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活性化です! 副作用に厳禁!

「さて! 修行の続きをしましょう!」

「はい!」


私は次に教えることを考え、カルメラちゃんに言う。


「次は活性化による反復運動です」

「反復運動ですか?」

「ええ、単純なものですよ。活性化をさせつつ、左右に移動する動作を繰り返します」

「それだけ……?」


おや、不満でしたでしょうか? ふっふっふ。この反復運動の訓練は意外と難問だという事に気付いてませんね。


「おや、不満があるのですか?」

「反復運動だけの訓練と聞くと、簡単すぎるかなと思ってしまって」

「甘いですよ! 万里の道も一歩からです」

「距離が千里ではないということは……」 カルメラちゃんは 「えっ」と驚いた様子で私を見る。賢いカルメラちゃんなれば『千里』がなぜ『万里』なのかということに。

「……まさか」

「はい、その『まさか』です」


屈託のない笑顔をカルメラちゃんに向けると、カルメラちゃんは両肩を引き寄せ、怖がる様子でカタカタと震える。


「では、活性化を」

「はい……ふぅー、よし」


(筋がいいですね。もう自分のものにしてしまっていますが……果たして何分耐えられるでしょうか)


「行きます!」


声を張り、いざ反復運動の態勢に入る。カルメラちゃんは残像を残し、高速で左右に行ったり来たりを繰り返す。


残像は残せるが、速度はまだ並みといったところでしょう。


2分が経過した時だろうか、カルメラちゃんは、この世の終わりを体験したかのような顔つきで

「ぜーはー、ぜーはー」と息を乱す。


「どうしました? まだ2分程度、瞬きをする程度の時間ですよ?」

「し……ししょ……はあ、はあ……」

「これが活性化の負荷です。人間では完璧にマスターしたとしても5分が限界でしょう」

「そ……そんな……はあはあ……」

「速さもまだ並み程度、私がやってもお手本にはなりませんので、厳しいようですが、耐えて下さい」

「く……まだ……頑張れます……」


14歳ではまだ骨格や筋肉も育ち盛り。そのことを踏まえると2分は上々な成果といえるか……ふぅむ。


「いいですかカルメラちゃん。反復運動は現在の限界値を知るための基準です。常時の高速戦を無理に意識することはありません」

「と、言いますと?」

「この2分という時間を有効に活用するすべを見つけるのが大事なのです。いかに強力な力を手に入れたとしても、短時間でしか使用できないのであれば工夫が必要です」

「2分という時間を……」

何かを考えている様子ですね。では、その思考回路を鍛えましょう。

「それでは、思考能力を向上させるように、頭に神経を集中させてください」

「はい……あ、頭が熱く……」


次の瞬間、カルメラちゃんは口を手で押さえて、地面にうずくまる。


「ゴホゴホッ、うぇ……ゲホ……」

「その様子だと酔いましたね?」

「これが思考の活性化……ゴホッ」


カルメラちゃんはその場で何かを吐く動作で、地面を見つめていた。簡単に説明すれば思考の活性化による酔いが彼女を襲った。


思考の活性化は単純に脳を刺激し、演算速度を高める方法。すなわち、活性化をしたと同時に、視界に入る情報量が脳の容量をオーバーさせてしまう。そして、一時的な混乱状態に陥り、脳内情報を整理するために自己防衛の本能が意図的に外部の情報を遮断する。


「しばらく休みましょう」


私の言葉にカルメラちゃんはピクリと身体を反応させ、立ち上がる。


彼女から伝わる真剣な様子と、ヨダレを拭う姿に私は感心する。彼女のやる気は失われていない。むしろ続行する事を決意した印象を受ける。


「まだ、終わりません」

「さすがは私の弟子です」

「私は師匠ののように強くなりたい……いままでの人達は年齢だけで判断して私を無視してきた……でも、師匠だけは違った。師匠の期待に応えたい! 師匠のように博識でありたい! だからここで膝は折りません」


感服するほどの意志の強さですね。私はあなたが抱えている問題の全てを理解はしていません。ですが、強くなろうとする意志を持つ者をあしらうつもりはありません。


「では、思考の活性化を!」

「はい!」


もう一度、思考を活性化させる。だが、表情は苦しいと訴えているようなもの。それでも私は止めなかった。それはカルメラちゃんが自ら強くなろうとする意志を尊重してのところからくる感情。


「意識に飲まれないで下さい!」

「ぐ……ぐぎ……」


歯を食いしばり、ゆっくりと首を動かし、辺りを見回す。情報を少しづつ整理し、器の容量を増やす努力をしている。


「かはぁ! はあはあ……まだまだ……」


反復運動のように、意識が戻ってはまた活性化させ、思考を高速回転させる。足元はふらつき、それでも目を見開き、視界に飛び込んでくる情報を整理する動作を何度も繰り返す。


一時間は経っただろうか、カルメラちゃんは憔悴した状態の表情で、瞳から光を失う。危険な状態だが……ここで止めれば、カルメラちゃんは私を嫌悪するだろう。


「まだ……まだ……」


ブツリブツリと独り言を念仏のように唱えて、辺りを見回す。やはり瞳からは生気が抜けている……私はこの後に起こる事を理解していた。


それは彼女が『私を敵と認知する』ということだった。


そして、その予測は当たる。カルメラちゃんは意識を取り戻さないまま、光の失われた瞳で私を目標物ととらえると、肉体の活性化を自然に起こす。


すでに暴走状態に陥っていたか……ならばあなたの全力でかかって来てください。私はそれを全力で受け止めましょう!!

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