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作戦会議? 本番前です!

部屋に運ばれる2人。私は回復魔法でシルルの骨折した腹部の治療にあたっていた。


「うう……」と、唸る声を小さくつぶやくシルル。3本は折れていますね。これが普通の人間ならば腹部を貫かれている。『過重』の肉体強化で重症化していないのは幸いか。


その傍で、指をくわえてベッドに横になるカルメラちゃんを静かに見ている姫様。姫様には今回の模擬戦の意味は分からないだろう。


だが、気になるのはカルメラちゃんだ。あの次元魔法は自分で編み出したのだろうか? 私は不思議でたまらない……次元魔法は血統による固有魔法だからだ。カルメラちゃんがヘナティア公の子孫というのは考えにくい。ならば何故?


しかし、二人はこの二日で大きく成長している。私も驚くほどの成長速度だ。シルルは自己の強化と困難な状況下での脱出方法のひらめき。


カルメラちゃんは、私の魂の影響ですでに人間の域を超えている……13歳の少女の姿をした怪物だ。下界の人間は奇異の目で見るだろう。


二人は自然界での生活の変化に耐えうるだろうか? 自己の力に溺れることはないだろうか? そんな心配が頭をよぎる。


すると、「メイサ! カルメラが目を覚ましたよ!」と私に教えてくれる。


「それはよかった。姫様が介抱してくれたおかげで御座いますね」

「エヘヘ」


姫様は恥ずかしそうにニコリと笑い、可愛い笑みを見せる。今はこの表情に救われる。


「エリッサ、後を頼みます。骨は8割ほどといったところです」

「かしこまりました」


私は、回復をエリッサに任せ、カルメラちゃんが横になるベッドに近づき、声をかける。


「カルメラちゃん?」

「ん……ここは……」

「よかった、気が付きましたか。ここは私の部屋です」

「あの……勝敗は……?」

「引き分けです」


それ以外の言葉は見つからなかった。どちらも同時にダウンし、戦闘の続行は不可能な状況で、勝敗の有無を決めることは出来ない。


「そうなのですか……シルルさんも……強かったです」

「えぇ、でも肉体派のシルルにあそこまで戦える魔法使いはいませんけどね」

「……ふふっ、そうですね」


カルメラちゃんはゆっくり身を起こし、治療を受けているシルルを見る。


「あの、シルルさんは?」

「あれは自爆してしまって傷を負ったんです。今は治療中ですが、もう少しで元気になりますよ」

「そ、そうなんですね」


一瞬だが、私はカルメラちゃんに最後に発動させた『次元魔法』について聞こうとしたが、理性がそれを止める。


『 このことを告げてはならない』と、頭の中に聴こえる声に頷いた。口にしてしまえばカルメラちゃんは混乱する……いや、覚えてもいないのかもしれない。そんなことを追及しても何の益もない。ただ、心配事の種を蒔くだけだ。


「うにゃー!!」


深刻な状況をよそに、感知したシルルが元気よく目を覚ます。


「たはぁ、痛かったにゃあ……」と、言いながら腹部をさすり、ベッドから這い出すと、カルメラちゃんのもとに近づく。


「カルメラは強いにゃ。魔法使いでもあんなに戦えるのは正直驚くにゃ」

「そんな、私はただ……」

「ただ? なんにゃ?」

「コラコラ、まだ意識が回復したばかりなんです。エリッサ、ありがとう。夕食の準備をお願い」


そう言うと、エリッサは無言でペコリと頭を下げて、退室していった。流石はエリッサ。私よりも回復魔法の即効性と、スタミナまで回復させるとは……何気ない様子に見えて、やっていることは高等な技術を要する。


「メシにゃ?」

「はいはい、ご飯です。カルメラちゃんは食べられますか?」

「食欲はあります」

「そうですか、シャレル様も当然」

「たべるー!」

「では、食事にしましょう」


今回の模擬戦で得られた成果は大きい。だが、疑問の残るものであった……二人の成長速度に次元魔法……やれやれ、頭が痛くなってくる。


「ところで、レイニス先輩からの言伝ことづてを預かっています。よろしいでしょうか?」

「私に?」

「ウチかにゃ?」

「いえ、二人にです」


二人は顔を見合わせ目をパチクリさせて、疑問をもった表情で考え込む。


「レイニス先輩の話では、二人の命を狙っている俗物がいるようです。誰かというのは判明してますが」

「私とシルルさんの命を!?」

「にゃんでにゃ!」

「まあまあ、落ち着いて聞いて下さい。1人はあなた達と行動したレイビーとシャテラの二名です」

「そんなレイビーさんが……どうして!?」

「シャテラ? しらんにゃ」

 「どうやら、私を独占してると思い込んでの嫉妬が殺意に変わったのでしょう。ですが、安心してください。今は先輩が監視していますから下手な手出しはしてこないでしょう」

「でもどうすれば!」

「二人と戦う事が条件だそうです。詳細は不明ですが」

「か、勝てるわけないにゃ!?」

「えぇ……私も自信がありません……」


そりゃそうですよね。相手は本物の中級悪魔。人間や妖怪種が束になっても勝てはしないでしょう。心配や困惑するのも当り前です。


「しかし、対抗策がないというわけではありません」

「本当ですか!?」

「はい、まだこちらの条件を提示してません。条件は私が考えます。一つは決まっていますが」

「どんなものにゃ?」

「対戦相手の選択です。レイビーは魔法を得意とします。シャテラは肉体派のですのであとはわかりますね?」

「レイビーさんと私でしょうか?」

「正解です。そしてシャテラはシルルが相手をします」

「ですが師匠、この場合逆なのでは?」

「いえ、勝算がある可能性を考えると逆の逆です。同系統の分野で戦うことが有利になる。それはあなた達二人にあってあちらにはないものがあります」

「肉体の活性化!」

「はい、本来はカルメラちゃんの意見が正しいのですが、彼女達は肉体の活性化を知りません。これを逆手にとります」


そう、レイビーとシャテラはカルメラちゃんとシルルが肉体の活性化が出来ることを知りはしない。そして、肉体の活性化は極一部の者しか知らない。


「戦う覚悟はありますか?」

「勝算はどのくらいでしょうか?」

 「そのまま戦えば、1割にも満たないでしょう。ですがここで私がとある条件を提示します。この条件はかならず相手は承諾すると確信しています」

「その条件で勝てると……?」

「『勝つ』この言葉に期待を寄せず戦いに赴きましょう。もちろん『負ける』という言葉も存在しません」


私の話に『?』が飛び交うが、いまはそれでいい。『勝つ』と『負ける』という言葉は不要です。必要なのは『生き残る』という言葉でしょう。

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