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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
三作目『退院』

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22/116

【絢音】ホラーゲームは一番コラボに適しているもの

清水絢音はVTuberであり、高校生。

今日の配信はすでに決まっていて、幼馴染の瞳が作ったゲームだ。

(本当にすごいなぁ。ゲームを作れるなんて……今回はどんなゲームなのか、楽しみ!)

絢音はプログラム関係が全然ダメだから、ゲームを作れる人を心から尊敬している。


「でも、その前に」

ゲームを始める前に、やらなければならないことがひとつある。

それは、今回のコラボ相手を逃がさないこと。

今回の配信はコラボ形式で行われる。お相手は、同じ事務所に所属するVTuber仲間にして、学校の同級生でもある朝倉歌奈。


ホラーゲームが苦手な歌奈が逃げられないように、絢音は早めに靴箱の前に潜んで待ち伏せていた。

約十分後、小柄な影がそっと校舎の出口へと向かってくる。

乱れたショートヘア、小柄の制服少女はキョロキョロと周囲をうかがいながら、学校から出ようとしてる、明らかにコソコソしているその姿は、まるで警戒心の強い小動物のようだった。


「歌奈、待ってたよ♪」

絢音が爽やかに笑顔で声をかけた。

「ひっ!」


歌奈と呼ばれた少女は、大型の猛獣に見つめられた小動物のように、絢音を見た瞬間、逃げ出そうとしたが絢音にがしっと手を掴まれた。


「さあ、一緒に帰りましょう!ゲームが待ってますよ!」

ずるずると歌奈が引き連れていく。

「やだ!はなして!ホラーなんて絶対無理!」

歌奈は手足をバタバタして、必死に抵抗する。

「もう~諦めが悪いなあ、行くよ!」

「嫌だ~!は~な~し~て~!」




「サムネ、ヨシ!ゲームダウンロード、ヨシ!設定、ヨシ!そしてコラボ相手もヨシ!」

絢音は指差し確認のように一つずつ確認しながら、満足げに頷いた。

「全然よくないですけど!?」

強引に家に連れて帰った歌奈は高い声で抗議する。

「準備はいい?始めるよ」

「待て、まだ心の準備が!?」

絢音は歌奈の悲鳴を無視して、配信ボタンを押した。


「みなさん、こん琉璃~鈴宮琉璃です」

スクリーンに映るのは、絢音がVTuberとして活動している姿、「鈴宮琉璃」。

設定上は20歳でゲーム好きなメガネ少女。

「鈴宮琉璃」は白いワンピースを着て、外側には桜色のショールを羽織っている。

腰まで届くミルク色の髪がふわりと揺れている。


琉璃の後ろに映っているのは、今回配信するゲームのタイトル画面。

それは荒廃した古びた病院のような場所だ。

なぜか、琉璃がこの廃病院にいることに、まったく違和感がない。


「今日プレイするのはこちらっ!【瞳中の景】さんが今日発売した最新作【退院】!」

絢音は視聴者たちのコメントを見ながら、軽く話をする。


:もう怖い

:病院系はやばいって……

:ナースさんが出るかな?


「これはこの会社が初めて出すホラーゲームだから、どんな内容になるのかすごく楽しみだよ。ナースさんが出るかな?うーん、どうだろう?出そうだけと。

まあ、やればわかる。

では、ゲームを始める前に、こちらの方紹介したいと思います。どうぞ!」


「こんばんは.....星来天歌せいら・てんかです」

糸のような細い声で囁く、画面に登場したのは、銀髪に華麗な礼服をまとった歌姫のような少女。

マイクを手にしているその姿は、まるでステージの幕開け直前のアイドルそのもの。


一般人風の琉璃とは対照的に、天歌は“異世界感”が強いVTuber。

彼女の登場に、視聴者のコメントが一気に沸き上がる。

でもよく見ると天歌の顔色が青白い。



:天歌ちゃんだ!やったー!

:こんばんは~

:もうビビってんね?w

:そういえば、天歌ちゃんはホラー苦手なんじゃないの?


「ね、琉璃ちゃん、他のゲームに変えれない?同じ作者なら前作の猫カフェのやつがよくない?」

まだ諦めきれない天歌は、必死にホラーゲームを避けようとする。

「ネコ待ちカフェね、あれは神ゲーだなぁ…猫様がめっちゃかわいい!」

琉璃は「うんうん」目を閉じてうっとりとした表情を浮かべる。

「だよね!だよね!」

「でもダメ~!観念してやりましょう!ポチャっとな!」

「あぁ!」


ゲームの開始ボタンを押すと、暗闇の中に小さな黄色い点が現れる。

カメラがズームインすると、それは淡いクリーム色のシベリアンキャットが座って、画面を見つめている。

カメラがズームインし、猫の黄黒い瞳にフォーカスされる。

その瞳の中に、一人の影が徐々に近づき、猫に手を伸ばしている様子が映し出される。


そして、作者のロゴ【瞳中の景】が画面に浮かび上がる。


:猫ちゃんかわいい

:ネコちゃん、逃げて~!


「毎回このロゴを見ると、まるでホラー映画のような演出に感じるよね。でも、私は結構好きだけど」

「これ、琉璃が飼ってる猫とちょっと似てない?」


:琉璃ちゃんは猫を飼ってるのか

:猫の写真が見たい


「そうね、偶然だね」

絢音は「ははは」と乾いた笑いを漏らし、何事もなかったかのように誤魔化した。

そのロゴは絢音の猫に「似ている」のではない。

毛色が少し違うだけで、ほとんど絢音の猫そのままだった。

瞳がそれを見せてくれたあの瞬間、嬉しさで胸がいっぱいになったのを、絢音は今でも覚えている。

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