高速戦闘! でも禁忌です。
朝食を食べ終えた私たちは城から離れた場所の平原に場所に移動する。
私は自分の理論を用いてシルルとカルメラちゃんの訓練をすることを思案する。二人は私の目の前に座り、不思議そうな顔で見上げ、何をするのかを待っていた。
そして、開口一番の言葉に目を丸くする。
「いいですか、戦闘はなにも格闘も魔法も別個に分ける必要はありません。どちらも一緒の戦法が可能なのです」
「どういうことにゃ?」
「同じ戦法ですか?」
「はい、キーワードは『高速戦』という事です。難易度は高い戦法ですが、私はこれがどちらの職業にも必要なものであると考えています」
私の説明に戸惑う二人は互いの顔を見合わせた。それもそうだろう、何を言っているのか分からないのは当然だ。私の理論は魔界でも異物として論文が封印された禁書として扱われている。その禁忌となる事を始めるのだから。
「師匠の話では肉体派も魔法派も同じ戦法をとることに聞こえるのですが……」
「そうです、前衛となる格闘スタイルも、後衛に徹する魔法スタイルも戦いの場においては同じというのが私の考えです。簡単に言うのであれば魔法使いでも前衛の動きがとれ、格闘系の戦士などと同じ土俵に立てるという事です」
「どういう事にゃ?」
「では、百聞は一見にしかずということで事例を見せましょう」
私は岩山を指さし、視線を誘導する。
「では『高速戦』とはなんなのかということですが、私の基本スタイルは魔法系に分類されます。ですが、魔法使いが何も詠唱し、のらりくらりと戦うのは常識という概念は捨てましょう」
そう言って、私は腰を低く落とし、「あの岩を砕きます」と言い、即座に戦闘態勢に移行する。
そして、10メートルは離れている岩山へ一瞬に移動し、岩肌にペタリと手を付き、また二人の前に瞬時に戻る。この間にかかった時間はおよそ3秒程度。
「これが高速戦闘です」
そう言うと、私はパチンと指を鳴らす。それと同時に岩山は轟音をたて、四方八方に爆散した。
「な、なんにゃ!?」
「無詠唱の肉体強化と時限魔法!?」
「カルメラちゃん残念、おしいです。私は魔法で肉体の強化はしていません。確かに岩山には時限の爆散魔法は仕掛けましたが、これは自然の肉体強化と魔法を組み合わせた方法です」
「ど、どういうことなのでしょうか?」
「疑問に思うかもしれません。ですが格闘も魔法も同列な扱いで使用すれば、格闘は本来の戦闘スタイルの強化、魔法使いも格闘と同じ戦いが出来るという事です」
古来から現代までの戦闘スタイルに誰も疑問を抱かなったのは、それが『当り前』という風潮に流されてしまっていたという事だろう。
だが、その方法を分析し、新たな戦術として公表した学院時代の私の論文は、危険な書物として封印されてしまった。すでに焼き払われ世には存在していないかもしれない。
「魔法での肉体強化は容易です、ですが余計な魔力を使ってしまう。そして、パーティでは荷物になることもあるでしょう」
「確かに魔法使いなどはパーティでは守られながら、仲間の強化や、威力高い魔法を放つために詠唱に時間をかけます」
「待つにゃ、ウチ等でも個々の肉体強化が出来るのかにゃ?」
「もちろんですよ。そしてカルメラちゃんの分析と経験は間違ってはいません。ですが、実力や経験があれば、一人で戦うことはどちらの職も可能なのです」
チンプンカンプンな事を話しているのは分かってはいるが、ここで理解してもらわないと困る。だが、改めて考えると私の戦法は確かに危険な内容を秘めているのは確かだ。パーティという概念を打ち砕き、古来有志からの伝統も破壊してしまう。なにより、この戦法を知っていれば、下位の者でも上位の者に職業を問わず挑戦できるという事だろう。
するとメイド長のエリッサが姫様の手をつなぎ、シルルとカルメラちゃんの二人にアドバイスを残す。
「お嬢様の独自の戦法でございますね。私も拝見したことは御座います。学院時代の実技訓練でメアモトス公爵様と半日以上戦い続けた戦法で御座いますものね」
「エリッサ、そんな昔の話を持ち出されても……本気でしたからね」
「お前、あのロリババアと半日以上も戦ったのかにゃ!?」
「え、えぇ……相手が本気であったかどうかは知りませんが、戦いましたね」
「ふふ、いまでも学院の伝説として語り継がれております。お二方とも、お嬢様直々の戦闘訓練をお受けできるのは羨ましく思います」
「メイサ、教えて欲しいにゃ!」
「師匠、お願いします!」
「そんなにガッツかないで下さい。教えられる事は教えますから」
こうして、シルルとカルメラちゃんの強化訓練が始まる。私にも野望があった。この戦法を熟知した二人がどこまで強くなるかを考えると私の理論を否定し、恐れた理由も明確にできる。すでに伝説として語られる、レイニス先輩との実戦において成果はあるが、学院は当時の記録を認めてはいない。レイニス先輩が私と対等に話す理由となった一件でもある。
「さて、まずはシルルからいきましょうか」




