法だからさ」
瞳は目をそらして、「ははっ」と乾いた笑い声を漏らした。
琉璃は途中で罠にかかって何度かやられたが、探索は順調に進んでいた。
そして、二度目に出会うテケテケ。
急に廊下に出たテケテケは一瞬止まり、ものすごい勢いで突進してきた。
「出たー!」
天歌は高い声で叫んだ。
「また出た!……え、なんか前より速くない?」
琉璃はキャラクターを操作して振り向き、走り出した。
階段を駆け下り一階に到達した時、真っ正面から、大斧を持った巨人が迫ってきた。
まさに前門の狼、後門の虎。
「もうダメだ……これで終わりだ……!」
天歌は絶望的な表情を浮かべた。
「いや、まだだ!」
琉璃は諦めず、前後からの挟撃の中で生き残る道を探し続けた。
巨人は右手で斧を高く掲げ、力強く振り下ろした。
「えっ……?」
何故か、シオンではなく、斧はテケテケの身体に深く突き刺さった。
テケテケは悲鳴を上げ、一瞬苦しんでもがいた後、動かなくなった。
その隙にシオンは現場から逃げ出した。
テケテケも倒され、いよいよストーリーは終盤に近づく。
「木の板、何かの足場になれそう?うーん、どこだろう?」
琉璃は新たに拾ったアイテムのテキストを読んで考えた。
「たぶん、右の階段なんじゃないの?」
天歌はそう言った。
「よし、行ってみよう!」
琉璃は天歌の言う通りに右の階段に行って、崩落した階段上に木の板を置いた。
板が橋になり、道が通れるようになった。
「できた、天歌ちゃん、天才!でもこれでどうかした?」
琉璃は首を傾げた。右側の階段が通れるだけで、何が変わるんだろう?
その答えは、すぐにやってきた。
背後から響く巨大な咆哮。
気づけば、巨人がシオンの背後に迫っていた。
「やばい、来てる来てる……!」
「大丈夫、逃げられる」
琉璃は冷静にシオンを操作して、木の板を使って逃げることにした。
巨人は迷うことなく追いかけてきたが、
木の板を踏んだ瞬間、巨人の重さに耐えきれず、板が割れた。
巨人はそのまま落下し、鋭い石柱が胸を貫く。
絶叫と共に、手をシオンへと伸ばすが、途中で力尽きたように垂れ下がった。
「……死んだ?」
天歌は恐る恐る尋ねた。
「さすがに死んだじゃない?」
琉璃は巨人の死体に近づく。
【正門のカギ を手に入れた】
「カギだ!やったー!ついに出られたーっ!」
天歌は両手を上げて嬉しそうに叫んだ。
「いや、まだ安心できない」
琉璃は正門に行って、カギを使った。
正門が開いた、やっと廃病院から脱出できる。
:クリアおめでとう!
:クリア?
「クリアおめでとう、ありがとう!お?」
タイトルに【すべての始まり】という選択肢が増えた。
「よし、作業を始めようか」
ここまで見て、瞳は琉璃の配信流しながらパソコンのソフトを起動した。
琉璃は今から事件の真実を探究する。
俺の名前は佐藤勤。
しがないサラリーマンだ。
人生には一つ誇りに思えるものがあるとすれば、俺はあの子の父親だ。
:だれ?
:知らないおじさんだ
「この人は一体?」
琉璃と天歌は首を傾げる、
佐藤勤という中年男性は、これまでのストーリーに一度も登場していない人物だ。
でも、運命は残酷で悪趣味だ。
嫁に止まらず、俺からあの子を奪われた。
まるで悪夢を見ているかのような葬式の時、あいつに出会った。
「娘を生き返らせたいか?」
もちろんだ。娘が戻るなら、何でもする。
「なら、少し手助けしよう。何、簡単なことだ」
:だめだ、それは悪魔の囁きだ!
:このおじさんまさか......
そして、操作キャラクターは佐藤勤に切り替わった。
そこからはまるで別のゲームだった。
まずは病院に忍び込み、娘を轢いた運転手をさらう。
次はストーリーに登場した廃病院で儀式を準備する。
「やっぱり佐藤さんは...」
儀式が完成したとき、佐藤勤はもはや人ではなかった。
彼は巨人となり、右手には運転手を処理したときの斧を握っていた。
最後の意識で、娘からできるだけ遠くに離れようと、病院の奥へと姿を消した。
琉璃は辛そうに読み進めていた。彼女はこういう親子の話に弱いのだ。
天歌もすすり泣いている。
:お父さん;;
:泣いた
:これは、雨だ……涙じゃない
「お兄ちゃん、人の心ってものがないの!?あまりにもひどすぎるよ!」
結衣は不満そうに瞳を睨んでいる。
「でも、ゲームだからさ。この展開、印象に残るでしょ?」
「ふん!お兄ちゃんのバカ!」
「ごめんって、でも娘さんは助かっただろう?」
ゲームのエンディングの最後に「Thank you for playing」、タイトル画面に戻る時に、一瞬ノイズが入り、廃病院の前に立つシオンが一瞬だけ目が赤くなった。
「まだ何があるの?」
結衣は気になって聞いた。
「いや、これで全部。あれは伏線の演出だよ。続編で使うかどうかは未定だけど」
「これで完全クリアかな?楽しかった……っていうのはちょっと違うけど、
天歌ちゃんの悲鳴、たくさん聞けたから私は満足!」
琉璃の顔はすごいニコニコしてる。
「ひどい!?琉璃ちゃんのドS!」
「へへ、それではまた次のホラーコラボにお会いしましょう!締めの挨拶はどうする?」
「次もホラーに決めたの!?私は嫌だよ、えっと、おつセイラるりで?」
「いいね、じゃあ!」
「「おつセイラるり~!またね~」」
「終わった、ってお兄ちゃんは新しいゲーム作ってる?」
「ううん、『ネコ待ちカフェ』のDLCだよ。ゲームモード、ネコの種類、動き、あと新しいお客さんも追加する予定」
これは前作のDLC。プレイヤーからの熱い要望と黒崎さんからの期待もあり、瞳は制作を決めた。
「おお、結構追加するね。でもこれ、お高いでしょう?」
「いや、無料で出そうと思います」
「無料?」
「無料」
「おお、太っ腹だね」
「じゃあ、私お風呂入ってくる。寝るときまた来るからね」
「おう」
結衣はホラーが苦手なので、毎回ホラーを見た、必ず一緒に寝たがる。
なぜ苦手なのにホラーを見るのか?それは絢音の配信だから、
決して、瞳のせいじゃないのだ。
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