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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
二作目『ネコ待ちカフェ』

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決断

現場では確かに朝倉社長の圧倒的な雰囲気に飲まれてしまい、瞳は少し茫然としたまま家へ帰った。

「瞳、大丈夫?」

心配して、わざわざ瞳の家まで来てくれた絢音が、まるで魂が抜けたみたいな瞳を、心配そうに見つめた

「平気。ちょっと…考えたいだけ」

瞳は手を軽く振りながら、さっきカフェで起きたことを絢音に話した。


「えっ!? 瞳のゲームをパクろうとしてる人がいるの!? ひどすぎる!」

絢音は憤りを隠せなかった。


「まあ、この業界ってもともとそんなもんだからね。私だって、あのゲームを完全にオリジナルだとは言えないし」

瞳は苦笑しながら答えた。

「そうかもしれないけど、それでも…」

絢音は納得できない様子だったが、瞳が軽く彼女の肩に手を置くと、不思議と心が落ち着いた。

「心配してくれてありがとう」



「そういえば朝倉って、うちの隣のクラスにも朝倉さんって子がいるけど…まさか社長の姪だったりするのかな?」

「もしそうだったら、この世界って狭すぎるよね」

二人は顔を見合わせて笑った。少し雑談をした後、絢音は真剣な表情で言った。

「じゃあ、私はそろそろ帰るね。でも、何かあったらすぐ連絡してよ?」

「うん、ありがとう」


絢音が帰った後、瞳は一人でしばらく考え込んだ。

そして両親と話し合った末に、ついに決心を固めた。

次に会う時、朝倉社長は会社の住所を瞳に直接伝えてきた。


地図を頼りに辿り着いたのは、新しく建てられたビル。

見上げた瞳は、その大きさに思わず口を開けたまま立ち尽くした。

最上階まで上がると、なんと朝倉社長がフロア全体を借り切っていることにさらに驚かされた。


「こんにちは、朝倉社長とお約束していた長谷川瞳です」

「はい、少々お待ちくださいませ」

受付の女性に説明すると、彼女は名簿を確認し、瞳の名前を見つけるとすぐに内線をかけた。

ほどなくして、前回も会った秘書・黒崎凛が小走りでやって来た。

「こちらへどうぞ。社長がお待ちです」

黒崎とともに社長室へ向かう途中、背後から受付の女性たちのひそひそ話が聞こえてきた。

「すごく若いイケメン…一体誰?」

「社長の親戚とかじゃない?」

「でも名字が違うよ?」

「もしかして…お嬢様のクラスメートとか?」


「どうぞ、こちらです」

黒崎が案内したのは、立派なドアのある部屋で、そこには「社長室」と書かれていた。彼女が軽くノックすると、「どうぞ」という声が中から聞こえた。

「失礼します」

「ありがとう」

少し緊張しながら中へ入ると、朝倉社長が席に座っており、机の上には書類とノートパソコンが置かれていた。

「座ってください」

社長の合図で、瞳は来客用のソファに腰を下ろした。

「決心はついた?」

「はい」


瞳は、朝倉社長が提示した二つの選択肢のどちらも選ばなかった。

代わりに、第三の案を提示した。


それは、まず自作の『エンドレス・エクスペディション』を使って、一度コラボレーションとして試してみるというもの。

具体的には、販売収益の一部を七夜夢と分配し、その代わりに七夜夢側が宣伝・販売の面でサポートを行う、という提案だった。


いきなり売却や専属契約を結ぶのではなく、まずは一度協力してみて、その成果を見てから次を考える──そんな慎重ながらも前向きなアプローチだった。


一度協力してみて成果を見た上で、今後のことを決めようという形だ。そして瞳は現在進行中の第二作『ネコ待ちカフェ』の企画書も朝倉社長に渡した。



朝倉社長は、瞳の提案した協力案を受け入れると答えた。

そして新作についても、「人手が必要なら、こちらで手配することもできる」と申し出てくれた。


瞳は少し考え込み、丁寧に答えた


「……制作の過程も、自分にとっては大切な成長の一部なんです。なので、まずは自分一人で挑戦してみたいです」


すると朝倉は、わずかに目を細め、静かにうなずいた


「……いい心構えね。でも、もし手が足りなくなったら、いつでも黒崎に連絡して」


その言葉とともに、微かに柔らかい微笑みを見せる。


朝倉の懐の深さに、瞳は少し戸惑いすら感じた。

しかし、こういう大きな器こそが、朝倉社長が若くして業界で名を上げられた理由なのだろう。


瞳が退出した後、黒崎はついに疑問を口にした。

「社長、僭越ながらお尋ねします。その子にそこまでの代償を払う価値が、本当にあるのでしょうか?」

今回交わした契約は、七夜夢にとって赤字にはならないかもしれないが、利益はほとんど見込めないものだった。


「一番大事なのは人材よ。お金なんて、才能ある人間に比べたら何の価値もないわ。それに、もしこの賭けに負けても、大した損にはならない。だったら、最初から気前よくした方がいいでしょう?」


「勉強になりました」

黒崎は感服した様子で頭を下げた。


新作ゲームの開発に専念する、平穏で充実した日々がしばらく続いた。


そしてある日。

「大変だよ、瞳! 君のゲーム、いっぱいパクられてる!」

絢音が息を切らしながら、慌てた様子で駆け寄ってきた。


「うん。……前に朝倉社長にあの企画書を見せられたときから、こうなる予感はしてた」


実際、あの企画書に載っていたゲームだけじゃなかった。

同じようなコンセプト、似たような画面構成、システムを持ったゲームが一気に増えた。


中には評判の良いタイトルもあったが、大半は話題にもならず、静かに市場から消えていった。

「何とかできないのか?」

「できないよ」


「でも、それでいいの? 見てるだけなんて……やっぱり悔しいよ」

絢音は納得がいかないように眉をひそめる。


「それも仕方ないさ。あまりにひどいのは、七夜夢が対処するだろうけど、

“似たゲーム”程度じゃ、どうにもならない。母さんにも確認したけど、法的にはグレーなんだって」


“オマージュ”と“パクリ”の線引きは曖昧だ。

この程度のことで騒ぎ立てても、意味はない。結局、自分がもっと面白いものを作るしかない。

「今、一番大事なのは……新作をちゃんと完成させることだよ」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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