最初のゲーム『エンドレス・エクスペディション』
瞳は深夜の静けさの中、ゲームを起動した。今日で最後のテスト。問題がなければ、いよいよ公開だ。
何度見たかわからないタイトル『エンドレス・エクスペディション』が、再び目の前に現れた。
プレイヤーがゲームを始めるたびに新鮮な体験ができるようにと、瞳は八つの種族を用意していた。
人間、オーク、エルフ、アンデッド、ドラゴン、機械生命体、ノーム、そしてジャイアント。
それぞれの種族には独自の能力やスキルが設定されており、その特徴を活かしたプレイスタイルが可能となっている。
例えば人間族は道具とスキルの使用が得意で、HPはやや低めだが攻守のバランスが良く、戦略の幅が広い。一方でドラゴン族は基礎ステータスが高く、圧倒的な力で押し切る戦法が得意だ
キャラクターカードにはHP(体力)、エネルギー、攻撃力、防御力が記載されており、HPがゼロになると敗北。
エネルギーはカードの使用コストであり、ターンごとに満タンに回復する。使い切るとそのターンはもう行動できなくなる
「人間で行こうか」
瞳は慣れた手つきで種族を選び、種族を決めた後は、対応する道具・装備・スキルなどの専用カードを選び、いよいよ冒険の旅へと出発する。
今回選んだ人間族は、HPはやや低めだが道具やスキルが使いやすく、攻守のバランスに優れたバランス型だ。
選んだ種族に応じて、最初に1枚だけ“キャラクターカード”が配られる。
各種族には3枚のカードが用意されており、つまり全部で24種類のキャラクターから選ぶことができる。
表示されたカードには、HP、エネルギー、攻撃力、防御力が記載されていた。
このキャラのHPが0になるとゲームオーバーとなる。
ゲーム内のカードは五つのタイプに分類されている、「道具」「装備」「スキル」「キャラクター」と「パートナー」。
キャラクターカードは、言うまでもなく最初に選んだ自分自身を表すカードだ。
道具は一部は使い捨てだが、基本的にはエネルギー消費なしで、使用回数が決まっている。
装備ならキャラの能力を底上げするバフ系。使うとステータスが永続的に上がる。
スキルは攻撃、防御、回復などの主要なアクションに使われる。エネルギーの消費量は多いが、その分だけ強力な効果を持つ。
最後のパートナーは途中で仲間になるカード。場に出して単独で攻撃でき、エネルギーは初回のみ消費する。
プレイヤーが迷わないよう、瞳はあえてカードの種類を絞っていた。
バトルが始まると、最初のターンで5枚のカードが配られる。以降、毎ターンごとに新たに5枚を引く仕組み。使用済みの道具カードは「除外エリア」へ送られ、再利用できない。未使用のカードやスキルカードは「捨て札エリア」に移動し、山札が尽きたら捨て札をシャッフルして再構築される。
ステージは七つのタイプが設定されており、それぞれに独自のテーマと世界観がある。
数十種類にも及ぶランダムな能力効果が組み合わさり、各ステージの敵が構成される。
これらの能力効果の設定には、瞳がかなりの時間を費やした。夢の中でもその内容を考えていた時期さえあった。
「今回はうまくいくといいけど」
以前、敵のHPを削るはずの効果が、なぜか自分にダメージを与えてしまうことがあった。
また、ボスが必死にプレイヤーを回復してしまうという奇妙なバグも経験した。
幸いなことに、それらの問題はすべて修正済みだった。
「絢音にも感謝しないとね」
開発初期の段階では、絢音が何度かテストプレイを手伝ってくれた。
その後、瞳は一時的に絢音の協力を断った。
申し訳ないという気持ちもあったし、なにより絢音にはバグのない、純粋に楽しめるゲームを遊んでほしかったからだ。
「えぇ……そんな~」
だが、絢音は瞳の気持ちをあまり理解してくれなかったようで、むくれながら文句を言っていた。
今でも絢音の顔を思い出すと微笑む。
「うーん、どっちを選ぼうか」
瞳はステージを選び、最初のノードに進む。
マップ上には、敵アイコン、?マーク、キャンプの炎などが点在している。
平均して、一つのステージには雑魚敵が2体、エリートモンスターが2体、中継キャンプが1つ、イベントが3つという構成だが、具体的な配置はランダムで決定される。ただし、全ての種類が必ず一度は出現する。
「最初は雑魚戦だな。……お、亡骸の剣士か」
今回のステージは不死者の国なので、敵もすべて不死族だ。
亡骸の剣士 HP:15
チュートリアルの戦闘が始まり、手札として5枚のカードが配られた。
『装備カード:革のブーツ』『スキル:斬撃』『スキル:防御姿勢』『道具:エール瓶』『装備:軽盾』
「まずはブーツで敏捷+1、盾で防御力アップ……」
装備カードは手札から出すと、すぐに効果が反映される。
ステータスが更新され、キャラクターカードの数値がわずかに上がった。
「で、斬撃で攻撃……消費エネルギーは2。よし、ギリギリ足りる」
エネルギーは毎ターン満タンに回復するが、使い切るとそのターンは何もできなくなる。
だからカードをどう使うかが戦略になる。
敵を倒すと、画面に「アビリティ抽出」のウィンドウが表示される。
3つまで選んで、自分のデッキに組み込むことができる。
雑魚敵の強さは非常に低く、基本的に1ターンでスキルを使い、次のターンで攻撃するだけ。
1~2ターンで簡単に倒せるように、プレイヤーがリラックスしながら進める存在として設計されている。
「今回のドロップは…骨の加護、死者の目覚め、腐食の刃か。うーん、加護だけもらっておこう」
これがゲームの肝だ。
敵が持っているアビリティを奪って、自分のデッキに組み込んでいく。
つまり「戦って学ぶ」スタイル。
「……特に問題はないな」
瞳は肩の力を抜いて、マップに戻った。
敵の強さ、ノード構成、イベントの発生率……細かい調整は必要だが、ゲームの骨組みはできている。
次のノードはイベント、アイコンがぽつりと光っている。
ステージのボスはそのエリアで最もHPが多く、アビリティの効果も非常に強力。
そして最後の最終ボスは、プレイヤーがこれまで集めてきたワードと“正反対”の構成で登場する。
もしプレイヤーが全体攻撃型で来たなら、ボスは単体攻撃特化型になる、といった具合だ。
テストを一通り終えて問題がなかったことを確認すると、瞳は深呼吸を数回繰り返し、ゲームのパッケージをコンパイルして配信プラットフォームにアップロードした。
進行バーがゆっくりと上がり、「公開完了」のポップアップが表示された。
瞳はしばらく画面を見つめて黙っていた。
ロケット打ち上げのカウントダウンのような高揚感を想像していたが──実際には、ただシステム音が「ピンポン」と鳴っただけだった。
瞳はウィンドウを閉じ、スマートフォンを手に取る。
画面は真っ白で、通知もメッセージも何も届いていなかった。
ダウンロード数の「0」を見つめたまま、瞳はしばらく動けなかった。
顎に手を当てたまま、瞳ぽつりと呟いた。
「……本当に、遊んでくれる人なんているのか?」
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