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正体がばれます。テヘッ

 さぁてと……依頼書に書かれている住所はここかな? と私の目に前には木造の広い屋敷が私を待っていたかのように(たたず)む。


 広い敷地にぽつんと残る屋敷はボロく、いつ崩れてもおかしくないほどに老朽化していた。外観からは手入れもされず、放置された様子の寂しさが漂う雰囲気。


 ま、木製なんて屋敷は手入れしてないと自然と朽ちるもんですが、それにしてもボロい。何年という単位ではない十数年という単位で放置されている。


 依頼の内容はこの敷地を購入した貴族様からの依頼だ。なんでも内検(ないけん)に何度も冒険者を向かわせたが、帰ってくるものは1人もいなかったとのこと。


 では、なぜに小鬼(ブリムル)という悪魔種の討伐とかかれていたのか、それは下町の伝承を信じたのだろう。それ以外には考えにくい。


 小鬼(ブリムル)は最下級悪魔の部類で時々ではあるが、人間の世界に迷い込むことがある。その時にイタズラをしたりと人々をビックリさせる事を起こすイタズラ者として伝承が語り継がれている。


 『悪い子には小鬼が(さら)いにくるぞ』といった感じだろうか、子供のイタズラに対する脅迫じみた話をしているのではないだろうか。まさか、そんな馬鹿げた話を信じたわけではあるまい。それに小鬼に人を殺せることはできない。


 小鬼(ブリムル)は、人を襲うほどに凶暴な悪魔ではないのは承知だ。では『どんな悪魔か?』と尋ねられれば簡潔に応えましょう。


 彼らは気に入ったお手製のお面を付けて、腰みの一つで踊るという宴が好きな種族だ。決してイタズラや、誰かを怖がらせるという事はしない。ましてや、人間を襲って殺すなど考えられない。その理由は単純だ。彼らは小動物にすら恐怖をする臆病者だからだ。


 私はこの依頼書に書かれている小鬼の討伐というのは建前であり、もっと深いところには手のつけられない悪魔が巣食っていいると判断した。数々の冒険者を喰らう悪魔……。


 っと。思ったのだけども、悪魔って人間を食べることはないんだよねぇ。人間を喰う種族といえば悪魔種でも限られる。『上級悪魔(デモニアック)』だ。とはいえ、生で肉を食らうことはない。腐肉が好みなのだ。生きている人間を食べようとする奴はいない。


 しかし、ここを調べに入った人間の生死は不明だが、個人的な見解としては、精気を吸われたのだろうとは思う。


 考え事をしながら歩いていると、目の前に2匹に小鬼(ブリムル)を発見する。赤茶色の肌に身長は8歳児の平均的な身長。センスのないお面を被り、二匹して踊っている。


 無害じゃないから問題ないのだけど、さっきも言ったとおりに小鬼がこの世界に来る事は稀だ。その稀な悪魔が二匹もいるのは不自然だろう。では、どうやってこの世界に来たのかという方法だ。たまたま巻き込まれたというのは難しい。確実なのは人間界にこれるほどの位を持った悪魔に一緒に連れてこられたという事が一番納得のいく理由だろう。


 私は、踊りに夢中になっている小鬼(ブリムル)の傍に立つ。

 

 疑問に思うかもしれないが、なぜ傍まで来て気付かれないのかと思われるだろう。これも答えは単純だ。相手は自分達のことが視えてはいないと考えているからだ。


 下級の悪魔の存在は幽霊と似ている。存在する次元が紙一重で違うため、裸眼ではその姿を視る事は不可能だ。それが冒険者組合で討伐した証明が出来ないと説明した理由だ。まぁ、バッチリ見えてるのだけど……。


 懐の巾着袋から銅貨を一枚取り出すと、私はそれを地面にポイっと投げた。


 チャリンという音ともに景気よく弾む硬貨。踊りを止めて転がる硬貨に釘付けの小鬼――。


 その瞬間二匹の小鬼(ブリムル)は転がる硬貨に飛びついた。硬貨を拾い上げ、首をかしげ「ゲゲゲックック」と二匹が会話をしている。翻訳すれば『えーもんめっけ、よくね?』といったところだ。


 門番?(ブリムル) を軽くいなし、私は「フッ」と格好を付けて二匹をスルーする。小鬼(ブリムル)見たことのない物を好む習性がある。収集癖ともいうが、特に光るものには目がない。硬貨なんかは彼らにとっては不思議な代物だ。丸くてキラキラして少々の造詣(ぞうけい)が施されている。


