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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
一作目『エンドレス・エクスペディション』
16/98

テストプレイ

瞳は絢音を自分の部屋に連れて行った。家には他に誰もいなかったが、絢音は特に気にする様子もなかった。

二人は十年以上の付き合いで、中学三年の時に少し連絡が減っただけで、それ以前はほぼ毎週のように瞳の家に遊びに来ていた。


「どうぞ」

瞳はベッドを指差して絢音に座るよう促し、自分は先にパソコンの電源を入れた。


「はいはい~それで、どんなゲームなの?」

絢音は瞳のベッドに腰を下ろし、枕を手に取って、あごの下にぎゅっと抱え込んだ。

瞳はその動作を一瞥しただけで特に何も言わず、少し考えてから答えた。


「さっきも少し話したけど、今回はローグライクのカードゲームで、魔王を倒す勇者の冒険がテーマなんだ」


「勇者か〜、いいね、聞いただけでワクワクしてきた!」

絢音は何度も頷いた。瞳は、絢音が昔から男の子っぽい趣味で、戦いや冒険が好きだったのを思い出して、思わず微笑みがこぼれた。

「まずは種族選択から。プレイヤーが選べる種族を8つ用意してみた」

そう言って瞳は、デスクトップにある「テスト版1.07」と書かれたアイコンをクリックした。


「おぉ、8つも!?すごいね」

絢音はその数に驚いた。


ゲームが起動すると、最初に画面に小さな黄色い点が暗闇の中に現れる。

カメラがズームインすると、それは淡いクリーム色のシベリアンキャットが座ってこちらを見つめている。

さらにズームインすると、猫の黄黒い瞳にフォーカスが合い、その瞳の中に一人の人影が猫に手を差し伸べている姿が映し出される。


そして、製作者のロゴ【瞳中の景】が画面に浮かび上がる。


「かわいい!……あれ?この猫、なんかうちのムーに似てない?」

ロゴが表示された瞬間、絢音は興奮気味に叫んだ。


「あっ、えっと、それは……」

実はこの猫は、瞳が絢音の家の猫を参考にして、色を少しだけ変えてデザインしたものだった。

まさか本人に気づかれるとは思わなかったので、瞳は少し気恥ずかしくなった。

瞳は猫が大好きだったが、父親が猫アレルギーで飼えなかったため、せめてロゴに猫の要素を入れようと思ったのだ。


「私は別にいいけどさ。あ、そうだ、このロゴの動画ってファイルある?スマホに入れて見たいな」

「わかった、後で送るよ」

「ありがとう!」

絢音は嬉しそうに枕をぎゅっと抱きしめた。瞳は何か言いかけたが、言葉を飲み込んだ。


その後、少しインクのにじんだような雰囲気で『エンドレス・エクスペディション』というタイトルが浮かび上がる。


「『エンドレス・エクスペディション』……中二っぽいけど、私は好きよ」


「知ってる。あぁ、先に言っとくけど、これまだテスト段階だから、問題も結構多いよ」

瞳はあらかじめ釘を刺してから説明を続けた。

「このゲームにはいくつかの大きなステージがあって、それぞれのステージにはイベント、ショップ、休憩ポイント、敵が配置されたノードがいくつかあるんだ。敵を倒すと、その敵のアビリティを自分のカードに付けられるようになってる」

「自分のカードって?」

「うん。このゲームはアイテム、装備、スキル、キャラ、仲間の五種類のカードがあって、カードを手に入れた後は、敵を倒すことでアビリティをどのカードにも自由に追加できるんだ」

「ふむふむ」

「ただ、今の問題はね、前回使った構成が『HP削り型』だったんだけど、魔王がやたらこっちを回復してくるの。バグかな?」

瞳はため息交じりに言った。


「そんなことある?魔王が優しすぎません?」

「うん、それじゃ面白くないから、今いろいろ調整してるとこ」

「ねえねえ、今ちょっとプレイしてみてもいい?」

絢音はワクワクした様子で聞いた。

「うーん……まぁ、いいか」

瞳は席を譲り、絢音はすぐに枕を離して座り込んだ。


「じゃあ、始めるね」

「うん」


絢音がゲーム開始を選ぶと、まず種族選択の画面が表示された。

「わっ、人間に獣人、エルフにドラゴン……えっ、8種類もあるの!? すごい!」

目移りした絢音は、瞳の方を振り返って尋ねた。


「おすすめは?」

「バランスがいいのは人間かな?各種族の上に特徴が書いてあるから、好きなの選んで」

「うーん……じゃあ、人間にしますね」

瞳のアドバイス通り、人間を選ぶと、三枚のカードが表示された。


「うん、これにしよう」

絢音は見た目で気に入った戦士を選び、森林ステージを選択。

しかし最初の敵に出会った瞬間、大ダメージを受けてHPの半分以上を失い、次の敵であっさりゲームオーバー。


「これ、敵強すぎない?」

高難度ゲームが好きな絢音ですら思わず文句を言った。

「そうかも。やっぱり、数値設定が高すぎたかも。後で調整するよ」

瞳は苦笑しながら答えた。


絢音が悔しそうに何度も再挑戦しているのを見て、瞳はふと思い出した。

「そういえば絢音、由紀さんたちに、うちに来るって言ってあった?」

絢音の母親、由紀さんは、「おばさん」呼びを嫌がるので、瞳は名前で呼んでいる。

「あっ、しまった、忘れてた!」

絢音は慌ててスマホを取り出し、未読メッセージがたくさんあるのを見て青ざめた。


「じゃあ、もう帰るね!次は絶対クリアするから、覚えてろよ〜!」

「それは、俺がちゃんと調整終わってからね」

「じゃあ、またね!」

絢音は急いで立ち上がり、玄関に向かいながら電話をかけた。

「ママ、うん、瞳のとこでゲームしてた。今帰るね、うん」


瞳は絢音の背中を見送りながら、苦笑して頭を振った。

「まったく……全然変わってないなぁ」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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