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もう、ノーパンではありませんよ!

 さて、商売の盛んな商業区に来たわけですが……姫様はシルルと一緒になって食べ物の屋台を見て回っている。目的が違いますがなお2人とも。


 「シャレル様、あまり遠くへ行っては迷子になってしまいますよ!」

 「大丈夫にゃ。ご主人はウチと一緒にいるからにゃ」


 それが一番の心配事だ! あぁ……手をつないで楽しそうに……本来は私の指定席であるはずなのに――。あんのぉバカ猫ぉぉぉ!!と、叫びたいが、人が往来するこの場所では目立ってしまう。落ち着け私。


 「2人とも、食べ物は後でございますよ!」

 「そうなのシルル?」

 「んにゃぁ、アイツがパンツを穿いてないから急がないといけないにゃ」

 「ぱんつ? 朝に話してたこと?」

 「そうにゃよ。あのままだとご主人の侍女は衛兵に連れて行かれるにゃ」

 「やだやだ、メイサは傍にいてくれなきゃ駄目なの!」

 「仕方ないにゃ、アイツのところに戻るにゃ」

 「うん」


 何を話しているのかは知りませんが、二人はこちらに戻ってくる様子ですね。これで下着が買えそうです。


 「もう、あなた達は……シャレル様もシルルの真似をしていると太りますよ?」

 「……うん」


 ん? 何故、うつむいて悲しそうなお顔をしておられるのだろうか? 怒ったつもりはないのですが、姫様が妙におとなしい。


 「シャレル様、お体の具合がすぐれないのですか? どこか痛むのでしょうか?」

 「ううん、違うのメイサと離れたくないから……メイサと会えなくなる」

 「そのような心配はご無用でございます。私はシャレル様のもとから離れたりはしません。ですので元気を出してください。私はシャレル様の元気な姿が見たくございます」


 私の言葉に誘導されるように、姫様はしょぼくれた表情から少しはにかむ笑顔に変わる。私はこの表情に救われている事は確かなことだ。


 「そのお顔です」

 「えへへ」

 「取り込み中に悪いのにゃけど、下着の店には行かないのかにゃ?」

 「いい雰囲気を壊さないでもらいたい」

 「むぅ……」


 脅しに聞えたのだろうか、シルルは私の眼光が鋭く光る中でのセリフに、口を閉じて小さく頬をふくらませる。流石に魔界でも名の知れた貴族の出であり、魔王様の側近として仕えていた実力は折り紙つきだ。それだけの猛者を目の前に威圧されれば言葉もでまい。


 やーい、やーい、私を本気にさせたら凄いんだぞ? まぁ、本気を出したらちょっと面倒になるので控えよう。


 シルルは私よりも街に詳しく、目的の場所まで案内をしてくれる。そして、やっと着きましたお目当ての店に。


 「ここですか……へぇー」


 (外観は普通の商店にみえるのだが……店内は違うのだろうか?)


 「ウチのも買ってほしいにゃ」

 「それくらいは構いませんよ? これから先はあなたはシャレル様の従者として働いてもらいますので」

 「狩かにゃ?」

 「それもありますが、身辺の警護が適任でしょう。私が仕事の(あいだ)は傍で警護してくれていますとこちらとしては安心して仕事ができますから」

 「信用はしてるということかにゃ?」

 「少々の信用とシャレル様の多大な温情措置といったところでしょうか。シャレル様もあなたには警戒してはいないみたいですし」

 「シャレルは優しいにゃ、こんなウチを拾ってくれるからにゃ。人間と魔族、一体どっちが優しいのかにゃね」


 この猫にしては妙に哲学的だ。そこまで斟酌する考えを持ちながら……ん? シルルは意外と知能が高いのか? だとしたら里を出た本当の理由があるかもしれない。でもまっ今は下着だ。


 店の中に入ると女が出迎え「いらっしゃいませ!」と威勢の良い声を我々に向ける。ふむ、この店の店員というやつだろう。この女に聞けば何か分かるのかもしれない。


 「すまないが、我々3人の下着を探している。だが知識が乏しいゆえにどれがいいのか検討もつかない」

 「そうでございますか! それでございましたら私が責任を持ってご案内させていただきます」


 ニコリと笑みを絶やさないのは、こちらを客として認識しているからだろう。それはどうでもいいが、辺りを見回すと様々な艶やかな色の布切れの数。正直どれがどうなのか判別が不可能だ。


