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てめぇ… メイサ怒ります!

戦力が集まり、悪魔側の優勢となる戦い。私は姉までもがレペルの騎士を狙っていたことに気付くことはなく、何やら囮に使われていたのではないかと思考する。


「なぜ姉さんまでも?」

「メイ、ここは私に任せなさい」

「ですが……」

「今のあんたに何が出来るの? レペルの騎士とまともに張り合えるとは思えないわ」


くっ……悔しいが、第5奏者までも相手に出来るとは思えない。第1階級の先輩ならば余裕だろう。第12奏者のアボニージョも姉ならば対等以上に戦える。自分の力のなさに悔しさが湧き上がる。


ルルングラはレイニス先輩とにらみ合っている。先輩はネグリジェのままの格好。この場所では異様に浮く。レイビーもシャテラも普段着、姉はドレスに合わせた部分的な甲冑で待機していた。3人を帰さなかった理由……親父はすでに感づいていたということ。


だが、この戦い何日続くのか? そこが心配だ。聖霊との戦いは1000年単位、レペルの騎士でも実力はそれなりにはある。


ルルングラも仮面を着け、黒いロングコートに身を包む。違うのは斬馬刀のような大きな剣を持ち、先輩を(まと)にし大振りで追いかける。


「ははは、我にそんな不格好な剣が当たるものか!」

「流石は第1階級のメアモトス」

「ほう、名前は知っておるのじゃな!」


ブォン、ブォンと振り回される剣の速度に追いつき、体を風で揺れるヤナギのように(かわす)す先輩。こっちは目で追うので精一杯だ。


「なんじゃ? 1000年戦争の恨みでも晴らしに来たのか? 謡われなければ存在すらも出来ぬ惰弱(だじゃく)な子分の分際が!」

「否定はしない……しかし、我らが主の聖霊様を愚弄するのは罪深きこと!」

「はっ、笑わせる。1000年の間に聖霊が戦って来た事なぞほんの瞬く程度。天界の勢力を削いででも自然界を手に入れようとした蛮族にも等しい考えを持つからじゃ!」


どういうことだ? 聖霊は1000年戦争で強大な敵として対峙していたわけではないのか?


一方で、姉も孤軍奮闘する勇ましい姿を私に見せつける。キン、ガキィンと攻勢を強める剣捌き、アボニージョは徐々に追い詰められる。


「く、この私が!」

「お前では相手にならぬ、だが一撃で始末できない私も不甲斐ない」

「とんだ自信家だな! なめるんじゃないよ!」


剣捌きも一流なら、挑発も一流だ。姉は次期当主。父の責務の大きさに合う器に成長するため、日々奮闘していたのだろう。私はのほほんと自然界で……魔王様に仕えていた約60年の間にも姉との実力は大きく開いた。


何が学院の秀才だ……努力しない者に結果はついてこないという証明じゃないか。


「ぐぅ、おのれぇ!」

「第12奏者というのは他愛もない者なのだな。正直がっかりしたぞ」


どちらも余裕があるように思えるが、姉の余裕のある表情から察するに、アボニージョに余裕はない。


「はぁ、折角用意してきましたのに、暇でしかたないですわね」

「ほんとねぇ」

「そこの二人、傍観してないで何かすることはあるでしょう!」

「会長とメイドーサのお姉様の間に入れとおっしゃるの?」

「無理よぉメイドーサ。実力が違いすぎるものぉ」

「悔しいですが、否定はしませんけど」


二人の意見には賛同する。あの戦いの中に割って入るのはかえって邪魔だ。


その時、レイニス先輩に向けて剣が振り降ろされる。


ガァァン!


硬い岩に矛先を突き立てる音が響く。


レイニス先輩は右手のみで振り降ろされた太刀を軽く受け止める。これが公爵の爵位を持つ当主の実力なのか!?


