4. デュエル開始!
俺たちは集合場所を発ち、電車に乗った。高校から少し離れた繁華街へ向かうために。
今、決闘の火花は切って落とされた。落とされはしたのだが…
「宇郷さん、それは一体、何をしてるんです?」
「?何って、英単語を暗記しているに決まっているじゃない」
前言撤回。この人は決闘だなんて微塵も思ってないわ。決闘の火花は湿気てました。点いた瞬間消えちゃったよ。
電車に乗ってから約10分、隣の俺には目もくれず、宇郷萌乃は英単語帳と睨めっこをしていた。徹哉、せっかくお前と2時間かけて練ったプラン、システム英単語に負けちゃったみたいだよ。
結局、宇郷萌乃の英語学習 in the train は、目的の駅に着くまで続いた。この移動の間に、彼女は50単語ほど暗記したらしい。横で見ていた俺は5単語も覚えてないんですけどね…
電車を降りると、流石の彼女も単語帳を鞄に入れ直した。さあ、気を取り直して、俺と徹哉のパーフェクトデートプランを遂行していくとしますか!
「千葉君、あなたのプランでは、これからどこへ行くのかしら」
「ここら辺にあるおしゃれなパスタ屋さんを知ってるんだ。ちょうどお昼時だし、そこにしようと思って」
「あ、パスタ…分かったわ、行きましょう」
ん?一瞬顔が曇った気がしたが、気のせいだろうか…。多分、気のせいだろう。あまりにも俺とは思えないおしゃれな店のチョイスに面食らっただけだ。
徹哉曰く
「パスタとか、聞いただけでもオシャレだろ。ここなら店内も落ち着いた雰囲気だし、内装も少し凝ってるから、パスタ含めてインスタ映えもするしな」
だそうだ。ごめん、徹哉、俺インスタはキラキラしすぎてて、目に毒なんだ。Twitterの仲間たちは裏切らねえよ…
事前に地図を頭に叩き込んだこともあり、目的の店には迷うことなく辿り着けた。
徹哉の言う通り、インテリアは落ち着いた雰囲気に customize されており、他の table のお客様も、どこか気品に満ちているようだ。おっと失礼。あまりにもおしゃれなもんだから、さっき覚えた English が飛び出しちまったぜ。
「千葉君にしてはいいお店を選ぶのね。少し驚いたわ」
サイボーグ女帝様もお気に召したようだ。まずはジャブってところかな。
俺たちは一番奥の2人席に案内された。2人が見えるよう真ん中にメニューを開く。
「ここの店は、ミートスパゲッティが有名なんだ」
もちろん、徹哉からの受け売りである。様々なおしゃれパスタ屋さんを渡り歩いてきた彼でも、ここのミートスパゲッティを超えるものはないらしい。トマトの酸味は少し強いが、ひき肉から出る旨みがそれをマイルドにしてくれるのだとか。
「そうなのね。なら、店員を呼んで頂戴」
「了解です!すいませーん、注文お願いします」
すぐに近くにいた店員さんがやってくる。注文を聞く時でさえ笑顔を絶やさない。眩しすぎて目が潰れそうだよ…。
「み、ミートスパゲッティを2ーー」
「ミートスパゲッティ1つと、きのこのクリームパスタを1つ、頂けるかしら」
…?あれれえ、おっかしいぞー?さっきのってミートスパゲッティ2つ頼む流れじゃなかったかい?
キョトンとしている俺には目もくれず、畏まりました、と言って店員さんは奥へ戻っていった。
「え、その、有名なのミートスパゲッティなんだけど…」
あまりにも自然にきのこクリームパスタを頼んだ彼女に、つい口を出してしまった。いや、だって、きのこクリームパスタにはミート要素もトマト要素もないじゃん。全部違うじゃん。
「私、昨日の夕飯がミートスパゲッティだったのよ。2日連続で食べるのは気が乗らないじゃない?」
あーそういう…。だからパスタって聞いて微妙な顔してたのね…。徹哉、俺たちは間違ったみたいだ…。
その後、俺たちは少し重苦しい空気の中、それぞれのパスタを平らげた。ミートスパゲッティは、確かに美味しかった。2日連続で食べたいとは、確かに思わなかった…。