一人だけで
「幽霊って知ってる?幽霊。そんなこと誰でも知ってるっ!!って?そうだね〜知ってるよね。うんうん。」
君の近くで、小さな女の子が近づきながら口をパクパクと動かす。
ちょっと、だけ不気味にニヤっと笑うと、君から離れる。
「やだなぁ...私が幽霊だと思ってるの?人聞きの悪い人ね。」
僕の目には、少女しか見えない。
なぜか、ぼんやりと...そう、薄ぼんやりと淡く輝いているから
「あれれ?私から、目が離せなくなっちゃってる?ふふふ、そんなに困ったような顔をしないでよ。もう。私がなにかすると思ってるの?」
小さな女の子。髪をツインテールでまとめた女の子は、ぷっくりと頬を膨らませて腕を組む。
「大体ね。あなたが、迷ったのよ?あなたがっ!!私悪くないもんね〜」
そう言って、どこかへと歩こうとする少女に、僕はそっと手を伸ばす。
こんな真っ暗な空間に置いてかれて、置いていかないで欲しいから
そう思うと、いきなり首が有り得ない方向に曲がり僕を見つめる。まるで嬉しそうにニヤニヤと笑い出す。
「ん?なに?私のことさっきまで、どっか遠くへと追いやろうとしてたのに、ちょっと離れようとしたらすぐそんな風に困ったような顔をするんだから...」
手を伸ばそうとしたことを、今更ながら後悔する。
そう言って、首を手で戻して、僕の方へと戻ってくる。いい子なのかな...と、思う一方で、なんだか不気味な人を引き止めてしまったかもしれないと後悔する。
「私はね。悪魔って呼ばれてるのよ。昔から...今まで...ずっと....ね。」
首がいきなり曲がる女の子を悪魔と呼ばずしてなんというか...
「ふふ、そんな風には見えないって顔してる。でしょ?私って、結構可愛いから...やっぱり、人気ものって困るなぁ」
両手をほっぺにつけて、クネクネと腰を動かす。
「だから...一つだけ、忠告私のこと...誰かを暴こうとしないで?それだけは、約束させて?うん。よし、いいってことだね。」
何も言っていない。
「いやぁ...たまにね?いるんだよね。人との約束を守らない人。ほら、鶴のお話もそうでしょ?見つけちゃったら、逃げちゃうんだから」
そういうと、手を伸ばして羽ばたくような風に見せる女の子。
少しだけそうやって遊んでいるフリをすると、いきなりやめて、僕の方へと戻ってくる。
「あのね。実は、私....一人が寂しかったんだよね。」
そう言って、モジモジと手をつつかせる。チラチラと僕の方を見てくるのが、可愛らしいと不覚にも思ってしまう。
「だから、その...ねぇ。私の話を聞いてくれる?自分の話って、あんまり聞いてくれるものじゃないじゃん?みんな、人を見てるようで、見てないんだもん」
ツインテールをピョコピョコさせながら、少しだけ飛んで僕の近くに寄ってくる。
そして、耳元で...秘密の話だからね。と声をかける。
「うん。秘密守ってね。ここに来た人みんな初めては、怖がるんだよね。ガクガクブルブルって。おかしいよね。笑っちゃう。私の顔を見て、ひぇええ!!って言って、走って逃げちゃう。」
こんな小さな女の子のどこに怖がる必要が、あるのかな。
「だからね。君だけなんだよね。ここに居ようとしてくれる人....嬉しいんだよね。結構。もう、嬉しすぎて、ニコニコしちゃうもん。」
ニコッと、屈託のない笑顔を見せる少女。なんだか、そう言われると、僕も嬉しいな。
「あ、そうだ。こんなもの見せてあげる。」
そういうと、パチリと指を鳴らして、小さな青い炎が浮かび上がらせる。そうして、またパチリパチリと青い炎を浮かばせる。
ゆらゆらと浮かぶそれは、少女の周りをグルグルと回る。