 彼らにとっては志向の一品というわけだ。それ一個でパンが1個は買えるんだよ? 大事にしまっておきなね。


 さて、問題はこの屋敷のどこかに潜む悪魔なのだけど――ちなみに、私は悪魔祓いではない。私自身が悪魔なのに、どうやって祓えというのか。だが、悪魔の居る場所は特定できる感ぐらいは持っている。


 私は勘を頼りに明け方でも薄暗い通路を歩いて行った。考えが正しければ悪魔は宝物庫に居ることが多い。人間の欲望という念が溜まった部屋だからだ。


 悪魔にとって人間の感情というのは味がある食料みたいなものだ。味の好みは個体別になるが、共通して旨いと思えるのは負の感情やマイナス面に傾いた高揚感だろう。前者は気分が安定しない事を指すが、後者は財欲や何かを殺したときの感情の高まりだ。


 私はどちらも美味(おい)しいとは思わないし、精気を吸うことだってない。悪魔だって生まれも違えば、育つ環境や固体によって様々だ。


 ん? 腐臭……? 何か腐った匂いが漂っている。それも特定した場所に近づくにつれて……やはり何かいるのか。


 一枚の大きな扉が私の前に立ち塞がる。だが、お構いなしに扉を蹴飛ばし、扉は蝶番(ちょうつがい)ごと吹き飛んでいった。


 「う! クサッ!!」


 あまりの異臭というか、これは死臭に鼻がもぎ取られそうになる。そして聞こえる不気味な声が――。


 「ゲヒヒヒ、また人間が迷い込んできたか、精気を吸い尽くしてくれよう!」


 チラリと声のする方向に首を動かすと、私は短刀を投げた。ビィィンと壁に突き刺さる。自衛行動をとったわけではない。挨拶をしたといったところだろう。当たったとしても、悪魔には効かない。この辺は魔物と違う。


 暗闇の中から姿を現すまだら色の蜘蛛、私の短刀はその蜘蛛の右の壁に突き刺さっていた。


 「ほほぅ、こんな暗い部屋で的確に狙う……と……わぁ――!?」


 「お前なにやってんの?」


 冷めた目でいきがっていた蜘蛛の悪魔に対して、少々の怒り口調で言葉を吐いた。そして、蜘蛛の悪魔は驚いた様子で叫ぶ。


 「お、お嬢様ぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 さて、現在。私は任務の最中ではあるが……困ったことに、私が見つけたのは、私を『お嬢様』と呼ぶ蜘蛛の悪魔を見つつ「デアボラ」と呟いた。


 『デアボラ』と呼ばれた悪魔は、のそのそと日のあたる場所に姿を現した。大きさは昆虫の蜘蛛の比ではない。可愛くもない人間1人を仕舞い込めるほどの図体、トゲトゲしい複数の足。これだけでも虫嫌いにとっては恐怖の対象だろう――軽く気絶できるね。


 「お嬢様、お探ししておりました!」

 「私を? なんで?」

 「魔物が滅び、行方不明になられた事を旦那様はいたく心配されております」

 「ほー、あの親父がかい?」

 「ええ、魔界に戻らないのかと……」


 そいつはノーセンキューだ。私には魔王様から与えられた使命がある。それは半分以下の決意だけど。(ほとん)どは姫様との生活が楽しい。それ以上の理由があるか――!! もんくあっか――!? あぁん?


 「とにかく私は戻れないと伝えてくれ」

 「な、なぜ……婚期を逃すと、旦那様が……」


 私の眉間にプチリと見ッ感が浮き出る。


 「今、なんつった?」

 「ですから、婚期を逃すと……」

 「あんたは消し炭になって魔界に帰りたいのかなぁ?」

 「ひ、ひぃ!」


 婚期なんざとっくに過ぎてるよ。ただ単に親父は、私に戻ってきてもらいたいだけだろう。そんな事で……戻るわけはない。


 「嫌だと言ったら?」

 「私が旦那様にお叱りを……」

 「それでいいじゃん」

 「あ、いやぁ、それは困るかと……それにで御座います、魔界32貴族の公爵の娘としての自覚が――」

 「ないよ」


 うん、即答。そんなものあるわけないじゃーん。知らない奴と見合いでもさせられたら身が持たない。それに、私は『美少女』が好きだ! それでパンは一斤は軽くいけちゃうね!


