いくぞ必殺! ビックリ技!
そう、現時点で私の理論を教えることは、シルルとカルメラちゃんが自然界に降り立った時に、強者として人間の社会になる。いわゆる『勇者』という職業が似合う程だろう。
「そ、そうですね……この秘術はやはり教えるのはき……けん……」
私は考え込みながら、「ん?」と、カルメラちゃんのキラキラとした目の輝きに否定的な意見は頭の片隅に粗末な物を扱うように投げ捨てた。可愛いは正義だよ!
「では、教えましょう」
「やたっ!」
無邪気なはしゃぎっぷりですが、本当にいいのか迷うが放り投げた疑問を掘り返すのは野暮だ。というか必要がない。
「質問があればうかがいますが?」
「疑問なのですが……多重詠唱とはどのようなものかと……」
「なるほど、そのような事ですか。ならば見本をお見せしますので」
「本当ですか!」
コホンと、一旦の間を作り、準備を整える。何十年ぶりの作法ですから緊張もします。
「では、そばに見える岩山を対象にします」
「はい!」
「まずは、肉体の活性化です。これは思考速度や肉体の改造だと思ってください。高速戦は人間の間ではまず目にかかれませんし、そして、肉体の活性化はあくまで補助的な役割のものだと認知してください」
さてさて、どう見せるかが難題ですね。単純に連続して魔法を打つのは多重詠唱ではないですし……ふぅーむ。
「よし、決めました」
「わくわくしますね!」
「その好奇心と向上心は感心できます。では、参りましょう」
私は体内の魔素と筋力素を活性化させ、二つの素質を結合させる。筋肉はギュッと引き締まり、頭の思考が状況と幾つものパターンを演算し始める。
「ふっ」
一言と微量の息を口から吹くと、残像を残した状態で、まずは岩山に手を付き、時限魔法を配置する。
一瞬の移動を目にとらえきれなかったカルメラちゃんは、いまだ残像を見ている。だが、すでに下準備の最中だ。
「師匠がゆらゆらしてる……違う、これは!?」
「カルメラちゃんこちらです!」
私の声のする方角に顔を向けるとそこにはまたしても岩山に残像が残った状態で私は他の場所に移動していた。困惑するカルメラちゃんを他所に次々に壁面に手をつき、魔法陣の元祖ともいえる精霊を集める紋章を壁面に残していった。
「目では追えないほどに速い!」
カルメラちゃんが首や視点をあちらこちらに向けて、混乱している。しかし、その間にも私は岩山を取り囲むように3箇所に紋章を書いていった。
何が起こっているのか見当もつかない様子のカルメラちゃんの横に、音もなく風を感じさせる。
「師匠!?」
「ただいま戻りました」
「あまりにも速すぎて……」
「最初はそんなものです。では盛大な花火でも打ち上げましょうか」
「……?」
首を傾げるカルメラちゃんを横に私は発動の合図をおくる。
「ブート!」
その瞬間、岩山が一瞬輝くと、私の魔法陣の紋章が反応する。そして、岩山から時限魔法の火柱が上がり、それと同時に周囲に風が巻き起こり、電流が走り始める。三つの紋章は呼吸するかのように反応した。
「三つの属性が同時に……これが多重魔法……」
「これで終わりではありません」
その瞬間、岩場は輝きを放ち、3つの元素は融合するようにまとまりあう。轟音と雷鳴を轟かせ、上部が大きく光放つと、私はカルメラちゃんを抱き上げ、その場から瞬間的に遠のいた。
ズガガガガ、ドーン!
カルメラちゃんはその瞬間を目撃し、言葉を失った。目の先にある岩場は粉々に粉砕され、弾け飛んだ石ころが転がる。
「よっと」
私は安全な場所に着地し、カルメラちゃんをおろす。
「これが多重魔法……」
「そうです、同時に複数の魔法を中央に集め、標的を攻撃し、一気に畳みかける方法です。ちなみに魔法陣を時限仕様にしていますので、精霊が集まるだけで、魔力を使わないという利点もあります」
「こんなの人間界で披露したら常識が覆ります。一つの魔法を遅い詠唱と間違った術式で使っているのに……たしかに禁忌になるのもうなずけます」
「これが『メイサ式魔法術』です。参考になりましたか?」
目が点になり、開いた口がふさがらない何とも言えない表情で硬直するカルメラちゃんに問いかけますが……まあ、こうなるのが普通か。
「師匠……」
「どうしました?」
「……あの、私に教えていたもらえませんか?」
「そのつもりですよ」
私は笑顔でカルメラちゃんの問いかけに答える。
「ところで師匠」
「なんでしょうか?」
「あれは師匠が編み出した戦術なのですか?」
「えぇ、私には才能も力量もありません。学院時代にいかにして優秀な成績を残すかということで、考案しました。この戦術にはレイニス先輩も少々焦っていたようにも見えましたが、互角に渡り合えて、私は満足しています」
「第一階級の大悪魔と互角に……それも、学生で……」
「まあ、あちらがどこまで本気だったかわかりません。さて、時間もありません。とりあえず今日は肉体強化を学びましょう」
「はい!」