 「質問なのだが」

 「はい、何でございましょう?」

 「下着……というのは……どれだ?」


 一瞬だが時が止まる錯覚を身に感じた。


 「お前……この店自体が下着売り場にゃ、なにを脳みそがすっぽり抜けたスカスカな事を店員に尋ねるにゃ」

 「し、仕方ないだろう! 本当に知らないのだから!」

 「ふふ、お客様は当店の品揃えの多さに困惑しておられるのですね。当店では子供から大人にいたるまでの大小様々な商品を取り扱っております」

 「ほほぅ……で、では私のなんかは?」

 「お客様の大きさですと……こちらの身長幅のものになります」


 案内され、店員が手に取る大きめなパンツ。これが下着というものかぁ……全然わからないや。


 「こ、これかぁ……」

 「お前どこまで田舎っぺにゃ?」

 「うっさい! この白いのは清潔感があってよさそう……シャレル様、こんなのはいかがでしょう?」


 私は純白のパンツを股間にあてがい、姫様に報告すると、姫様はなにやら熱心にパンツを探していた……。今、姫様は人間の社会に馴染もうと真剣なのだ! ふむ、自分で良し悪しを判断しよう。


 「うむ! コレを3つほど頼みたい」

 「即決だにゃぁ。もうちょっと選んで買えばいいのにゃ、せっかちな奴だにゃ」

 「ありがとうございます! 同じものでもよろしいでしょうか?」

 「よろしい! よろしい!」


 うんうんと頷き、満足のいく気持ちであったが、下着を選んでいるシルルの冷たい視線が妙に突き刺さる。な、なんだよぅ。下着なんて初めて選ぶんだもん、ぎこちなくなるのは当たり前じゃないか。


 「ウチはコレとコレにゃ」

 「お会計は……?」

 「3人分まとめてでお願いしたい」

 「はい、かしこまりました」


 先ほどから姫様が妙に静かだ。いや、真剣にパンツを吟味している……あれが着飾ることに目覚める女の姿。魔王様、姫様は着実に人間社会に溶け込み、着飾(きかざ)るということを本能的に感じております。


 ん? このパンツは小さいな、女児向けと書かれているが、値段が他のものと比べると高い。まぁ銅貨1枚や2枚程度だが。


 「すまない、これは?」

 「それは伸び縮みする女児向けのものでございますね。最新の下着となっております。お値段は張りますが、通常のものとの耐久性が違います」

 「耐久性!?」

 「フリルや小さなリボンのついたものが人気で、品薄になることもしばしば」

 「人気もあるとな!?」


 うーむ、これを姫様にお勧めすべきか否かだが……。いや、耐久性もあり、人気で品薄になる高位品。ならばドロワよりもこちらに――。


 「シャレル様、こちらが人気となっておりますが」

 「人気ってすごいの?」

 「左様でありましょう、品薄になるという事は人間社会では需要があるとも言えるのではございませんか? 耐久性もありますし」

 「うーん……こっちのパンツのがいい」

 「しかし、そちらは安価な普通のパンツ。こちらは耐久性もありかぶれます、ほらっ!」


 またも時間が止まる錯覚を感じた。


 「……お前は変態か馬鹿かにゃ?」

 「何を!? 機能を重視し、(さい)たるものを選んで何が悪い!?」

 「いにゃ、パンツをかぶって力説するにゃ! 見るに耐えないにゃ!!」

 「お客様、ちょっとそれは……」


 結局は店員に止められ、私の選んだものと姫様がご自分で選んだものを購入することになった。もちろん、シルルのもだが、シルルのは左右から紐が出ているパンツ。本人(いわ)く、これの方が動きやすいということらしい。その他にも肌着なども購入し、目的は達成された。


 紙の袋に詰められた下着を抱え、3人で腸詰の串焼きを食べながら服が売っている店にへと向かった。


 「シルル、あなたは武器はいいの?」

 「ウチは素手でも問題ないにゃ」

 「そう、では明日はあなたの能力を見せてもらおうかしら」

 「シルルもお仕事するの?」

 「左様です。シャレル様の従者として相応しいかという事を試さねばなりません」

 「面倒だにゃ」

 「つべこべ言いますと、夕飯を減らしますよ? 奮発しても良いかと思っていたのですが――」

 「それは困るにゃ、頑張るから奮発してほしいにゃ!」

 「それでいいのです」


 姫様はクスクスと笑いながら焦るシルルを見ており、私はどこか和やかな気持ちに浸る。それはこの世界に生きる中で求めていたものかもしれない。まぁ、姫様とこの世界を歩くのもいいかもしれませんね。あと一匹。


 ちなみに服屋での話は割愛しますが、買ったのは結局、姫様の普段着となる白いワンピースに、シルルのボロボロだった服の新調です。え、私ですか? もちろん下着の時みたいに暴走しないよう入り口で観ていただけです。

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