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8. その笑顔、凶器につき

 これまでのざっくりとした流れを整理してみよう。

 「氷の女帝」こと宇郷萌乃にご指名いただいたことで厄介ごとに巻き込まれる俺。先日、最大の難関である完璧なデートプランを遂行し、さらには彼女を暴漢から身を挺して守るというファインプレーまだ見せたというわけである。

 我ながら主人公みたいなムーブしてんな。いや、でも俺はもはや少し調子に乗っていいところまで来ているんじゃないか?デートの最後にはあの、宇郷萌乃の笑顔まで拝めたんだ。これはもう俺にもついに「青春」ってやつが来ちゃうのではーー


「だから、前にも言ったけどその気色の悪い顔はやめて頂戴。一緒にいる私の価値まで大幅に下げる大罪を犯していることを、千葉君はもっと自覚するべきだわ」


 うん、知ってた。知ってたよ。だから「青春」ってやつは嫌いなんだ。あっち行けこの野郎。


 今、俺たちは屋上で昼食を食べている。あのデート以降、大きく変化したのはこれだろう。どうやらあの日以降、宇郷萌乃の中で俺は「人畜無害な変わり者」から「人畜無害な友人」にランクアップしたようで、毎日屋上で一緒に昼食をとるようになっている。

 こうなったのは、宇郷萌乃からの新たな課題が発表されたからである。


「私のことについて、千葉君と同じようにレポートを書いてきたわ。これを読んで、千葉君なりに私の悪いところを指摘して頂戴」


 とのことだ。そんなもの読まずとも、まずそのデフォルトで高圧的な態度と悪意がないとしたら大問題な口調を直すべきだとは思うが、それをそのまま伝えると「人畜有害な変わり者」に大幅ランクダウンしそうなのでやめておいた。

 こんな背景があり、昼休憩に集まってレポートの感想と今後の改善点について話をしているところなのだ。


「レポート自体の出来は俺なんかと比べ物にならないくらいよく書けてると思う。ただ、このレポートにも片鱗が見え隠れしてるけど、宇郷さんの態度というか、若干上から目線っていうのかな?言い方は難しいけど、近寄り難い雰囲気あるんだよね。相手へ近づこうとすることは、感情を理解するきっかけにもなるんじゃないかな」


 最近気づき始めたが、俺はオブラートに包むというのが他人よりも苦手らしい。もうちょい優しめに伝えたかったのだが…。


「気を遣わなくて大丈夫よ。つまり、私が高圧的で仲良くなろうと思えない、ということね」


 That's right!俺はそれが言いたかったんだよ!さすが秀才、宇郷萌乃。1を聞いて10を知るなんて朝飯前なわけだ。


「それで、私はどんな対策をすれば他人と近づくことができるのかしら?」


「うーん、やっぱりまずは笑顔じゃない?しかめっ面してる人と仲良くなろうとは思えないし」


「そんなの簡単だわ。私のことを馬鹿にしているの?」


 流石にこれに関しては彼女が正しいな。笑顔になれなんて、幼稚園児だってできることだし。別の案でも出して様子をーー


「…え?その…一応聞くけど、それ、笑ってる?」


 今、俺の目の前では宇郷萌乃が笑っているような顔をしている。笑顔と言い切れないのは、俺はこんな笑顔を知らないからだ。口角は上がっている。だが、目が笑っていない。鋭い眼光と不自然に上がった口角。夜中に見かけたら漏らすこと必至だろこんなの。


「笑顔、というのは口角を上げれば出来ると聞いたから、それを実践してみたのだけど…何か変かしら?」


 だめだ、この人自分のことを何一つ客観視できてない…。知識だけあって実践したことない頭でっかちだ…。このレベルの人に俺は何を教えればいいんだ…。


 だが、侮られては困る。俺は日々成長しているんだ。こういう時は適材適所、その道のプロを召喚するに限る。

 俺はスマホを出す。正直こいつの力は頼りたくないんだが…。LINEを開き、母親、宇郷萌乃以外の最後の女子のトークを開く。「杉本唯奈すぎもとゆいな」、俗に言う、俺の幼馴染だ。

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