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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
三作目『退院』

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23/116

【絢音】廃病院から退院したいッ!

ゲーム全体のビジュアルはドット絵で、シンプルながら丁寧に作られており、手抜き感はまったくない。


最初は、まるで目を開ける感覚を模したような演出で、画面が点滅しながら徐々に鮮明になっていく。

画面がはっきりすると、亜麻色の長い髪をした少女が地面に倒れており、その周囲には火の灯った白いろうそくが点々と散らばっていた。


「うーん……ここは?」


少女は周囲を見回す。どうやら、長い間放置されていた廃墟のようだ。

自分がなぜここにいるのか、まったく心当たりがない。ただ、全身が痛い。


「主人公は女の子か~。ドット絵、いい感じでかわいいね!」

画面に映る少女を見て「ふむふむ」と、絢音は頷いた。


彼女は小さい頃から、父親がゲームをしている姿をよく見て育った。その影響でゲーム全般が好きだが、どちらかというとレトロゲームの方に思い入れがある。

だから、どこかレトロ感のあるこのゲームは、絢音にとって完全にドストライクだった。


「うん、かわいい……」

隣にいる歌奈も頷きながら同意するが、すでに体半分を絢音の後ろに隠していた。


画面には、天歌が琉璃の後ろにぴったりとくっついて、目を細めながら怯えている様子が映し出される。


今回は絢音がプレイ担当なので、歌奈は基本リアクション係。それでももう半分泣きそうな顔になっているところを見ると、相当ビビっているらしい。


「でも画面、結構暗いなぁ。どう? みんな見えてる?」

絢音は配信画面を確認しながら視聴者に問いかける。


:くっら!?

:何も見えないです……!


「ふむふむ、じゃあ明るさ上げるね~。このくらい? 音量バランスも平気?」


絢音は設定メニューを開いて、明るさを少し上げる。


:調整たすかる!

:ありがとう!見やすくなった!

:音はいい感じです!


「よし、じゃあ何かあったらまた教えてね~。まずは探索探索~」



ほこりだらけの床には、紙くずやゴミが散乱している。

どうやらここは部屋のようだが、窓がないせいでとても暗い。

唯一の光源は白いろうそく。その灯りはどこか葬式を思わせ、不気味さを引き立てている。


視界は狭く、何が画面に映っているのか判別しづらい。その曖昧さが、プレイヤーの神経を少しずつすり減らしていく。

そのことが、さらに不安感を煽ってくる。



「ここ、冒頭に出てきた廃病院かな?」

絢音が画面を見つめながらつぶやく。


「たぶんそうじゃないですか?」

隣の歌奈も、絢音の推測に頷いた。



少し進むと、ろうそくの光に照らされた大きな全身鏡が見えてきた。

近づいて見ると、鏡の表面にはヒビが入っている。


「あ、この鏡はPVで見たことあるよ」

絢音は思い出して言った。

「PV?」

歌奈は少し首を傾げる。

「そうそう、作者さんの同名チャンネル『瞳中の景』にあるよ」

「へー知らなかった」


:へーあれは公式なのか、名前が同じだけと思った

:後で調べみるわ

:そうなのあるんだ?


一旦話を終えて、

亜麻色の髪の少女が鏡に顔を近づけると、そこに映っていたのは、まだ幼さを残した顔つきの、制服姿の少女。

年の頃は16歳くらいで、制服の上には赤黒い染みのようなものがついている。

鏡の右上には、赤く滲んだ文字で「シオン」と書かれていた。


「……どうして私の名前が……こんなところに……?」


:かわいい子だね

:シオンちゃんかわいい!


「へぇ~、シオンちゃんっていうのか。名前までかわい……!?おお」


「ひっ!」


絢音が文字に注目していると、その下の鏡の反射に、

白いナース服を着た長髪の女性が、じっと少女の背後に立っていた。


彼女は何も言わず、陰鬱な目でシオンを見つめている。


シオンが驚いて振り返るが、そこには闇しかなかった。


:ビビった

:シオンちゃんうしろ!うしろ!

:これは夢に出るやつ


絢音も一瞬驚いたが、隣の歌奈は青ざめて、肩をビクッと震わせる。


「だ、大丈夫? 天歌ちゃん……?」


「あんまり大丈夫じゃない……」


歌奈は今にも泣きそうな顔で、絢音の左手をぎゅっと握った。


「私はホラーそのものは平気なんだけど、大きな音が苦手でさ~昔からホラー映画見てても、音でビクッてなっちゃうのよ」


絢音は、なんとかして歌奈の気を紛らわせようと、自分の昔話をしながら微笑む。


:それめっちゃわかる

:音だけで寿命縮むやつね


「私は自分からホラー映画を見たこと、一度もないです……」


「えっ、じゃあ今回の天歌ちゃん、めっちゃレアってこと?」


「なんでちょっと嬉しそうなのよっ!」



ドアを開けると、廊下が続いており、その先には窓があり、部屋の中よりは少し明るく感じる。


廊下の両側には古びた木のドアが並んでいて、それぞれに「内科」「外科」「精神科」といった標識が貼られていた。


「これはもう完全に廃病院だね……」

絢音は画面の背景を見ながら、感想を述べた。

「無人の病院って、ほんと怖いよね……」

歌奈は小さい声で答えた。

「私はそもそも病院が苦手……」

「まぁ、得意な人の方が少ない方だけどね」


「で、どこから探索する?」

絢音が振り返って、歌奈に意見を求める。


「……外に出たいです」

歌奈は今にも泣きそうな声でそう答えた。


:琉璃先生、外に出たいです……

:正論すぎて草



「OK、じゃあまずは下に行ってみよう!」


絢音はシオンを操作して、いったんこのフロアの探索を後回しにし、廊下の奥にある古びた階段を見つけた。

階段はコンクリート製で、すでにところどころ崩れている。年季が入っており、いつ崩れてもおかしくない雰囲気だ。


建物は二階建てで、一階に降りると、二階と似たような構造。左右に部屋が並んでいる。


ただひとつ違うのは、中央に大きなサービスカウンターがあること。

その正面には両開きの玄関ドアがあり、そこから外の光がわずかに差し込んでいた。


「やったー!出口だ! 早く出ましょ、今すぐ!!」

歌奈が不安げな声で、絢音に「早く出よう」と急かす。


「はいはい」

絢音が玄関ドアにシオンを近づけて調べる。


ガチャッ、ガチャッ。

【鍵がかかっている】


:知ってた

:そりゃそうだよねww

:出れるわけないよね~


「だよねぇ~そんなに甘くないよね~」

絢音はうなだれる歌奈の頭をぽんぽんと優しく撫でる。


その時、ゲーム内のBGMが突然ぷつっと途切れ、場の空気が一変した。

静まり返った空間に、どこからともなく「ず……ず……」と、重いものを引きずるような音が聞こえてくる。


その音は、確実に、こちらに近づいていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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