シルル!!
ここはどこにゃ……? 暗いにゃ。
ウチは戦っていたと思ってのにゃけど……あれは夢だったのかにゃ? 嫌な夢にゃ、痛いし、苦しいし、あんなの悪夢にゃ。
光? なんの光にゃ? それににゃんか懐かしい声が聞こえるにゃ……。
ウチは声のする方に目線を向けると、その先にうずくまって泣いている小さなシャムシェの女の子がいたにゃ。
あれは……ウチにゃ。いつも泣かされてたのを思い出すにゃ。
すると小さなシルルを炎の壁が取り囲む。
「お父さん……お母さん……どこにゃ?」
思い出したしたにゃ、ウチは襲撃された集落の生き残りにゃ……そして、ほかの集落に保護されて……ばぁちゃんは! ばぁちゃん!!
ウチの願いに応えくれたのか1人の老婆のシャムシェが椅子に腰掛けた姿でばんやりと見えてくる。
ばぁちゃんにゃ!! でもばぁちゃんは死んだにゃ……ばぁちゃん……。
ウチを保護してくれたのは集落の片隅で静かに暮らすばぁちゃんにゃ。膝の上でうずくまって泣いているのはウチにゃ。
そんな時、ウチが見ているモヤモヤから声がするにゃ。
「ばぁちゃ、ばぁちゃ……ぐすっ」
「今日はどうしたの?」
「皆がいじめるにゃ、ウチの方言がおかしいって……」
「気にしては駄目よ、あなたの住んでいた集落の方言は私は好きよ?」
「本当かにゃ?」
「今は『にゃ』という方言は珍しいけどシャムシェらしくて、私は誇りに思うわ」
「珍しいにゃ?」
「昔は皆使っていた方言なのよ?」
「でも、ばぁちゃは使わないにゃ」
「そうね、時代に流されてしまった証拠と言ったら難しいかしら?」
「……よくわからにゃいにゃ」
「でもね、大切な事なのよ。時代に流されない、自分というモノをしっかりと持っている。シルル、あなたは方言は嫌い?」
「ううん、好きにゃ。お父さんとお母さんも皆『にゃ』って言ってたから大切にゃ」
「ふふ、大切なものは失っては駄目よ?」
「うにゃ!」
また膝が恋しくなるにゃ……ばぁちゃんウチは、ウチはどうなってのかにゃ?
「シルル、あなたはあなたの生き方をしなさい。シャムシェにとって主人を見つけることは大切なことでもあるの。それが糧となって、あなたを強くしてくれる。私は信じているわ、シルルが優しく強い頼れる存在になれる事を……」
ばぁちゃんはそう言うとスッと消えたにゃ。ウチは焦ったにゃどこを探してもいないにゃ。
ばぁちゃん……ばぁちゃんはどこにゃ!? 向こうにも光があるにゃ!
「シルル、あそぼ!」
「いいにゃ、何して遊ぶにゃ?」
「えっとね……字を教えて!」
「うにゃぁ……それはメイサに気かにゃいと分からにゃいにゃ」
シャレルにゃ……ご主人……ウチは?
ウチは何をしているのかにゃ? 今のままじゃご主人に会えないにゃ!
「シルル……」
またご主人にゃ!? でも寂しそうなご主人にゃ……にゃんでそんにゃに……?
そのモヤモヤはウチから遠ざかっていくにゃ。でも身体が動かにゃいにゃ……。
いかないで欲しいにゃ、ご主人! なんで皆いなくなるにゃ?
違う、いなくなるのはウチにゃ!? このままでいいのかにゃ!? シャレルに会えないにゃ!!
にゃんか声が聞こえるにゃ、誰にゃ名前を呼ぶのは?
「どいてください先輩!! シルルが本当に死んでしまいます!!」
「待てというに!!」
「見殺しにするのですか!? それが目的ですか!?」
カルメラちゃんは目を背けて肩を震わせ泣いている。こんな状況に冷静でいられるわけない! 姫様が……姫様になんと話せばいいのだ!!
私は諦めたくはなかった。ここで、全員を敵に回してもシルルを助けなければ何かが音を立てて砕け散るという恐怖を感じたからだ。
「シルル! お願いですから!!」
私の中で何かが『ドクン』と脈打つ。その時、倒れているシルルの右手が光る。微かな光が取り乱す私に暖かい鼓動を伝える。
この鼓動は? それにあの右手……。
その時だった、シルルの指先が微かに動く。そして、力が入るのか5本の指先は地面をえぐる。
「なんにゃぁ……あちこちいたいにゃけど、気持ちがいいにゃ……なんにゃ、呼んでたのはメイサかにゃ、ご主人じゃないにゃ」
「シルル!?」
「シルルさん!?」
私とカルメラちゃんは驚き、ゆっくりと立ちあがるシルルの姿に唖然とする。
「まだ夢なのかにゃ?」
「一体何が……?」
この状況は流石に困惑する。死にかけ……いや死んでいてもおかしくない状況だった。何が起こっている!?
「眷属の印の効果じゃな、それ以外にもなにかあるが……もともは妖怪種は魔物よりは悪魔に近い」
「確かに、漂う魔瘴気に酔って暴れて……それに、印は手の甲、内側の光は……シャレル様との契約印……!」
「なるほど、あの猫はお前の一時的な眷属であり、ユースデスの娘の従者として『魔力の核』から力を得ているのか……メイサの眷属として覚醒した上に『魔力の核』の力も得ていることになる。大番狂わせもいいとこじゃ」
シルルは完全に立ち上がり、表情も落ち着いている……自然治癒力も向上しているのか!?
「なっ……死にかけていたのに……ありえないわ!! 卑怯だわ!!」
シャテラが取り乱し、動揺するのもわかる。だが何がシルルをそこまでに到達させたのか不明だが、先輩の説が正しいのであれば今のシルル全ての能力が向上している……。
ポンポンとほこりを払うシルルは、シャテラを指さし「お前はふるボッコにゃ」と、宣言を突きつけた。
「ふざけるなよ、この悪魔と人間の出来損ないが!!」