さっそくですか 戦うの?
夜もふけてきましたね。姫様とカルメラちゃんは、やはり慣れないのか私の自室のベッドで寝ています。あ、先輩達も今日は父のススメで泊まっています。
私の頭にはレペル騎士の襲撃でいっぱいなのが困るところですが、彼らは必ず仕掛けてくる。
だって、確証がありましたからね。
「夜更けにご挨拶とはあまり関心のいかない行動ですね」
「ルトバルルの娘、メイドーサ。詠んだのはあなた自身なのですよ?」
背後から伝わる殺気。ここで争えば姫様たちに危害が及ぶ。それは避けねばなるまいか
私は窓から飛び出し、夜の庭に降り立ち、実家から距離をとるように全力で走る。
ザザザッと平原を駆け抜け、古城から離れる。だが、相手は私よりも一枚上手だった。
「逃がさないわメイドーサ」
「足の速い人ですね。ここでなら思う存分に戦えますよ?」
「覚悟のいいところは尊敬するわ。でも、それもあと少しで終わり……あなたはこれから死ぬのだから」
「ほほぅ、かなりの余裕ですね。では、死ぬ行く私にせめてもの情けで名を語ってはいただけますか?」
「いいわよ、レペルの騎士第12奏者ルペのアボニージョ」
(第12奏者……最下級か、ルペはどこの派閥だ? いや、奴らに派閥はないか……ならば何を表している?)
「これはご丁寧に、感謝しますよアボニージョさん。では、あなたの待ち望んでいる戦いといきましょうか!」
「ははっ! そうこなくてはなこのこっぱ悪魔が!」
彼か彼女かはわからないが、声の高さからして女だと予測はするが、この暗闇ではどこから襲われるかわからないのが難点だ。
私は短刀を抜き、身構える。備えておいてよかったですね……。
その時、月夜にキラリと反射する光。
目に捕らえ、相手が攻撃の態勢に入っていることを教えてくれる。その瞬間、光る物体は急接近し、キィンと静かな平原に金属のぶつかる音が響く。
「へぇ、この状況でよく受け止めたじゃない。悪魔は夜目がきくのかしら?」
「そんな光る物をちらつかせれば嫌でもわかりますよ」
月夜に照らされる二人の影。うっすらと視えるその顔には見慣れない仮面、これがレペルの騎士。アバトス伯父さんは仮面が奴らの本体だと教えてくれたけど、どうやって対処すればいい……!?
キンキン、キィン!
「そらそら、どうしたルトバルルの娘!」
「剣だけでの攻撃ですか、芸のない人ですね。私ならこうしますよ!」
私は相手の攻勢かわしながら魔法を撃ち放つ。得意の無詠唱での対処にアボニージョは「つっ!」と口を開き、放たれる火のつぶてを回避する。
「魔法も使えないのですか? 天界の騎士にしては無能ですね」
「ぐ、悪魔のくせに愚弄するか!」
「12奏者では難儀な事ですかね? 所詮は下っ端、瘴気を撒き散らすことぐらいしかできませんか?」
(この様子だと本当に魔法が使えないようですね。やはり聖霊の力が使えないということ、聖霊はいまも地界に封印されている)
「くそがぁ!」
「相当にキレてますね……優越感で心が踊りますよ」
アボニージョは距離をとるように跳躍し、後方に高く跳んだ。何かをする前兆だろうか?
「お前の魂を天界に縛り付ける……」
「ン!? 音が聞こえる……」
微かだが、私の耳に音楽のような音が聞こえてくる。まさかこれがレペルの騎士の技か?
「風よ歌え、この刃に詩を……奏でよ!」
――次の瞬間。
そよぐ風はアボニージョから聞こえ音に引かれるように集まっていく。
「風の向きが変わった? これが奴らの魔法か……原理は不明だが勝機はある」
集まる風の気圧があがる。それは最初は小さな竜巻程度のものだったが、耳に響く音が高くなるにつれて、大きなものへと形を変え、平原の草木は激しく揺さぶられる。
「ははは! どうした、何もしてこないのか? 驚いて腰でもぬかしたか?」
「あなたはバカですか?」
「なに?」
「私が誰の娘かをお忘れなようで、これがレペルの騎士の実力ですか」
「ふぅ……『我に集え風の力、ルトバルルの名に集え……誤りたもうたその風を導かん』……ふん!」
私の詠唱に風の精霊も応えたのか、アボニージョの作り出した大きな竜巻は大きな音を響かせながら破裂する。
ドォォンという爆発にも似た音が響くと竜巻は姿を消し、呆然と立つアボニージョの姿が月夜に照らされる。
全身黒いロングコートに身を包み仮面をつけた人物。これがレペルの騎士なのかと思わせる。
「な……」
「愕然としているところ申し訳ありませんね。私は風の精霊を使役する側の悪魔ですよ? 残念ですね。相性は最悪ですよ」
「ルルングラ出てこい!」
「ん!? 新たな仲間か?」
するとスッと現れる気配に私は恐怖を感じた。アボニージョの比じゃない……。
「我はレペルの騎士第5奏者リペのルルングラ。そこの者に戦いを申し込む」
もう一人のレペルの騎士!? しかも第5奏者だと!? この止まった状態でもわかる。ルルングラとかいう奴の強さが……。
その時だった。
「きよったかぁ! 寝込みを襲うとはけしからん奴等じゃな!」
「い――、先輩!?」
「ほほほ、メイドーサに戦いを挑むなど笑止、それに、寝不足は肌の大敵!」
「レイビー? 寝たいなら寝てろ!」
「私も忘れてぇ、寂しいですぅ」
「まぁ2人がいるならシャテラもいるわな」
だが、心強い。さっきまでの恐怖が嘘のように吹き飛んでしまった。まともに戦えるかは謎だが、先輩は第1階級の当主。聖霊とも戦える存在だ。
「そこな第5奏者の相手は我がしよう。残りはお前たち3人で始末しろ。あ、仮面は割れよ? あれが本体じゃからな」
「いいえ、そこの第12奏者は私が始末する! 城下で瘴気を撒き散らそうとした罪は重いと知れ!」
「姉さん!?」
甲冑を着て、抜刀する勇ましい姉の姿に唖然とした。あんな姿は初めて見るからだ。驚くのも当然だ。
これ、親父も動いたら大変な事になりそうだ。この辺の大地が吹き飛ぶぞ。