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9. エイリアンコミュニケーション

 コミュニケーションというものは、純粋に経験に比例して練度が増すものである。

 自分の言いたいことをそのまま相手に伝えて相手の反応を見る。または相手に言われたことにより自分がどう反応するかを見る。不快そうな反応があれば、それはコミュニケーションとして間違っているのだ。

 この経験をひたすらに繰り返すことにより、相手も自分も不快にならないよう立ち回るようになる。この言動は相手を不快にさせる可能性があるから、言わない/言い換えるといった判断の正確性は、必然的にその経験量に大きく影響を受けるわけだ。


 近年、若者のコミュニケーション能力の低下が嘆かれている。オンラインで様々な人と関わりを持つ代わりに、言葉以外の、表情や動作など、円滑なコミュニケーションに必要な情報が得られないという現代の状況は、自分の言動による相手の反応を認知不可能にし、内省するタイミングがないまま経験を回すという悪循環に貢献してしまっている。


 と、コミュニケーション能力が別に高くもない者が解説しているわけだが…。とにかく、たとえ同じ年齢だったとしても、それまでの経験量が違えば、若しくは経験⇆内省サイクルの効率が違えば、コミュニケーション能力にも差が出てくるわけだ。


 杉本唯奈すぎもとゆいなは、そのサイクルの効率が異常と感じるほど高い。幼・小・中と来て、クラスは違えど高校まで一緒になり、ここまで関わってきたわけだが、行く先行く先で数多の友人を作り、その各々から厚い信頼を得る彼女を見る度に、同期の俺は横でプライドをズタズタにされてきた。

 ただ、途中からは羨望や嫉妬ではなく、その異常性への恐怖を覚えるようにもなっていた。朝出会った人と夕方には旧知の仲かのように話す彼女は、俺から見たらエイリアンにも等しかった。結果、少しずつ避けてしまうようになり、中学の途中から一度も話していなかったわけだが…。


「都合がいいかもしれないが、ダメ元で聞いてみるか…」


 LINEのトーク画面を開き、少し相談したい旨を伝える。正直、返事は返ってこないかと思っていたが、ものの数秒で既読になった。驚くのも束の間、俺のスマホは猛烈な勢いで振動し始めた。え、電話?


「はい、もしもし、俺だけどーー」


「信呉!いまどこ?!」


「え、今屋上にいーー」


「屋上ね!すぐ行くから待ってて!」


 …なんて勢いと行動力なんだ…。こんな俺にもここまでしてくれることにありがたみを感じる一方で、誰にでもこんな行動力なら少し心配にもなるな…。

 ん?なんかものすごい物音するんだけど、これは一体なんーー


「信呉!急に相談事なんてどうしたの!あんな畏まったLINE送るような仲じゃないじゃんかー!私たち幼馴染じゃん!」


 屋上の扉を開けるなり、唯奈のマシンガントークが炸裂した。俺の体は穴だらけだよ。


「いや、最近は話すこともなかったしさ…。俺と話してるのって噂になると迷惑になるし…」


「いや、信呉と話しててもなにも迷惑じゃないし、いや、てか、むしろ私は信呉ともっと話したいっていうかその…」


「ん?なんか言ったか?」


「え?!いや、全然!何も言ってないよー」


 俺なんかにも優しくしてくれて、本当に底抜けのいい奴なんだよな…。捻くれてる俺には近寄らないよほんと。


「千葉君、忘れられているようで、少し不快よ。この人は私たちの話に関係のある方なのかしら」


 おっと、忘れるところだった。唯奈を呼んだ目的は、宇郷萌乃に他人との関わり方を教えるためだった。


「宇郷さん、任せて。俺の人選に狂いはないから」


 きょとんとする唯奈を他所に、宇郷萌乃のコミュニケーション能力向上計画が幕を開けたのであった。

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