部活
放課後の部室では、四人それぞれが自分の作業に没頭していた。
瞳は本棚からプログラミングの参考書を取り出して読んでおり、絢音はパソコンを借りて何かの調べ物をしている様子だった。
しばらくの付き合いの中で、瞳はゲーム研究部の先輩二人について、少しずつ理解を深めていた。
高野先輩はゲーム機でまた別のレトロゲームを遊んでいた。
部長である高野先輩は、温厚な性格の大柄な人で、いつも笑顔を絶やさず、レトロゲームを好んでプレイしている。
驚くべきことに、多くの古いゲーム機の修理を独学で習得し、実際に修理してしまうほどのハードウェアの天才だった。
もう一人の田中先輩とも、最近ようやく会話を交わせるようになった。
「こ、こんにちは。ごめんね、つい周りのことを忘れちゃって、無視してたわけじゃないの」
丸い眼鏡をかけた田中先輩は三つ編みをしており、少し口下手ながらも、よく見ると整った顔立ちの美人だった。
高野先輩によると、田中先輩はゲーム音楽の作曲が得意で、すでに仕事として案件を受けているとのこと。
今日も彼女はヘッドホンをつけて、自分の世界に没頭していた。
四人は特に会話を交わさなくても、気まずい雰囲気になることはなかった。
「そうだ、文化祭まではまだ時間があるけど、先に伝えておくね」
高野部長が何か思い出したように手を止め、話し始めた。
「うちの研究部では、毎学期少なくとも一つ研究レポートを提出して、それを文化祭で発表するんだ。
だから、今のうちに自分の研究テーマを考えておくといいよ。質問があれば、いつでも聞いてね」
「了解です。ありがとうございます、先輩」
「焦らなくていいから、じっくり考えてね」
部活が終わった帰り道、絢音が瞳の隣で話しかけてきた。
「瞳は何をやるの?またゲームでも作るの?」
「うーん……もし同時に二本作ることになったら、ちょっと手が回らないかも」
瞳は少し考えながら答えた。
「えっ、もう次のゲームを作り始めたの?早いね」
絢音は驚いた様子で、瞳の前作が終わってからあまり時間が経っていないことに気づいた。
「いや、まだ考え中なだけだよ、何を作るかは決めてない。絢音は?」
瞳が尋ねると、絢音は人差し指を唇に当てて「うーん」と唸った。
「私はたぶん、ゲームの攻略や感想を書くかな」
「いいね、楽しみにしてるよ」
瞳は本当に絢音がどんな攻略を書くのか興味があった。
絢音は疑うように瞳を見たが、嫌味ではないとわかると、にこっと笑った。
「任せて」
「そうだ、前の配信見たよ」
瞳が何気なく言うと、絢音は周囲をキョロキョロ見回し、声を潜めて言った。
「しっ、周りにうちの学校の人がいるかもしれないじゃん」
「ごめんごめん」
瞳も慌てて声をひそめた。
「絢音がプレイしてるのを見たら、面白そうだったから、俺も買って遊んでみたよ」
「本当?どこまで進んだの?」
絢音は目を大きく見開き、興奮気味に尋ねた。
「あなたには敵わないよ、こっちはまだ第一夜で苦戦中なんだから」
瞳は苦笑した。もともとゲームの腕はそれほど良くなかったし、最近は次に作るゲームの構想を練り始めていて、じっくりプレイする時間もなかった。
「でも本当に面白いよね。どの敵もどの作品から来たのか分かる感じで、まるでオールスターが勢ぞろいしているみたいで、すごく豪華だった」
「うん、でもあのワンちゃんはつよすぎません?」
「確かに、三体に分かれるなんて反則でしょ」
絢音はぶつぶつ文句を言いながらも、その目には強敵に立ち向かうことへの興奮の光が宿っていた。
二人は、どの雑魚が特に厄介だったかとか、どのボスがどのゲームから来たように見えるかなど、楽しそうに語り合った。
「そういえば、ムーの姿、しばらく見てないなぁ。最近元気?」
ムーは絢音の家で飼っている猫で、瞳にもよく懐いていた。でも中学三年になってからは、瞳は絢音の部屋には行っていなかった。
今となっては、絢音が自分で配信をしていることをバレないように、そうしているだけをわかった。
「ムーは元気だよ、というか元気すぎるっていうか。ほら、これ見て」
絢音は困ったような、でも愛しそうな笑みを浮かべながら、スマホの画面を見せた。そこには部屋の中を走り回る黄色い影が映っていた。
「はは、変わってないね」
瞳も思わず笑みを浮かべた。
「今日は配信があるから無理だけど、今度また時間を見つけてムーに会いに来てよ」
絢音はそう言って、瞳を誘った。
「あぁ、もちろん」
絢音に別れを告げて、瞳は自分の部屋に戻った。
瞳の頭の中には、考えるべき二つのことがあった。
ひとつは部活の研究、もうひとつは次のゲームで何を作るか。
「うーん……これからどうしようかな」
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