いつも、あなたの一番でありたい
ゲームをプレゼントするなら、まずは形にしないといけない。
瞳はモニターに向かい、ひたすら作業を続けていた。
今回のゲームは二つのパートで構成されている。
本編のホラーアドベンチャーに加え、VTuberとしてデビューしたばかりの先輩のために、VTuber用のキャラメイクシステムも実装する予定だった。
ライブ配信で自分なりのVか、配信者のモデルを導入できるようにして、没入感を高める――それが瞳の狙いだ。
だが、背後からじっと注がれる視線が瞳を集中させない。
怨めしそうなほどの視線だった。
「……どうしたの?」
振り返ると、絢音がベッドの上で自分の枕を抱きしめて座っていた。
特に怒っているようでもないが、どこか拗ねたような表情をしている。
「別に、なんでもないよ」
絢音はそう言うが、目線は逸らさない。
瞳はしばらく見つめ返したが、何も言ってくれそうにないと判断し、
「わかった。もし俺にできることがあったら、ちゃんと言ってね」
そう言って再び作業に戻った。
「……そんなの、言えるわけないじゃん。」
枕に顔をうずめながら、絢音は小さく呟いた。
「瞳のゲーム、いつも一番に遊びたいなんて」
「そうだ、ゲームはまだ途中だけど、先に先輩に連絡しておこうかな」
瞳がコードを打つ手を止めて言った。
「晴香先輩に? なんて言うの?」
「もちろん、ゲームのこと。せっかくだから先輩に先行配信してもらおうと思ってる。
新しいゲームの配信で視聴者を集めるのもいいけど、やっぱり本人の気持ちも大事だし」
もしかしたら、本人は嫌かもしれないし
「なるほどね」
絢音がうなずく。
瞳は浅海先輩にメッセージを送り、「VTuberを題材にしたホラーゲームを作っていて、配信してもらえたら嬉しい」と伝えた。
すぐに既読が付き、返ってきたのは――「?」の一文字。
その直後、スマホが震え、電話がかかってきた。
画面には「浅海先輩」の名前。
「先輩、こんばんは」
「こんばんは、長谷川くん。さっきのメッセージ、どういう意味?」
受話器の向こうから聞こえてきた声は、実際の外見よりもずっと若々しく、まるで少女のようだった。
「先輩、最近VTuberとしてデビューしたじゃないですか?」
「……知ってたの? まさか配信まで見たの?」
「えっと、はい。いけませんでしたか?」
少しの沈黙。息を整えるような音が聞こえてきた後、
「……まあ、いいわ。続けて」
「はい。絢音がスーパーチャット送ってたの見て、自分も何かしたいなって。
それで、先輩にこの新作を初めてプレイしてもらえたらと思って」
「そんな、大げさな……別に気にしなくていいのに」
「いえ、狐の巫女のときも先輩にはすごくお世話になったので」
「それは普通の依頼だっただけよ」
瞳は首を振るように言った。
絢音の頼みで、忙しい中キャラデザインを引き受けてくれた恩を、彼は今も忘れていなかった。
「……で、そのゲームって、ホラーなの?」
「はい。VTuber要素を盛り込んだホラーゲームです」
「……それが、私への“お礼”ってわけ?」
小さく何かを呟いたが、瞳には聞き取れなかった。
「え? 今、何か言いました?」
「ううん、なんでもない。気持ちは嬉しいわ」
「それならよかった」
少しの間が空いたあと、浅海先輩の声が柔らかくなった。
「……長谷川くん」
「はい?」
「もしよければ、絢音ちゃんと一緒に配信してもいいかしら?」
「えっと、僕は構いませんけど……本人にも聞いてみます」
「えっ、絢音ちゃん、今そっちにいるの?」
「はい」
「こんな夜に?」
「……はい?」
「ふーん、なるほどね。それじゃ、聞いてみて」
瞳は後ろを振り返り、
「絢音、先輩が一緒に配信したいって。どう思う?」
「えっ、一緒に!?」
目を丸くした絢音は、次の瞬間、勢いよく身を乗り出した。
「もちろん! 大歓迎だよ!」
「先輩、絢音も賛成です」
電話の向こうから、抑えきれない笑い声が混じった声が返ってきた。
「わかったわ。じゃあ詳細はまた今度ね。今は……お邪魔しないでおく」
「え? お邪魔って、先輩? ちょっと待っ――」
通話はそこで切れた。
「どうかしたの?」
絢音が首をかしげる。
「うーん、なんでもない。……ゲーム作り、続けるよ」
「うん!頑張ってね~」
キーボードの音が部屋に戻る。
その後ろで、絢音の鼻歌が小さく響く。
その穏やかな声に、瞳の口元が自然と緩んだ。
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