表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/10

第八話 王妃を断罪する 後編

 エグルストン夫妻は散々迷いっからかして狼狽(うろた)えた。呪い、大罪、保身……。

 ちらちらと王妃の方を見る。


「王家の血の(けが)れ……」

 国王が低く(つぶや)いた。


 エグルストン夫妻は心を決めた。

 もう国王の疑いの目の前で、今更嘘をついても仕方がないと思ったようだ。

「すみません。育ててやれなかったひどい親だけれども、みすみす我が子が不幸になると分かっていて保身には走れません。国王陛下、王太子殿下は私たちの子です。本当に私たちの子なのです。王妃様に強く言われて……一族の命令でもありましたし……身代わりに差し出しました。王妃様に頼まれたこととはいえ、詐欺に関わった事は偽りようがございません。私たちは死罪になっても構いません。しかし、王太子殿下に、我が子には罪はございません。どうか王太子殿下だけは見逃してやってはくれませんか」


 国王は戸惑った。

 話の流れ上そうなることは薄々分かってはいたが、やはりはっきりと宣言されてはひどくショックで、心が痛んだ。

「そうであったか……」

 そう(つぶや)くのが精いっぱいだった。


 王妃はエグルストン夫妻の告白に顔を覆い、「ああ」と声にならない声を漏らした。


 そこへ、今までずっと沈黙を守り通してきた王太子がつかつかと足早にやってきた。


「王太子よ……」

国王が低く(うめ)いた。


 王太子は青い顔をしていたが、国王夫妻よりはよっぽど冷静だった。


 王太子は、王妃の前に仁王立ちになった。

「驚いてはいるが、やはりそうかという感がぬぐえません。あなたは私がまだ幼い頃、『本当の子じゃないから出来が悪くても仕方がない』と何度も言った。私が幼すぎて理解していないと思っていたのでしょう? 私は理解していました。そして苦しんでいた。なぜそんなことを言うのかと。母だと疑わなかったから。しかし合点がいった。あなたは本当の母じゃなかった。そういうことですね?」


 ……王妃は王太子に引導を渡されてしまった。

 自らの過失だ。悔やんでも仕方がない。

 王妃の頭の中は状況処理に追いつかず、膝から崩れ落ちてそのまま気を失ってしまった。お付きの者たちが慌てて介抱に駆け寄る。


 そして王太子はエグルストン夫妻を振り返った。

「母上、いえ、王妃様に言われたとはいえ、あなた方がしでかしたことは天地を揺るがすほど大変なものだ。しかし……最後にこうして身を(てい)して、私が呪われるのを回避しようとしてくれたこと、私は愛情と思って忘れないだろう」


 エグルストン夫妻は顔を覆った。


 そのとき国王が不意に私の方を向いた。

「ソフィア・サザーランドよ。おまえはマリーグレースの孫だと言ったね? もしかしてなのだが、私や王妃を呪ったのはマリーグレースなのかね?」


 私は少し思案した。ここで祖母の罪を認めることは得策だろうかと思った。

 否。

 何も良いことはない。後で各方面から怒られるのは、私一人で十分だ。

 だから私は答えた。

「まさか。そんな方だと思います?」


 国王は首を横に振った。

「いや、そんな女だとは思わない。マリーグレースはできた女だった。間違ってもそんなことをする女ではないな」

 国王は独り言のように(つぶや)いた。

 しかしふと言葉を止めた。何か気付いた事があったようだ。

「しかし、もしこれがマリーグレースの呪いだというのなら、私は彼女をだいぶ誤解していたことになるな。物分かりのよい、人形のような女だと思っていた。私には彼女が対等な人間には思えなかった。どこか浮世離れした、近づきがたい、天女のような女だと思っていた。……まだ生きているのか?」


「生きていますわ」

 私は余計なことは言わないように短く答えた。


「そうか」

 国王は大きく(うなず)いた。

「何となくだがね、マリーグレースなら此度(こたび)のことは全部知っていたような気がするよ。王妃が子をすり替えたことも、誰が王妃を呪ったのかということも……。王妃や王太子をどう処遇するか、私が今後どうしなければならないか、マリーグレースなら教えてくれないだろうか」


