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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
三作目『退院』

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【絢音】かわいい女の子の悲鳴って……最高じゃない?

「ねぇ、なんか音しない……?」

歌奈は震える声で、恐る恐る尋ねた。


「してるね……敵かな?」

「はやく隠れないとッ!」


「そうだね」

絢音は冷静にそう返すと、素早くシオンを操作し、サービスカウンターの下に身を隠した。


「ここなら……バレない、かな?」


おそらく身長が二メートルを超えるであろう、ボロボロの衣服をまとい、右手に巨大な斧を持った巨人が、重い足音を響かせながら正面玄関へと近づいてくる。

その斧は地面に擦れ、深く痕を刻んでいた。


:やばそう

:ボスじゃん!?

:でっか


【静かにして】


シオンは息を呑み、両手で自分の口を塞いだ。

画面には「ドクン、ドクン……」という心拍音が響き、視界が徐々に赤くぼやけていく。


足音がだんだん近づくにつれ、心音もどんどん速くなる。

画面越しにも圧迫感が伝わってくるようだった。


巨人は正面玄関の前で一度立ち止まり、何かに気づいたように辺りを見回した。

だが、シオンの姿を見つけることはできなかったようで、そのまま去っていった。



「ぷはっ……行った?」

歌奈はシオンと一緒に息を止めていたようで、顔が真っ赤になっていた。

やっと息を吐き出し、ホッとした表情を浮かべる。


「うーん、鍵がかかってるなら探すしかなさそうだね。先に二階に戻って探索しよう。ここにいると、さっきの奴とまた会いそうで怖いし」

「たしかに」


「あら?こっちの階段は壊れてる……」

廊下の左右にある階段のうち、右側の階段は崩れていて通れなくなっていた。


二人はもう一度、左側のボロボロな階段を上って、二階へ戻った。



「こっちのドアは開かないね」

「こっちも、あきまへん~」


:あきまへん~

:こっちもハズレかぁ


絢音は次々と部屋に入り確認していくが、入れる部屋は全体の半分ほどしかない。


「ここ……手術室かな?」


部屋の中央には黄ばんだ手術台があり、拘束帯がかけられていた。

錆びた手術器具が並んでおり、その中には手術刀も。

床には赤黒く染みついた汚れが広がっていた。


:うわ……

:ここで「なに」がしているかな

:手術刀、武器にならないの?


「そうだね、試してみる……あー、ダメだ。拾えないみたい」

絢音はコメントに応えて行動してみるが、アイテムは見つからなかった。



もう一つの部屋に入ると、中は休憩室のようで、机とソファーが置かれていた。


「おっ、ここに新聞紙がある。どれどれ……」

机の上に置かれていた新聞紙を手に取り、絢音は内容を読んでみた。

「ふむふむ、16歳の少女が事故で亡くなって……犯人は飲酒運転の疑いがあるって。これはアウトですね。飲酒運転、ダメ絶対」


絢音が新聞を読み終えて閉じようとした、その瞬間。


画面が一瞬ブラックアウトした。


ドーンッ!


半透明のナースが、画面いっぱいに現れた。

苦しげな息を吐きながら、手をこちらに伸ばしてくる。


「びっ!?」

「ぎゃああああああっ!」


二人が同時に悲鳴を上げる。

ただし、リアクションの大きさはだいぶ違った。


反射的に、絢音はすぐさまシオンを操作して後ずさりし、ナースの手をギリギリで避ける。

ナースは声にならない叫びを上げながら、霧のように消えていった。


「やるじゃん……びっくりしたよ」


絢音は満足そうに頷いた。


:鼓膜ないなったw

:悲鳴たすかる

:ビビったぁ……


「みんな、少々お待ちください。一旦飲み物を取りに行きます」

飲み物を飲み切った絢音は一声をして、ミュートボタンを押して立ち上がろうとした…が、立ち上がれなかった。


横を見ると、左手が歌奈にぎゅっと握られていたからだ。

歌奈は顔を伏せたまま、体を強張らせていた。


「大丈夫……?」


歌奈は涙目で絢音を見上げ、かすれた声で言う。


「……私、大丈夫そうに見える?」


「えっと……じゃあ、何か飲んで落ち着こっか?大丈夫、すぐそこにあるから」


「うん……」


やっと手を離した歌奈に、絢音は笑顔で冷蔵庫へ向かう。


「冷たいのと常温、どっちがいい?」


部屋の隅にある小さな冷蔵庫を開けながら尋ねる。


「冷たいの、お願いします……」


「どれどれ……お茶、ジャスミンティー、炭酸水、コーラ、コーヒーがあるけど?」


「炭酸水ください」


絢音は炭酸水とジャスミンティーを持って戻り、歌奈に炭酸水を渡した。


「ありがとう……」


一口飲んで、少し落ち着いた表情を見せる歌奈に、絢音が問いかける。


「もう、大丈夫?」


「……うん」


頷く歌奈を確認して、絢音はミュートを解除し、待機画面を閉じた。


「みんな~、お待たせしました!」


:おかえり~!

:飲み物なに飲んでるの?

:今日も尊い……


「今日はジャスミンティーだよ」

「私は炭酸水……」


:水分補給大事

:ジャスミンティーと炭酸水、いいね

:ほうほう



「じゃあ、探索を再開しますね~」


「ちょっと待って、その前に……琉璃ちゃんに聞きたいことがあるの」

歌奈は絢音を呼び止める。


「ん? なに?」


「……どうして、こんなに怖いゲームやってるのに、琉璃ちゃんはあんなに楽しそうなの?」


歌奈は思い返す。

さっきみたいに、すごく怖い場面があっても、絢音は楽しそうに笑っていた。


「実はね……」

絢音は指を口に当てながら、にこにこして話す。

「うん」


「私、ホラーゲームが好きな理由のひとつってね、可愛い女の子の悲鳴を聞くのが楽しいからなんだよね〜」


絢音は少し照れたように笑いながらも、堂々とそう言い切った。

「ほらだって、かわいい女の子の悲鳴って……最高じゃない?」



「……え?」

歌奈は口をボカンと開けて、ただ絢音を見ている。


「だから天歌ちゃんを誘って、一緒にホラーゲームしようと思ったの」


絢音は爽やかな笑顔を見せる。


歌奈の顔は絶望の表情に変えて、しばらく沈黙。


「琉璃がドSだなんて……もっと早く知ってれば……」


「だって、怖がる天歌ちゃんが可愛すぎて……ごめんね」

絢音は手を合わせて、ウインクをした。


:わかる

:可愛い女の子の叫び声からしか得られない栄養があるんだ

:いい趣味してんね!


コメントを見た歌奈は、ついに我慢できず、大きな声で叫んだ

「助けて!リスナーまで変態だ~!」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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