鬼教官! 根性叩き直します!
「いきますよシルル!」
「こいにゃ――!!」
いきなり、平原に爆音が響き、地面がビリビリと微震する。
私とシルルは拳をぶつけ合い、睨み合う。
「ほう、私の一撃に耐えられるのですか」
「にゃ、にゃんの……ぐぅ……」
(にゃんて圧力にゃ、拳にありったけの力が密集してるにゃ、これが本家の肉体強化の骨頂にゃのかにゃ!?)
「なにをぼやっとしているのです」
「にゃ!?」
一瞬でシルルの後方に回り込み強化なしの足蹴りを背中に軽くドンッとつく。シルルの身体はぐらりとよたつくが、すぐに「過重!」と、肉体強化し、私から距離をとる。
「逃げたつもりですか?」
「?」
シルルは疑問に思う瞬間、その声は耳元から聞こえる声に凍り付く。
ドンッ
「くぁ……」
シルルが振り返る間に、私は左拳で、脇腹を強打する。
脇腹を押さえ、痛みを緩和させようする。睨む目つきで、八重歯をむき出し、噛みしめる。
「まだ本気じゃありませんよ? あなたとの実力差はこれほどあるという事を理解しなさい。そして、シャテラも同様に、これだけの差があると思うのです」
「ウチだって……まだ本気じゃないにゃ!!」
そう言い筋力を強化し、大振りのスイングを振り回す。だが、一つもかすりはしない。私にあって、シルルにないものは思考の活性化。それが大きな差を生み出す。
「にゃんで、あたら、にゃいにゃあ!」
「鈍速だからですよ」
「ぎいぃ!!」
「悔しいなら、一撃でも当ててみなさい!!」
さながら鬼教官だ。だが、甘やかしている時間はない。その後も肉体強化を繰り返し、何度も何度も攻め立てる。それでも当たりはしない。
「はぁ……はぁ……」
「息が切れるほどに無茶をするのですか? まだ5分ですよ? 配分を考えて自分の力量のコントロールをし・な・さ・い!!」
スッスッ、ドォン!!
「ぐはぁ……」
唾液を飛び散らし、眼球を限界まで広げ、腹部に突き刺さる私の拳をまともに受ける。
「いたい……」
「ええ、痛いでしょうね。でも加減はしてますよ」
「ふぐぅ……」
(自然界で見ていたメイサと別人にゃ……これが本気に近い……いにゃ、本来のメイサの姿。いつもは馬鹿を装う事をしてたにゃ?)
言葉を失い、視界もおぼつかない様子に、私はそれでも手を緩めなかった。
頬に軽く回し蹴りを打ちかますと、シルルは顔を歪めてそのまま後方に飛ばされ、地面に転がる。
「強化もされてない普通の攻撃を避けられないのですか? 肉体強化という技を手に入れて有頂天にはしゃぐだけでは能のない鷹と一緒ですよ?」
「……ふぐっ……お前、手加減をしらにゃいのかにゃ……?」
「ほぉう、手加減しての児戯を所望するのですか? それでも構いませんよ? 当然、あなたとカルメラちゃんの実力は大きく広がりますが」
「それは嫌にゃ……」
立てる気力はあるか。自尊心を煽られてどこまで力を引き出せるかと思ったのですが……限界は意外と近かったと。
「それであなたの芸は終わりですか?」
「芸……?」
その時、シルルの中で何かがプチンと切れる。そして、瞬きの瞬間シルルは突然目の前に現れる。
「ツッ!?」
「うにゃぁ!!」
拳を下から突き上げ、私の顎を狙うようにアッパーを繰り出す。それでも狙いは定まらず、首を少し動かすだけで避けられる。
「ほお」
そんな一息の中、微かに殺気を帯びた感覚を感じ取り、反射的に右腕を顔を護るように持ってくる。
ドンッ!
シルルは器用に身体をひねり、アッパーから左の裏拳での攻撃を仕掛けてくる。
「やりますね、その調子です」
「今のは……はぁはぁ……一撃にゃ?」
「残念、有効打ではありません。もっと瞬速と過重を合わさるように使いなさい。鉄甲は最終手段として控え、戦略的な戦闘を考えるのです」
覚えたてで、まだ慣れていないのは分かる。だが、それでは命が危ない。シャテラを想定した戦いではあるが、この程度ではもって数十秒……。
「今のままでは初手の一手を逆手に取られてカウンターの餌食です。もっと考えて戦闘をしなさい!」
「難しい事を言ってくれるにゃ」
「あなたに思考の活性は必要ありません。もともと俊敏性・動体視力・反射神経の高い体質なのですよ?」
「でも、4っつしかない技でどうするにゃ!?」
「ふむ……」
もう一手は欲しい……なにかあるだろうか? 肉体の活性化に役立つ補助的ななにか。
「では『壁衛』を組み込んではどうでしょう? あなたの破壊できなかった岩壁をイメージするのです」
「『壁衛』にゃ?」
「そうです、今のあなたは攻撃主体のみ、防御面の脆さが表立ってます。だからこその局部防衛法です。『壁衛』は身体の一部分を高質化し、過重と併用すれば硬い盾として活用できます」
「にゃるほど、やってみるにゃ!」
「では、軽く腹部に一撃入れますよ?」
私は瞬時にシルルに近づき、軽く強化した拳をシルルの腹部に打ち込む。
「『過重』! 『壁衛』!」
ゴッ!
腹部は高質化し、私の打ち込んだ拳からしびれが伝わってくる。確かにこれならばシャテラのカウンターにも対処できる。
「いい感じですね」
「やったにゃ、これで勝てるにゃ!」
「気の早い事で、とりあえず休憩です」
「まだちょっとしか経ってないにゃ」
「足元がガクガクと震えているのに続けるのです? 本当にバカからアホにしか進化してないのですね」
「いにゃ、いまはポンコツにゃ!」
「誇るとこじゃない! 一時間の休憩の後に再開しますから、しっかり休んでください」
「うにゃ」
さて、これで何とかなればいいのですが