 私は苦笑した。

「国王陛下は祖母に何を夢見ていらっしゃるのか知りませんが、祖母が国王陛下のご相談に乗ってくれるほどお優しい方とは思えませんよ。カローレス侯爵に嫁ぎ娘を産んだ祖母がまだ国王陛下に未練があるとでも?」


 国王は私の不敬を見咎めるように睨んだ。

 しかし急に吹っ切れたように笑いだした。

「おまえはなかなか毒舌家だな! もしかして、それがマリーグレースの遺伝か?」


 私もつられて笑った。

「そうですね。私から見ても祖母はなかなかの皮肉屋さんでございました」


 国王はふっと目を細めた。

「皮肉屋か。では私なんぞはとっくに彼女の中ではミンチになって犬の餌になっているのかな。見捨てられたものだ」


 私は「実は国王陛下のことも呪っちゃってます」と心の中で思いながら、それは口に出せずに、至極常識的なことを答えておいた。

「国王陛下おひとりで悩む必要はありませんでしょう? 王弟殿下もおられるし、王弟殿下にはご子息もおられます。王宮内には法律に詳しい者もたくさんいるし。皆さまで王妃様や王太子殿下の処遇を話し合えばよろしいのでは? そして正当な血縁の者たちで王位継承権を書き直せばよいだけかと思います」


 それからふとどうでもいいことを思った。王弟殿下のご子息って、年上好きのアンリエッタ(私の従姉)が付き合ってたような……。




ここまでお読みくださいまして、どうもありがとうございます!

かなり長いことお付き合いくださいまして、非常に嬉しいです。


王妃を断罪できた~!!

従姉のアンリエッタはまさかの年上好きでした(笑)


さて、まだ女主人公にはやるべきことが残されています。#呪いは良くない! >>次話へ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
≪作者の他の作品はこちらから!≫(↓リンク貼ってます)
新作順

高評価順




≪イラスト・バナー集!≫
↓ぜひ見てってください~!↓


【完結】命を狙われたお飾り妃の最後の願い(作品は こちら

氷城の女神
イラスト: ウバ クロネ



【連載版】創造系ポンコツ魔女は恋の救済屋さん。恋は救済するけど、悪だくみしてのうのうと逃げ隠れている悪党は許しません!(作品は こちら

ポスルキーさんに迫る、元カレのクロウリーさん♡
FA
イラスト: 砂臥 環
【イラスト誕生秘話はこちら by 砂臥環様】


女主人公:ポンコツ魔女のポルスキーさん
魔女の小部屋
イラスト: ウバ クロネ


ポルスキーさんの叔父、大魔法使いザッカリー・エンデブロック氏
魔術師の小部屋


ポルスキーさんに首ったけ笑、魔法協会理事のアシュトン・デュール氏
魔法使いの窓辺
イラスト: ウバ クロネ



【短編】 「婚約者が浮気していたので流れで仕返ししたら、なんだか新恋人ができました」 (作品は こちら

幌あきら様
イラスト: 砂臥 環
【イラスト誕生秘話はこちら by 砂臥環様】



【完結・全10話】  三挺の蝋燭 婚約破棄された悪役令嬢の復讐とその代償 』(作品は こちら

三梃の蝋燭
イラスト: ウバ クロネ



【全14話・完結】離婚の慰謝料は瞳くりくりのふわふわ猫でした!』(作品は こちら

至上最愛の白モフ様
イラスト: ウバ クロネ



【短編】 失恋令嬢はお仕事に生きるッ……つもりでしたが、恋愛おまけ付きでした 』(作品は こちら

葡萄はその手に委ねられた
イラスト: ウバ クロネ
【イラスト制作過程はこちら by ウバ クロネ様】



【短編】 身勝手な婚約者が私を身代わりに差し出したので 』(作品は こちら

中身はジェントルメン
イラスト: ウバ クロネ



【短編】「婚約破棄にも無関心なおおざっぱな姉だけど、ほんの少し可愛いとこあった!?」 (作品は こちら

軍服な男前
イラスト: ウバ クロネ



【完結・全7話】 囚われ姫の結婚の約束 (作品は こちら

絶賛婚活中よ!
イラスト: ウバ クロネ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