「あまいのぉ、甘すぎて茶菓子にもならん」

「ぐっ……」

「お前の狙いは謡ったメイドーサの命、じゃがな簡単にはくれてはやれぬ」

「ならば、こちらにも秘策はある」


ルルングラは先輩と距離をとり、剣を地面に突き立てアボニージョと戦っていた時のように音が聞こえた。


「この音は一体……!?」

「レペルの騎士は奏者というだけのこともあり音や音楽を魔法の媒介とするのじゃ。まぁ、それだけしか能のないへっぽこじゃがの」


レイニス先輩は音の謎を教えてくれた。だが、胸騒ぎがする……胸をえぐるこの不快感はなんだ?気持ちが悪い……。


その胸騒ぎは半ば当たっていた。ルルングラは音を奏で始めると仮面の口にあたる部分がニュッと耳元まで裂け、不気味な笑顔の仮面に変わる。


そして、私は目を疑う光景を目の当たりにする。一瞬の(まばたき)きの間に、いままで存在しなかった眠ったままのカルメラちゃんの姿が。


 ――一瞬だった。


ルルングラは召喚したカルメラちゃんの腹部を左手で貫く。


「貴様ッ!」


誰もが唖然とし、貫かれた瞬間、時が止まる。


「ははは、眠っておれば痛みもあるまい」

「この外道が!」

「その子は関係ないはずよ!」

「詩を聴いた者には裁きは下る」



ドッ、バギィィィン!



「なんじゃ!?」

「なっ!?」

「メイドーサ様!?」


体が勝手に動いていた。私はカルメラちゃんの腹部が貫かれた直後、一瞬で間合いを詰め、ルルングラの顔面に拳をめり込ませ、仮面を割っていた。


そして、カルメラちゃんを抱きしめる。ルルングラの体は砂のように崩れ去り、風に吹かれて空に舞っていった。


「先輩! 蘇生を!」

「お、おう……待っておれ……」


私の胸の中でどんどん冷たくなるカルメラちゃんに、私は大粒の涙を落とした。


「一瞬でルルングラを……化け物か!?」

「そうよメイは化け物。眠れる獅子を起こしてくれて感謝するわ」

「バカな、実力はお前以下ではなかったのか!?」

「バカなのはあなた達、レペルの騎士よ。覚えておきなさい。メイはこの後に起こる聖霊との戦いに必要となる存在。今のメイとあなたは戦えるのかしら?」

「第5奏者のルルングラを一瞬、それも素手の一撃で始末出来る相手……あいつは中級悪魔だったはず……」

「混乱しているの? 本当に天界はバカ揃いなのね。今なら慈悲で逃がしてあげるわ。早く逃げないと瞬殺よ? 魂も残らない」

「確かにルルングラの魂を感じさせない……消えたのか……浄化まで……」

「行きなさい! その存在を消されたくなくば!」


姉とアボニージョがどんなやり取りをしていたのかは私は知らない。だが、気付いた時にはアボニージョの姿はなく、カルメラちゃんを抱いて取り乱す私の姿が目立った。


「先輩!」

「ぬぅ……魂は幸いじゃがここに残っておる。じゃが、強い衝撃で魂を抜かれてしまっておるでな」

「どういうことですか!?」

「いうなれば、肉体と魂が分かれておる。接着するには、多少なりとも何かの魂のカケラが必要なんじゃ」

「そんなの私の魂を使ってください!」

「いいのか? この子はこれから子々孫々、悪魔の力を受け継ぐ家系となるが?」

「かまいません! それでカルメラちゃんが生き返るのならば!」

「わかった……この子に罪はない。今はそれで対処しようかの」

「お願いします!」


先輩は私の胸に手をあて、魂の一部を取り出し、カルメラちゃんの肉体と魂を繋げる接着剤代わりに使用する。


「私のせいだ、私が魔界に連れてきて詩を聴かせてしまったから……」

「いや、安心しろメイドーサ。逆に言えばお前がいなければこの子は魔界で死んでいた。違うか……今は、お戻りになられましたこと誠に嬉しく思います。が、正しいか」

「先輩? なぜ敬語を……? それに戻ったとは?」

「詳しい話は後じゃ、我とルトバルルで説明をする。他の連中も気付いた様子じゃからな」


私は先輩の言っている意味がこの時はわからなかった。ただ一つだけ、カルメラちゃんの安否が気になる。先輩は大丈夫だと言ってくれ、記憶にも残らないと教えてくれた。


「メイドーサって第5奏者を一撃で倒せるほど強かったのね。シャテラはご存じで?」

「いえ、まったく……あぁん、抱かれたい」

「それは私の役どころよ!」

「あらぁ、貧相な身体で言えることぉ?」

「着やせするのよ!」


私が涙を流しながらカルメラちゃんの蘇生をしている最中(さなか)になにをしているのだと。醜い女の争いは他でやってくださいというのが本音だ。

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