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第3話『アイドルのSNSなんですが』

「よーっし、始めるぞぉ」


 自分の部屋、机の上に勉強道具を広げて意気込む。

 

 まずはダンジョンについて。


 問1。

 ダンジョンに入れるような人達をなんと呼び、その資格を取得することが可能になる年齢を答えよ。


 答。

 探索者、16歳。


「ふふんっ。ここは私のターンね」


 問2。

 探索者を職業にしている人達は、どうやってお金を稼いでいますか。


 答。

 魔鏡石を集め、それをギルド関連施設で魔鏡石をお金に換金してもらう。


「いつも私がやっていることだもの。間違えるはずがないわ」


 問3。

 問1にて回答した仕事をしている人達は、どのようにしてダンジョン内にいるモンスターと対峙しますか。


 答。

 武器を使って――。


「あれ、武器は武器なんだけど、あれ? あれあれ? 授業でもやったし、探索者育成学校でも習ったのに……マズい」


 探索者になって大体3ヶ月が経過した。


 ダンジョンに潜る時って、鬱憤を晴らすためってのが第一目的だったから、ほぼ全部が流れの中でやっていた。

 だから、最初の2週間ぐらいは全部を意識してやっていたけど、それ以降は体に染み付いた動作をほぼ無意識にやっていたからほとんど覚えていない。


 どれだけ悩んでも、頭を前後左右に振っても答えは降りてこず。


「あーもう、こうなったらぁ」


 勉強の時は必ずサイレントモードにして、通知音が鳴らないようにしているけど……こうなったら仕方がない!