 私は死臭する中で、口と鼻を布で覆い、あたりを見回すと、精気を吸われた遺体がいくつも転がっていた。


 「デアボラ、お前は何人殺した?」

 「こ、殺したとは侵害で御座います! 私は精気を吸っただけで……その後は勝手に」


 精気を吸ってる時点で殺しているようなものだけどな? この昆虫は何を言ってるんだと突っ込みを入れたいくらいだ。だがぁこれはこれでいい思いが出来そうだ。


 私は遺体に近づきガサゴソと衣服を探る。すると巾着袋を発見し、ニシシと微笑む。中身を確認し銀貨十一枚を発見し、銅貨もあるねとうなずく。


 「お嬢様は何を?」

 「ん? 見て分からないのかい、死んだ人間から金品を貰ってるんだよ」

 「それでは泥棒で御座います!!」

 「じゃっかましぃ!! 死んだ人間から何を拝借しようとこっちの勝手だ! 供養だ供養」


 最低? うーん、悪魔にとっては最高の褒め言葉で御座いますよ。私は悪魔、死体は人間、何の情も沸かないで御座いますことよ。オホホホ。あ、指輪は足がつくからやべぇな。


 「お嬢様、手馴れておりますね」

 「こうでもしないと生きていけなかったんだよ。今の私は魔王様のご息女を預かる身だからね」

 「という事は、魔王様との契約は残っているのですね」

 「そういうことになるかなぁ」

 「分かりました、このデアボラ、旦那様にそのように報告しておきます」

 「頼んだよ」


 契約とは、悪魔と魔物の間で交わされている協定みたいなものだ。私は魔王様のご指名を受けて契約をした。魔王様の亡き後もシャレル様を御守(おまも)りする契約がある。今の主人はシャレル様ということになるが、シャレル様は人間界になじめていない側面がある。


 まぁ、今は朝食を食べて、人間の使う文字を勉強中だろう。私との会話でも魔族の使う言葉で話したりはしていたが、外に出るとぎこちない様子ではあるが、人間の使う言葉で話している。


 私は、姫様が人間の言葉を話せるように、教材として子供でも読める本を幾つかお渡しした。姫様はたいそう喜んでくれたが、本を開くと、頭の上には『?』の記号が出たり引っ込んだりしていた。


 「ところでさ、あんたは小鬼を連れて私を探しに?」

 「小鬼は勝手に付いて来ただけでして、探そうにもこの体で外をうろつく訳にも行きませんしと、途方に暮れていたところに廃屋を見つけたものですから……」

 「それがこの屋敷か」

 「その通りで御座います」


 デアボラも親父と私の板ばさみで苦労しているのだろう。だからといって奴の気持ちを斟酌(しんしゃく)するほどの心の隙間は御座いません。私の胸は姫様でいっぱいなのです、他者の気持ちなど知ったことかと。


 「おっし、随分あったな。これでしばらくは食うには困らない。それに金貨の報酬もあるし、いいこと尽くめだね」

 「お金にお困りですか?」

 「なに? 持ってんの?」

 「魔界の硬貨ならいくらでも腹にしまっておりますぞ?」

 「人間の世界で使えるわけがなかろうが!」


 しょぼくれるデアボラだったが、私はさりげなく優しい言葉を贈る。


 「デアボラ」

 「何で御座いましょう?」

 「ここにある死体を全部を魔界に持って帰ってくれる? 腐肉を好む”上級悪魔(でモアニック)”も居るだろうしさ、土産がないと体裁が悪いだろ?」

 「お、お嬢様――!! お嬢様はやはりお優しい方で御座いますね!」

 オンオンと泣く姿に私は『しょうがないね』といった哀愁を漂わせる笑顔で――まぁ違うんですけどね!!


 この後に、組合の調査団が入る予定など知っていたら死体からちょろまかした金品の行方に疑いの目が向けられる。ここは死体を持って帰ってもらって証拠の隠滅で我が身は潔白の白い花。悪魔だからという理由で差別は駄目だ。知恵が回ると理解してほしい。


 そして、デアボラは小鬼と死体を持って魔界に帰っていった。グフフ、これで金貨8枚はいいんじゃない? それに死体から漁った貨幣もたんまりでホクホクよ。


 笑顔が絶えない様子で私は組合に戻り、任務の完了報告をする。


 受付嬢と主任は目を丸くしていたが、そんな事はしらん。急いで組合から外に出て宿屋へと直行する。


 息を切らし、肩を上げ下げしていた私は部屋のドアを開く。


 「ただいま戻りました姫様!」


 私の言葉に反応し、本を床に投げ捨て走って抱きついてくる姫様。あぁ、私はこのために生きている。それが私の小さな幸せ。


 ――が。


 「う、メイサ臭う……」


 しまった、死体の転がる部屋に長居しすぎた――!! 逃げる姫様の後姿に手を伸ばし、泣きそうな顔で私は小さな幸せがパタパタと飛んで逃げる印象を受ける。


 「そんな、姫様ぁ……」

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