メイサ流! 教えましょう!
「ではシルル、肉体強化された時の事は覚えていますでしょうか?」
「うにゃ、あいまいにゃ……でも、あれは魔法にゃ、魔法なしで身体の能力を向上させる方法なんてあるのかにゃ?」
ふむ、これはどこから説明したものか。本来であれば強化という行為おいて必要なのは魔法のブートとなる。
「質問を変えましょう。あなたは身近にある岩を砕くことはできますか?」
「無茶にゃ、拳が壊れるにゃ」
「そうですね、セスタスのような拳をカバーできる武器や、腕力が必要ですね。そこは分かっていると」
「そんにゃのバカでもわかるにゃ」
「ではこれでどうでしょうか?」
私は何も考えずに、足元に転がる岩石に向けて、拳を振り降ろした。
「メイサっ!」
「師匠!?」
だが、結果は二人が焦るほどのものではなかった。岩石は砕け散り、私の拳は外傷の痕すらない。当然だが二人は驚いた表情で固まり、言葉を失っている。
ハッハッハ、これがメイサ流戦闘術よ!
「お、お前……痛くないのかにゃ?」
「まったく痛くもありません。これが私の自然力による肉体強化です。もちろん強化魔法は使用していません」
「う、うそにゃ……悪魔だからとかじゃないのかにゃ?」
「種族は関係ありませんよ。私は最初に自分は魔法派に分類されるといったでしょう?」
「どういう理屈なのでしょうか? 私には師匠の理論に不明な点が多くあり……」
「では、簡単に説明いたします。肉体派と魔法派と万物の生物は大きく2つに分類されます。ですが、肉体派は最初から魔法を使うという事はできません。それは身体の粒子構造に違いがあります」
「粒子構造?」
「はい、肉体派の粒子構造はマイナス極の魔素粒子とマイナスの筋力素粒子が存在します。マイナス極とマイナス極ではどうなりますか?」
「磁石で考えれば引っ付く事はありません」
「そうです、肉体派はもともとが魔力を弾く要素を備えています。ですが、魔法派はプラスの魔素粒子とマイナスの筋力素粒子を持っています。この時点で、魔法派は自己の強化に長けています。そして、魔法の効力はプラスの素粒子を含み、他者の強化が容易におこなえます」
「その理論ですと、魔法派は自分の自然強化も容易におこなえて、他者にも恩恵を授けることができる……」
「正解です」
さすがはカルメラちゃんですね。この理論は異端視されても仕方がないことですが、この世界に生きるどんな種族も知りえない。
「どうすればいいにゃ?」
「簡単ですよ、シルルの細胞に眠るマイナスの魔素粒子を活性化させて、プラス極に変換するだけです。ですが、肉体派は魔粒子を活性化させても、魔法を具現化するほどの魔力量は持ち合わせていません」
「魔法は使えないのかにゃ……それは残念にゃけど、強くなれるなら何でもいいにゃ」
こういう時に楽観的思考であるのは得ですね。本来であれば、魔法が使えなければ必要ないと判断するのがほとんどですが、実演を見せたのはいい例になったでしょう。
「私は活性化させることなく強化できるのですね?」
「はい、もちろんです。ですが魔法派にも問題はあります。骨格と筋力の差を埋めることはできません」
「という事は、私が魔力と筋力を結合させても岩石は砕けないのでしょうか?」
「最悪、骨折します。そこは先ほどのように魔法で対処するしかありません。出来ることは、どちらも共通して言えることですが、反射速度、運動能力の向上、といった身体的な能力を伸ばせます」
「ちょっと待つにゃ、メイサは岩石を砕いたときは無傷なのは矛盾してるにゃ」
「気付きましたか、あれは回復魔法を事前にかけて保護していたから出来たのです」
「ん! という事は時限性の回復魔法などを付与しておけば物理的な攻撃も可能……」
「鋭いですね。ではエリッサ」
「はい、お嬢様」
エリッサは私に呼ばれると、シルルの目の前に地面から大きな岸壁を生やす。
「これでよろしいでしょうか?」
「大きさも厚さも十分ですね、ありがとう」
シルルの目の前には、高さ3メートル、横幅4メートル、厚さ1メートルの岸壁がそびえ立つ。
「では、がんばって」
「ちょ、にゃんかコツとかないのかにゃ!?」
「エリッサが教えてくれますよ。私はカルメラちゃんに魔法陣の活用方法を教えねばなりません」
「師匠、魔法陣は……」
「寂れた誰も使わないと思っていますね?」
「……はい」
「心配は無用です。これも論文にしましたが……あはは、焼却されてしまいました」
「師匠の考えはそこまで危険なのですか?」
「そのようですね……」
私の考えは変革をもたらすとまで言われた危険なもの。その内容を知る者は6大悪魔以外にはいない禁忌。
「では、カルメラちゃんには魔法陣を使用した多段詠唱を教えましょう」
「多段魔法?」
「連続して幾つもの魔法を連鎖的に発動させる高等技術です。今は失われてしまった多重詠唱を簡略化させた方法なので、カルメラちゃんなら習得も容易いでしょう」
「あの……」
「どうしました?」
かしこまる様子のカルメラちゃん。初めてのことで緊張しているのかな? 可愛いじゃないの、ふほほ。
「緊張しなくても大丈夫ですよ」
「いえ、それを習得すると、自然界では最強の魔法使いになりませんか? 高速で戦闘をこなし、失われた多重詠唱を再現する魔法使い……」
「あっ」