「この炎は、私のお気に入りなの...こうやって、クルクルしてるとなんだか、私だけじゃないみたいな気分になるの」
ゆらゆらと浮かぶそれを、僕は見つめていた。
「あ...後ろに、付けたままの炎が残ってた。ごめんね。取りに行ってくるから...あー、この青い炎たち見てる?可愛いでしょ?そんな1人じゃ嫌だみたいな顔しないでよ。ちょっとだけだからっ」
そういうと、少女は奥に浮かんでいる青い炎を取りに行く。
僕の周りに青い炎が集まる。くるくると、僕の周りを回っていて、とても楽しそうだ。
「もう、勝手にどっか言っちゃダメでしょ?君は...もう、あー、いやなんでもないわ。とにかく、ダメっ!!」
君を見ていた私は、少女に握られる。そうして、青い炎は消えた。
「ふぅ...あ、ごめんごめん。遅れちゃったよね。ん?そう。ちょっとしたトラブルだよ?手品師だって、見せたらいけないものを、見せちゃう時だってあるでしょ?私幼いから、すぐこういうことしちゃうんだよね。」
ふと....急に、寒気が襲う。
なにか得体のしれない、恐怖のようなものを感じる。
「あれ?あれれれ?嘘だよね。こんなところで、終わらないよね?私なにもしてないよ?」
足が、動かない。
腕も動かない。
冷や汗が、僕の額をつうっと、流れる。
「大丈夫だよ〜なにもしないって。」
声が、できない。
そもそも、僕はなんで、こんなところにいるのだろうか。
「あらら.....数分も持たなかったね。残念。」
くらい闇の中を、どうにか目を動かして、なにか僕を思い出すようなものを見つけようと、ぐるぐると当たりを見回す。
少女が、一歩二歩と僕の元へと近づいてくる。
カチカチカチカチ
なにかを打つような音が、聞こえる。
カチカチカチカチ
僕は必死になって、音の根源を探す。
右?いや、左?それとも、奥?いや...どれも違う。
どの方向にも、音の根源があるような気がしない。
後ちょっとで、見つかりそうな気がしたところで、出会った時のように視界一杯に彼女の顔が、見える。
揃えた前髪がおでこに、触れ...じっと、青い瞳が、僕の目をじっと見つめる。
「ねぇねぇ、お兄さん。私のことを見てよ。私の事を」
温かさなんて、感じない。
少女の瞳は、無機質でなにを見ているのか分からない。いや、それ以前に、僕のことを見ていない。
少女の目線の先が気になる。
「見たい?私の見てるもの?」
カチカチカチカチ....音がよりいっそう早くなる。
「見たいの?」
見た、、、、、
いと思う前に、僕の手がなにか暖かくなる。
僕じゃない別の誰かが手を握ってくれてるみたい。
「はぁああああ。つまんないの〜」
そういうと、彼女は僕から離れ、少しだけ距離を取る。
「私ね。一番この世の中でつまらないことって、誰かと一緒にいることだと思うのよね。あなたが、誰かと一緒にいることで、自分の気持ちを大事にしなくなっちゃう。」
少女は、僕へと振り返らない。まるで、別の誰かに向かって語りかけているよう。
「君、死にたいんだよね?」
ゴクッと、なにかを飲み込む。
背筋がぞっとする。
「ずっと、ずっと言ってたもんね。死にたいって...だから、迎えに来てあげたのに、なんでかな?結局はさぁ、口先だけだよね。みんなみんなさ」
僕は、少女をただ呆然と見つめるだけだった。
僕の足元がなにか光っていた。
そこには、僕が寝ている。
じゃあ、この子はなんなのか。
「幽霊だって、言ってるじゃん。もう、あっち行ってバイバイ」
そう言ったあとで...僕は少女を見ることはなかった。
「ふふ....私の、こと知ろうとしたよね......」