 机の端ギリギリに置いてあるスマホを手にとってアプリを開く。


『やっほー美姫! 助けて〜課題でわからないところがあるのっ』


 と、送信。


 検索した方が答えを探すのは早いかもしれない。

 だけど、今はなんでかわからないけど友達の美姫とやりとりをしたい気分になってしまった。


『なになに〜? 珍しいじゃない。今、大丈夫?』

『うん、大丈夫だよ』


 すぐに返信。

 すると着信。


「え、急にどうしたの? びっくりしちゃった」

美夜(みや)が助けを求めてくるなんて珍しいって思ったのと、どうせなら話したいなぁって思ってかけちゃった」

「あは〜ん。さては美姫(みき)、寂しがり屋さんだなぁ〜?」

「何を言ってるのよ。つい数時間前まで顔を合わせて話をしてたじゃない」

「そりゃそうだった」


 空いてる左手でこつんっと自分の頭を優しく小突く。


「それで、どこがわからないんだって?」

「あ、そうそう」


 急いでスピーカーモードにして、スマホスタンドにスマホを立てかける。


「えっと、今日の共通課題なんだけど」

「はいはいっと」


 美姫(みき)も準備を始めてくれる。

 スピーカー越しにガサガサッゴトッという音が聞こえてきた。


「一応言っておくけど、私の回答が全部正解しているとは限らないからね?」

「大丈夫大丈夫。美姫が間違ってるはずないじゃん」

「ははーん。大きく出たわね」


 事実、美姫は常に学年トップ10に入り続ける猛者だから間違ってはいない。

 それに、自分なりに努力しているつもりでも、私の学年順位は真ん中から少し下。


 わからないからといってすぐに答えを聞くような真似かもしれないけど、そんな優秀な友へ完全に甘えるわけではない。


「最初から三番目のところなんだけど」

「探索者関連のところ?」

「そうそう。いんやぁ、お恥ずかしながらド忘れしてしまいまして」

美夜(みや)ねぇ。つい数ヶ月前に探索者試験を合格したんでしょ? それだったら私より詳しいはずじゃない」

「あいや〜返す言葉もありません」

「まあしょうがないわよ。忙しいんだし」

「……ありがとう」


 全部言われなくたってわかる。

 美姫は、私が高校生とアイドルと探索者を兼業していることを唯一知っているから。

 だから、こうして文句を言いながらも私に付き合ってくれたり、気を遣ってくれる。


 その優しさが恋しくて、私も誰かに甘えていいんだって、そう思い出させてくれるから美姫に連絡しちゃったのかも……ね。


「ただで教えてもらえると思うなよ〜?」

「じょ、条件はどのようになさいますかお嬢様」

「そうだね〜。じゃあ、私と遊べぇ〜私をもっと構うのじゃぁ〜」

「ははぁーっ。お嬢様の仰せのままに」


 カメラをONにしていないから絶対に見えてないけど、スマホを美姫と見立てて頭を深々と下げ――机に付けた。




「ほうほうなるほどなるほど」


 美姫に教えてもらった内容を記入し終え、納得する。


「ダンジョン内に限り多量の魔力が放出されていて、それを操作できるようになった人達が探索者になれる、と」

「そうそう。そんな感じに出来事と名称を紐づけたりして覚えるといいよ」

「ダンスと似てるっ」

「ほほぉ。それはそれで興味深い答えが返ってきましたな」


 美姫に解説されて思い出した。

 そもそも人間誰しも、ダンジョンからこぼれ出る魔力に被魔していて、ほとんど全ての人間が武器を生成できる。

 だけど、魔力をどうやって扱えばいいのかはコツが必要で、それを訓練したり勉強したりするのが探索者育成学校。


 忘れちゃいけないことをスッポリと忘れてしまっていた。


 これじゃダメだよね。

 忙しいからって、覚えることが沢山あるからって、これじゃあ全部が中途半端になっちゃってる。


 美姫との通話が終わったら、ちゃんと復習もしなくっちゃ。


「これでとりあえず、全部の解説が終わったね」

「手伝ってもらって本当にありがとうございました」

「いいのいいの。あ、でも……今共通課題をやっているってことは、選択課題はまだってことだよね?」

「うぐっ」


 今日は、二種類の課題が提出されていた。

 一つはさっきやった共通課題。

 二つ目は残っている選択課題。


 ちなみに共通課題は美姫に解説してもらいながら自分でも考えた結果、無事に終わることができた。

 だけど……。


「まあそうだよね。しょうがない、美夜の友人――美姫様が最後までお付き合いしてあげよう」

「いいの……?」

「お安い御用よ。美姫様は、美夜成分が不足しているのだから存分に補給させるがよいぞ~」

「ふふっ、なにそれ。――ははーっ、存分に吸収していってくださいませぇ」


 そんな可笑しなやりとりをするものだから、2人して笑いに笑った。


「まあでも、一回休憩しよ。頭を使ったからちょっと疲れたでしょ」

「うん、実は疲れちゃった」

「でしょ、私はなんでもお見通しなのである」


 こんな変な喋り方をしているけど、なんでだろう……美姫になら、素直になれる。

 いや違う。

 美姫にしか素直にこんなことを言えない。


 誰にも見せられない、弱い私。


「そういえば、SNSってどんな調子なの? 最近始めてみたって言ってなかった?」

「あー……今のところは惨敗」

「なるほどねぇ。やっぱり、今のままだとフォロワー数は伸びないって感じかぁ」

「うん、昨日見た時は3人だった。しかも、ファンの人っていうよりは、捨てアカなのか本アカなのかわからない人だけ。アイドルのSNSなんですがねぇ~」

「まだまだこれからよ。ごめんね、力になれなくて」

「いいよいいよ。気にしてくれるだけでありがたいよ」


 美姫は、SNSをやっていない。

 やろうとしていない人を強制的に始めてもらってまで数字を伸ばしたくないから、やらない理由も聞かないようにしている。

 何か理由があるかもしれないし。


 でも、本音を言えば大切な友達だからこそ、私の成長していく姿を見てもらいたい――という思いだけは拭えないでいるのも事実。


 だけどやっぱり、無理強いするのは良くない、よね。


「あ、休憩時間がちょっと長引いちゃったね。明日も早朝ランニングなんでしょ?」

「うん」

「今は21時――よし、頭は疲れるかもしれないけど、急ピッチで課題を終わらせちゃお」

「いいね。そのおかげでぐっすりと眠れそう」

「じゃあ始めるよー。覚悟しなさーい」

「よろしくお願いします、先生」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初は人気があんまりないと成長を見れるからいいよね それと読者としての意見(?)だけど、フォロワーの数だとかyoutubeだったら配信時の同接数、チャンネル登録者数が段々上がってるのを書…
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