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到着です! ひぇぇ、都会…

さて、今日は待ちに待った日です。一日程度ですけどね。それでも、(みな)さんはシルルを除いてそわそわとしっぱなしです。姫様は私より先に起きて、耳元で目覚ましコール。いやぁ、朝から癒されますわぁ。なぜかって? そりゃ耳元で小鳥の鳴くような小さな声で「あさだよぉ」なんて、あはは堪りませんな。


カルメラちゃんも余程たのしみなのか、あまり寝付けなかった様子。目の下には若干のクマで少々黒ずんでます。


まぁ、シルルは爆睡でしたが。


さぁ、着替えて朝ごはん食べて出発だ! ということで転移陣のある部屋へと案内する。


魔法陣の線はキラキラと輝き、白い(もや)が小さな小部屋に漂う。


「これが……えっと、魔法陣?」

「魔法陣は初めてですか?」

「はい……歴史の本で見たことぐらいしか」

「今は詠唱が主流ですからね。見たことないのは当然かもしれません。魔法陣は約200年前に流行った方法です。ですが、効率が悪いので敬遠する人達も増えてしまってますから。そりゃ、効果が一緒なら魔法陣を書くよりは、詠唱をって……なんですシルル」


ジト目で私を見る視線に疑問を感じたが、本人的には大した理由はなかった。


「早くいくにゃ」

「メイサ、私もはやくいきたい!」

「立ち話も長くなるといけませんし、行きましょうか。では一人ずつどうぞ」


最初に魔法陣を踏んで飛ばされたのはシルルだった。何気なく闊歩し、面倒くさそうに頭であぐらをかいた格好でヒュッと消え去る。


「うわぁ、シルルがきえた!」

「こ、怖くないのかな?」


意外と度胸のある一面を見せることのあるシルルだが、まぁ……どうだろうな……。


そして、次々に魔法陣へと飛び込んでいった。一瞬で景色が変わる様子に驚いているのは私が到着した時の事だった。


姫様はキョロキョロと辺りを見回し、カルメラちゃんは呆然としている。だが、シルルは大きなあくびであまり表情は変わっていない。しかし、到着した私自身も周りの様子にポカンと口を開けた。


「ここは……?」


到着した場所は、薄暗い部屋の中、所狭しと機材が置かれ、白衣を着た悪魔が右往左往と歩いている。


「ようこそおいで下さいました」


私は声の主に反応し、顔を反らせてみせると、そこには白衣の若い男性とレイニス先輩の姿が――。


「あ、どうもって先輩!?」

「よぉ、奇遇じゃな。というよりはお前たちを待っておったのじゃ」

「うにゃ? ロリババアがいるにゃ」



ゴィン。



先輩は間髪入れずに、シルルの前頭部を跳ね上がって殴りつける。


「そういう言い方をするでない、このバカ猫めが」

「うぅ、痛いにゃ……」


まぁ、自業自得ということで放って置こう。で、問題は白衣の男性が迎えてくれたのはなんとなくわかる。だが、なぜ先輩が?


「あの、先輩はどうしてここに?」

「メイドーサの父から頼まれておってな、それよりも場所の説明をせねば子供らは困惑するじゃろ?」

「そ、そうですね」

「それでしたら僕がいたします。ようこそおいで下さいましたメイドーサ様とお連れの皆様方。ここは第15階級のパプキス伯の領地の一部であるフロイゾルです。現在の場所は機関研究所の中になります」

「ほう、研究所ですか」


すると、若い研究員は身体を反らし、右手で私たちの行く先を示してくれる。


流石は魔界でも発展が著しいヘネティア公の大陸。周りの研究物を見てもさっぱりわからないものだらけだ。時折シューっと聴こえるのは蒸気機関か何かだろうか?


シルル以外は周りに興味津々だ。姫様もカルメラちゃんも目が点になってる。なかなか拝めない二人の表情に、連れてきてよかったのかもしれない。


「メイドーサ、街の案内は我がしよう」

「あ、それは助かります。いやぁ、私でも迷子になりそうなので」

「いなかっぺはこれにゃから大変にゃ」

「あぁん? その田舎の飯に喜び勇んで飛びつくのはどこの猫だ?」

「ご飯は別にゃ」

「都合のいいことで、ところで……あ――、あなたは?」

「こ、これは失礼を、僕は当研究所の熱源蒸気研究員のキコーレと申します。メイドーサ様のお父様でありますルトバルル閣下には大変お世話になっておりまして」

「親父が? それは初耳ですね」

「当研究所に資金を出資してくださっていますので、本当に助かります。現在開発中の蒸気式稲刈り機を」

「あぁ――。流石に手作業じゃ面倒だということでか……異文化は持ち込まない主義かと思ってたけど」

「あの、キコーレさん。ここでは蒸気機関の研究が?」

「キコーレで構いませんよお嬢さん」


キコーレのやわらかい笑顔にカルメラちゃんはちょっと恥ずかしそう。んっまぁ――! 私のカルメラちゃんに色目を使うとは!?


