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接近! 戦いの基本です!

キン、カン。


剣戟の聴こえる中で戦うのはメイサこと私とカルメラちゃんですが。


その聴こえる金属のぶつかり合う音も単調で、ゆっくりとしたものではない。普通の人間が聴いていたら異次元の世界と思うだろう。


実際には『キキキキキ』と音が途切れることはない。当の二人の耳にはちゃんと聴こえてはいるが……。


「遅いですよ?」

「これでも限界に近いです!」


高速に飛び交う二つの影。なぜこんなことになったかというと、これは私の提案からであった。


2時間ほど私の膝の上で眠っていたカルメラちゃんは目を覚まし「し、師匠!?」と、驚いた様子だったが、身体を起こし、私は今のカルメラちゃんに足りないものを説明する。


「活性化は順調に会得していますね」

「ですがあんなにも危険なものだとは……」

「まあ、最初は恐怖を感じるのは当り前です。私も暴走した時はエリッサが止めてくれましたし」

「え、師匠の暴走をエリッサさんが!?」

「はい。エリッサはあれでも私よりも強いですよ? 猛者は意外な所にいるものです」

「そのように見えませんでした」

「親父の側近ですからね。強さの度合いで言うと……姉と同等以上でしょうね」

「そ、そんなに……師匠のお姉様は師匠よりも……」

「もっくそ強いですよ?」

「……もっくそ」

「親父には勝てませんけどね。で、本題をお話します」

「あ、あっはい!」

「カルメラちゃんは無事に活性化の第一段階を突破したというところ、今後はどのように活用するかの話です」

「えっと……多重魔法を覚えて……それからといった」

「あまいっ!」


私は指先でカルメラちゃんの鼻をプヒッと押し、焦る様子で「えっえ?」といった感じだが、なんか可愛いので許す(何を?)。


「あの、あまいというのは?」

「ふぅむ、カルメラちゃん。魔力が尽きたらどうしますか? 相手は健在、逃げる余裕もない状況にはどのように対処します?」

「それは難しいですね……絶対的な危機に直面した際の対処……うーん」

「ということで、接近戦を学びましょう」

「ええっ!?」

「何を驚くのですか?」

「わ、私は魔法使いなので誰かに守ってもらうしかないのが現状です」

「退路を作ろうとは思わないのですか?」

「退路の確保……魔法使いの私に出来るでしょうか?」

「無理に戦う必要はないのです。時間を稼いだり、相手の心理に『危険』だと認識させることが大事です。これも戦術の一つです」

「なるほど。それで高速戦を念頭に置いた接近戦ということですね」

「はい。倒す必要はない、逃げることが目的です。そのための護身術ですから」


そう言うと、私は自分の短刀をカルメラちゃんに渡す。


「わわっ……って真剣ですよ!?」

「私が避ければ問題はありません。なんなら本気で切り付けて、刺してもいいですよ」


マゾヒストじゃないですよ? 斬られりゃ痛いし、刺されればくっそ痛い。そりゃ当り前だ。


「さぁて、私も短刀で受けますので問題はありません。じゃんじゃん攻撃してきてください」

「わ……分かりました……」


という事がありまして、今はカルメラちゃんにぐいぐい攻められる立場という事です。これが恋愛なら大歓迎なのですがね。


カルメラちゃんは思考能力を向上させ、肉体の活性化で瞬時に間合いを詰めると、いきなり短刀を向けてくる。そして、かれこれ20分ほどの戦闘を繰り広げています。


「速いっ!?」

「まだまだですね」


目で追うのには慣れてきていますね。あとは限界時間を考えて、小刻みに肉体の活性化をおこなっている……なるほど、2分という限界時間を間延びさせて数倍の時間を作り出す。なかなかの戦法。


実際に剣がぶつかり合うのは数秒。全体の筋力を器用に力のかからない場合は休め、瞬間的に活用する。


「太刀筋が乱れていますよ?」

「くっ、思考に肉体が追いつかない!」

「慣れです慣れ。それにまだ一日目ですよ?」

「分かっています、ですが!」


会話をしながらでも攻勢を止めないカルメラちゃん。残像の重なる斬撃に余裕な表情で受け止めるが、よくよく考えるとカルメラちゃんは今の時点で人間の限界値を超えてないか?


やり過ぎた感が脳裏をよぎるが、これは彼女が求めて、そして手に入れた力。危険を侵してでも手に入れた……正直、この数時間でカルメラちゃんは人間を超えたのは確かだ。


「まだ視界がブレますか?」

「ぐぅぅぅぅ! 身体のあちらこちらが痛いです!」

「限界値を超えている証拠ですね。私が時間を計ってから20分前後、2分の限界を上手く活用出来ています」

「本当ですか!」


じゃれ合う猫のように剣戟を響かせ、楽しむように私に短刀を向ける。しかし、限界は突然やってくる。


「あ、」


その一言でカルメラちゃんはその場にペタンと尻もちをついた。


「も、もうダメです」

「いい線をいっていますね。一日でこれだけできれば十分過ぎる結果です。後は身体を休めましょう。まだ昼を過ぎたころですが、今日はここまでです」

「え、おしまいなのですか?」

「休んで明日に備えるのも大事です。無理な鍛錬は体を破壊してしまいます」

「わかりました……」


残念そうですが、無理はよくないですからね。というかのっけから無理してるのですが、そこはいいのかと。


「そう言えば猫はどうなったでしょうか?」

「エリッサさんがいるので問題ないと……」

「いえ、エリッサは姫様に裁縫を教えるように言っていますので……」

「なんとなく想像が……」


私とカルメラちゃんは『だみだな』という結論に到ったのか互いの顔を見合わせ苦笑いを浮かべた。

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