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あたしゃ知りません。 どうせいなかっぺですよ!

翌日、私は父の書斎に呼ばれ、現在は親父とレイニス先輩の前に立っている。二人は黙った様子で椅子に座り、言葉を選んでいるようにも見えた。


「あの、なぜ私はここに? 呼ばれた意味がわかりませんが?」

「ふむ、昨晩のレペルの騎士の襲撃事件ですが……メイサ、あなたは第5奏者を一瞬で倒したのは覚えていますか?」

「あ、いや……あまり……」

「本人はまだ自覚はないじゃろ? そう攻めてやるでない」

「しかし、時はいずれは訪れる。遅かれ早かれ話しておかなければならないでしょう」

「じゃが、当の本人も困惑する。ここは焦って説明をしても納得はできまいて」

「あの……話がみえませんが?」


先輩は私をかばっているのか、父の言動に歯止めをかけてくる。何かを伝えておきたいのはわかるが、理解できないものは理解ができない。


「今は話しても理解は出来ぬ、火事場のバカ力が出たとでも言っておけば納得するじゃろ。なぁ、メイドーサ?」

「はぁ、なんとなく理解できます」


うぅん? 二人は知っているのは確かなこと。ただそれが火事場で発揮されたものなのか、潜在的に持っている私自身の力なのかは今の時点では不明だ。


「わかりました。この件に関しましてはこれ以上は深くは話しません。あなたには向かうべき場所があるでしょう?」

「えーっと、あっ! カルメラちゃん!」

「そうじゃの、一番の被害者であるあの娘の所に行ってやれ」

「そうします!」


そう言って、私は書斎を飛び出した。


「遅かれ早かれじゃ、こちらが焦って醜態を晒すのもひけるじゃろ?」

「そうですね……今はゆっくりと待ちましょう。今回のことでレペルはあの子に手を出さなくなります」

「第5奏者の浄化……レペルも震えあがるじゃろう。存在自体を消されるのじゃからな」

「メイサの力は我々6大貴族を超える……親の立場からすれば不安ですが」

「まぁ、メイドーサ自身が決めること。我々はそのメイドーサを護らねばならぬ立場になったということだけじゃ」

「聖霊との戦いに備えてですか?」

「どうじゃろうな、聖霊の力も衰えた。ただ、人間の信仰が天界に向けられぬようにせねば、またあの時と同じ惨劇を繰り返す」

「そうですね。では、招集でもかけましょうか」


私は廊下を走り、カルメラちゃんの様態を心配していた。腹部を貫かれ、一時は死の淵に立たせてしまった事を後悔し、なんと言えばいいのか……。


(先輩は今後、カルメラちゃんは悪魔の力も持つ人間として生きていかなければならない。私が……ん? 私の魂を分けたのですからこれは義理のいや、本当の姉妹に!? おほぅ! これはよきかな……)


邪まな考えを引っ提げて、カルメラちゃんに会いに行こうとした矢先、廊下で姉と鉢合わせする。


「メイ!」

「なんでしょう?」

「昨晩の事は覚えているの?」

「いやぁ、あまり……」

「そう、ならいいわ。どちらにせよあなたは今の段階で次期当主として――」

「そんなのいりませぇーん」


ステップを踏み、軽やかに去ろうとする私に姉はブチ切れそうな表情だ。


「ちょっとメイ! 大事な話よ!?」

「当主なんかに興味はありませぇーん」


そう言い残し、私は姉の視界から消える。


「もう、本当に呆れるくらいに自由な子」


自室にたどり着くと、妙に緊張する。おや、中から楽しそうな声が聞こえてきますね……元気な証拠ということですか?


恐る恐るドアを開けると、朝食を楽しそうに食べている姫様とカルメラちゃん……と猫。


「おはようございまーす」

「師匠! おはようございます!」

「メイサおはよう!」

「うにゃ」


おめぇはそれだけか!? 『うにゃ』ってないじゃい!


「今日も元気そうですね、姫様にカルメラちゃん……と猫」

「げんきだよ! ご飯がおいしぃの」

「私も元気です。お腹のあたりに違和感がありますけど……気のせいですよね」


ギキッギクッ、ぬぅ……迂闊には話せないな……ここは、取り繕って。


「気のせいですよー。私もご飯にしましょうか」

「おまえ、にゃんか隠してるにゃ?」


猫め勘が鋭いな……。


「シルル、静かにしていれば、今夜は極上のステーキを用意しますよ?」

「ほんとかにゃ!? 魔界の動物は人間界の家畜よりうまいにゃぁ……よだれが止まらにゃいにゃ」

「そりゃそうですよ、人間が飼育している方法とは違いますからね。それに肉厚も違いますから食べ応えは十分」

「師匠、なぜにこんなにも違うのですか?」

「ふむ、魔界の畜産業は人間よりも進んでいますからね。古来の英知とでも言いましょうか。1000年以上も前の人間の文化を継承しているので」

「んにゃ? それならなんでおまえはパンツ穿いてなかったにゃ? レイビーは知っていたにゃ」

「遡りますねぇ、ふむ……ルトバルルの領地では人間の文化を取り入れなかった事が要因でしょうか」

「どうしてにゃ?」

「それは亡くなった先代にでも聞かなければわかりません。それに、領地といっても皆さんが想像するのは柵に囲まれた範囲を想像するでしょう」

「え、でも公爵なのですよね?」

「カルメラちゃんは食い付きましたか、そうです、魔界全体はベルトトス大公のものですが、普段は神界におられる方なので、魔界の6大陸は公爵の爵位をもつ6大貴族が管轄しています。それゆえに、国家間での文明の差が大きく、金属の加工物にしても品質は全く違います。『蒸気機関』という文明を持つ国もあるくらいです」

「聞きなれない言葉ですね……『蒸気機関』ですか……?」

「見学したいのでしたら申請しておきますが?」

「みたいみたぁーい!」

「あの、私も見てみたいです!」

「にゃるほど、この国は文化が基準が低いのにゃね?」

「ま、まぁ……6つの大陸では一番遅れているでしょうね」

「やっぱりいなかっぺにゃ」

「うっさい! ルトバルル家は自然を大事にしているのです!」


まぁ……都会に比べたら農地ばかりの田舎ですよ。それでもルトバルル家が統治する大陸は他の5つの大陸とくらべて食料の生産率は大陸内の国も含めて魔界1位なのですから


「でも、魔界は発展しているのに人間の住む世界はなぜ遅れているのでしょうか?」

「素朴な疑問をどうも。それについては戦争の影響が大きいでしょうね」

「では、人間も『蒸気機関』という文明を使っていたと?」

「だからこそ滅ぼされた。と、言うべきでしょうか。逸脱した自然の摂理に神々は怒りを示したのが始まりです」

「そして、時代は巻き戻った……」

「正解です。そして、見かねた悪魔は魔法という異文化を与えます。しかし、皮肉なことに、この魔法が文明の発展を遅らせているのは確かです。ですが――」

「わざと遅らせている……ではないでしょうか?」

「流石はカルメラちゃん。見事な推理です」


そう、人間達に知恵をつけさせて文明を発展させることは、同じ過ちを繰り返す事となる。大公はそれを考慮し、人間の文明の発展速度を遅め、異文化を与えて、科学という文明を根絶させた。そして、魔法がその科学の役割を担うことになる。

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