「あ、いや……流石に目上の方なので」

「ははっ、それでしたらご自由にどうぞ。研究所の話ですね。ここはルトバルル閣下専用といいますか、メイドーサ様の住むレダニ大陸の国々を対象とした農具の開発をおこなっています」

「へぇ、一応は国の領主達の事もかんがえてるんだ」

「あやつは昔からそうじゃぞ?」

「どういうことです?」

「我とは旧友の仲でな、前の肉体の頃は色々とぶつかりあったもんじゃ。あやつは顔には出さないが、自分の管轄する大陸の各国の当主に気を使っている」

「ほへぇ――」


(レイニス先輩って何歳なんだという疑問も残るが、これでもレディだ。歳を訊くのも失礼か。親父もなんだかんだで下からの信頼も厚いのは知ってはいるけど、陰では色々としているんだな)


そう思っていると、研究所の出入り口に到着する。赤いドアの向こう側の世界。それはどんなものなのだろうかと私は少しの緊張を持ち、ドアが開かれる。


薄暗い部屋に日の光が目の前を白く写し、まるで目くらましでも受けたかのようだった。細目で日光から逃げ、うっすらと観える世界に瞳は徐々に大きく開いた。


「し……師匠……」

「え、えぇ……」

「うわぁ!」


私と姫様、そしてカルメラちゃんは外の世界を唖然とした表情で街の風景を観る。


道はレンガ状の物で補装され、街を行き交う悪魔たちの服装の違い。人間界で着られている服とは全く違う、一つの完成された文化というべきだろう。冒険者などという浪人の格好をした者はいない。むしろ浮いてしまうのではないかというほどの違い。軽快に着こなすラフな服装、デザインの統一感のない様々な配色の服。これはまるで1000以上も前の人間社会……。


そして、私たちをもっとも驚かせたのは建物が乱立していることだ。木造で建てられたものではなく、レンガのレの字もない。さらりとした凹凸のない表面に、木造でもない硬い外壁。今の人間界でも2階建ては珍しい部類に入る中であるのに対し3階建ての建物は当り前、4階、5階と高い建物がそびえる用に建っている……これが、魔界でも屈指の都会といわれるフロイゾル。


「あんまりアホにゃ顔してると田舎からでてきたってばれるにゃ」

「はっは、言うのう猫めが。まぁ、確かに猫のいう通りじゃ、その服装では……問題はないか」

「あの、師匠……ここって、魔界ですよね? どうしてこんな……なんて言えば……」

「ま、魔界ですね。私もここまで違うのかと驚いてます。人間の真似事にしては度が過ぎている」

「その件に関してじゃが、閣下はよくは思ってはいない。ヘナティアのやり方に異議を唱える者は少なくはない。我らもそうじゃ。6大貴族の我を含めた5人はこれ以上の文明の進歩は有害にしかならぬと」

「でしょうね、これでは滅ぼされた人間社会の再現。しかし、ヘナティア公は何と?」

「あやつは一度言い出したら聞かぬ。自分の大陸をどう扱うかについては他者の介入は許さないと反論した。やれやれ、今は4代目。先代の妹ならばもう少しは違うと思うのじゃがな」


どこか先輩の悲しそうな表情に私は言葉が詰まる。先輩の妹のミルナレ・ド・ヘナティア公は1000年戦争で6大貴族の中で唯一命を落とされた方。魂は砕け、先輩のように現世転生は出来なかったと親父に聞いたことがある。


現在のルブラン・ド・ヘナティアはその子息……まぁ、深く考えても答えはでないでしょうし。もし、何かしらの問題があるとすれば、ベルトトス大公が自ら動くことでしょう。そうなれば文化の水準を落とさなければなりませんが。


「さて、なにをしようかのう?」

「蒸気機関が観たいです!」

「ほほう、人間に見せるのは問題があるのじゃが、そこは我の権限でどうにかしよう」

「やった!」

「姫様?」


私は姫様を探し、首を左右に振る。おや、何を熱心に見ているのでしょう? と思っていると、小走りで、私のもとに戻ってくる。


「メイサ、あの『あいす』ってなに?」

「さ、さぁ……食べ物でしょうか?」

「あっはっは、アイスも知らぬか! やれやれ、レダニ大陸の文化は遅れておるのう」

「本当にいなかっぺまるだしにゃ」

「うっさい! 田舎の食べ物はおいしいでしょうが!?」

「それは否定しないにゃ」

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