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戦えシルル! 初手の一手!

勝負は一瞬で決まるかと思われた――。いや、私自身がそう思い込んでいたのかもしれない。


シルルは『過重』と『瞬速』を使い、間合いを一気に詰める。この動作に私は思わず喜んだ。


理由は二つ、シルルの間合いのとり方が絶妙であったことだ。開始と同時に相手に気取られない隙間に入り込めたこと。


もう一つは、シルルは私の言ったことを実行できていたことであった。


それは昨日の事――。


「シルル、あなたの弱点を教えて上げましょうか?」

「弱い事かにゃ?」

「総合してとらえなくてもいいでしょうに……まぁ、話は戻して。活性化をする際に名称を声に出さなければならないという事です」

「それが何かまずいのかにゃ?」

「ふむ、いいですか? あなたが技の名称を発する度に、相手に手の内をカードをさらけ出しているという点です。相手は思うでしょう、例えば『過重』は筋力を増強する技の起点となると。こうなれば、名称を口に出すたびに相手はそれ相応の準備をします」

「でも、無理にゃ……口に出さにゃいと強化が難しくてにゃ」

「しかし、重要な事です。手の内がバレては仕掛けるチャンスも減っていきます。何かの動作をすれば、それがイメージに繋がる。そうやって攻撃のパターンを変えるのです」

「簡単に言ってくれるにゃぁ」


それが昨日の事、シルルは見えないところで練習していたのかもしれない。名称を口にださず、効果を出している。


少しの期待感に私は嬉しさを噛みしめる。


瞬きの刹那に現れたシルルの直線的な突き、シャテラも武闘派だこの程度では動じない。


シャテラは驚くことはなく、かるくいなし、身体を水平から横にそらす。ただの突きに対し、カウンターに移る動作はない。


シルルはそのまま立ち上段の回し蹴りから顔を狙い、かわされると身体を回転させ、中段の回し蹴りを繰り出す。


連続的な速い攻撃についにシャテラは迫りくる足蹴りを肘で受け止める。


この時私は心配した。勢いのある蹴りに対し、肘での防御は攻守を兼ねた技だという事に。


シャテラは表情を変えることなく、肘での防御をカウンターとして代用し、骨を砕く算段。だが、『ゴッ!』という鈍い音にシャテラの眉がピクリと反応する。


そう、シルルは回し蹴りに『過重』と『壁衛』をのせて攻撃を仕掛けていた。シャテラの行動に対し瞬間的に身体が反応したのだろう。


シルルの攻勢は続く、『瞬速』や『過重』をのせた素早い連続的な拳や足技を織り交ぜ、シャテラの動きを封じる。


しかし――。


「退屈ね」


この一言の後に『ドォン!』という衝撃音。それはシルルが腹部に拳の強打を受けたものだった。


「がぁ!」


大きく『く』の字に折れ曲がる姿勢、そしてふわりと浮いた状態に、シャテラの回し蹴りが炸裂する。


もう一度『ドゥ!』という鈍い音が響くとシルルは吹き飛ばされそうになるが、シルルは意識が飛びそうな痛みの中で顔を歪ませ、シャテラの足を脇腹と腕の間に挟み込み、回転木馬のようにぐるりと一周する。


「まだ!」


そう言い、地面に着地できる瞬間を見逃すことはなく、シャテラの足を開放すると、「ふぅー」と、息をついて呼吸を整える。


善戦とはいかないが、シルルにしてはよく頑張っている。痛みもあるだろう。


「化け猫にしてはやるのねぇ」

「言ってろにゃ、ウチはお前よりロリババァが目標にゃ」

「あのお方をそのように呼ぶ駄猫には調教が必要かしら?」


次の瞬間、シルルは顔を上げて瞬きの最中だったのだろう。シャテラもそれを狙っていたとしか言えない。


シャテラの左拳が、シルルの顔面をとらえ、顔は大きく歪み反発す作用で、大きく首が跳ねる。そこからは一方的だった……。


のけぞった頭部を鷲掴みし、シャテラは素早く腹部に3発の拳を打ち込む。


一発だけでも相当な打撃にも関わらず、瞬間的に同時に打ち込まれシルルは内側こみ上げる何かを吐き出すのを我慢するし、瞼を広げる。


ガマ口の財布のように硬く閉ざした口の隙間から泡を含んだ血が顎をつたわり、地面に滴る。


「軽く打ち込んだだけよぉ? この程度でくたばってんじゃねぇよ!!」


闘志が殺意に切り替わる瞬間にシャテラは「ほら、みぎぃ!! 次はひだりぃ!!」と、シルルの掴む手を離し、右脇腹に一打、左肩に一打と次々と拳を打ち込む。


「終いヨ?」


ドォム!!


その瞬間に時が止まり、シルルはシャテラに向けて大量の血を吐いた。シャテラの打ち上げるような腹部への強打は、確実にシルルを仕留めにかかっていた。


「ぶはぁ!!」

「はい、おしまい。血で汚れるだろうが!!」


とどめだった。『ドォン』と立ち中段蹴りを打ち込み、シルルは勢いよく吹き飛ばされ、土ぼこりを上げて、ボールのように身体を弾ませて地面に転がった。


「シルル!! シャテラ、貴様ぁ!!」

「メイドーサ、今は決闘の最中じゃ!」


私は気が動転した。「もう勝負はついてますよ!! どいて下さい!!」と、私をしっかり掴むレイニス先輩を振り切ろうとする。


「まだじゃ……」

「まだ? 馬鹿な事言わないでくださいよ!! どう見ても死にかけてるじゃないですか!! 助けは!? あなたは約束を反故にする……!!」


押し黙る先輩に私は絶望と裏切られた悲壮感に、これが予測していた通りに茶番劇だと思い知る。


「……お前ら……やっぱりそうなのか」

「まて落ち着け、メイドーサ!!」

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