大変です! フラグが立ってます!
今は皆で集まり、デアボラが世話をしている庭園にテーブルを置き、茶会の最中だ。
個人的には帰ってほしかったが……。遠路はるばる来てもらったのを追い返すのも気が引ける。そして、なぜかレモニードとシャテラの姿も。
「レニー、深界に帰ったのでは?」
「報告を済ませたから戻ってきたの。お邪魔だったかしら?」
「いえ、邪魔だとかという理由はありませんよ。ただ、シャテラは何故に?」
「あらぁん、倶楽部の会員が集うのだからお邪魔しただけよ?」
面倒だな。レイニス先輩とレイビーはいいとしても、シャテラまで加わると――。
あ、そうだ倶楽部の由来を聞いてませんね。
「ところで『私を愛する会』とはなんですか? ここは会長の先輩から説明を受けたいのですが」
レイニス先輩は磁器のカップを受け皿にカチリと置くとテーブルに肘をのせ、手を組み何かを喋ろうとする。
「ふむ、その名の通りじゃよ。我々はメイドーサを愛してやまない者の集まりじゃ」
「ですが、私にそんな魅力はないかと」
その時、カルメラちゃんは背丈を伸ばし、真剣な表情で語り始める。
「いいえ師匠。師匠は素晴らしいお方です。誰にも優しく、そして聡明な頭脳、学院でも優秀な成績であられたお方、師匠の倶楽部ができても不思議ではないでしょう!」
「やけに熱弁してますねカルメラちゃん」
「その娘の言う通りじゃ、現世転生をしている我ですら敵わぬその知識と卓越した技能。学院でお前に憧れる生徒は数知れず」
はて? そんなに優秀だったのだろうか? ルトバルルの次期当主は姉だ。私がどれだけ頑張っても姉の実力にはほど遠い。勝てるとすれば学業だけなのだが……。
「ですが、実技では現世転生の先輩には敵いませんでしたよ?」
「そりゃ当然じゃ、学院時代から当主であったからな」
「師匠、『現世転生』とはなんでしょうか?」
「簡単に言えば、魂と記憶だけを別の体に移し替えただけの転生術です。ですので、レイニス先輩は本来ならばアルケト・ヒム・メアモトスが正式な名前となります。ですが、転生を行えば、名を変えなければなりません」
「なるほど」
「そうじゃ、我はもとはアルケトじゃが、1000年戦争で本体を失ってしまった。そのために現世転生をおこなったのじゃ」
「ここでも1000年戦争の当事者が……」
そわそわした様子でカルメラちゃんは先輩を見ている。要件は1000年戦争の事を聞きたいといったところ。
「先輩、1000年戦争とは?」
「その聞き方には何か裏があると見えるがの? メイドーサが興味を持っているとは思えんな。話を聞きたいのはそこの人間の娘じゃろう?」
流石、というよりも話を引き出そうと賭けに出たのは正解でしたか、これで1000年戦争の当事者から話が聞けそうですね。
「鋭いですね。ここのカルメラちゃんは1000年戦争に興味があります。私としても是非ともお話を伺いたい」
「興味本位で聞く話ではないぞ?」
「どういうことですか?」
「1000年戦争の全容を話すのは禁止されておるからじゃ」
「禁忌とされているのですか? 公爵の口を止めることができる存在、ベルトトス大公……が関わっているのですね」
この名を出した瞬間、レイニス先輩やレイビー、シャテラの表情が曇る。親父もそうだが、この1000年戦争という歴史的な事件はどの家でも口止めをされている。
「残念じゃが、人間の娘。この件に関しては触れることさえ許されぬ。これも閣下のご意志なのじゃ、すまぬ……」
「なんにゃ? 茶会にゃのに皆暗いにゃ」
(いま、大事なところなんだよ! 菓子でも食って静かにしてろ)
「ところでメイドーサ、聞きたかったのだけども」
「レイビー? なんでしょう?」
「その猫、シャムシェよね?」
「えぇ、姫様が拾ったといいますか、行き倒れていたところを助けたといいますか」
「従者かなにかかしら?」
「姫様の従者ですね。あまり頼りにはなりませんが、姫様のお気に入りなので」
「そう、それならいいわ。もし、メイドーサの従者なら八つ裂きにしてたわ」
うわ、これマジで言ってる。シルルよ、命拾いしたな。なぜ、そこまでして私に構うのか不思議でたまらない。
「疑問があるのですが、レニー以外の3人はなぜに私を狙うのですか?」
「当然じゃない、あなたを愛してるからよ」
「ど直球ですね」
「うむうむ、メイドーサは一人、愛は平等に分配されねばならん」
「いえ、あなた達の私物になった覚えはありませんよ?」
「メイドーサ、ぬしはこの倶楽部の重さがわかってはおらぬな?」
「わかってませんし、わかりたくもないです」
「かぁー、薄情な奴じゃのう。この倶楽部は選ばれし者しか会員にはなれぬ」
「と、いいますと?」
「よいか、この倶楽部を設立にあたって募った総数は約180名」
「え、学院の生徒の半数以上が集まったのですか?」
「そうじゃ、男女問わずな。だが、本当にメイドーサを愛しているのかを明確にするため試験をおこなった」
「で、残ったのは?」
「我を含めて10人じゃ」
すごい競争率だな、ってかまだあと7人もこんなのがいるのか……頭が痛い。
「どんな問題で試験をしたのです?」
「うむ、小論文形式の問題じゃ。お題は『メイドーサへの告白文』じゃ、よい議題じゃろう?」
「私はすぐにでも破り捨てたい気持ちに駆られるほどに恐怖を感じますね」
「そんなこと言うでない」
「それで私をどうしようと?」
「ん? 愛でるだけじゃが、問題があるかの? 我はお前の人形を抱き枕にしておる」
「私は毎日写真にキスをしているわ」
「あのねぇ、私はぁ……メイドーサを思って毎晩のように――」
「ちょっと待てシャテラ、それは子供が聞いていい話ですか?」
「成人向けね。うふふ」
「はぁ……それでも、選ばれた魔界の32貴族ですか? 親がみたら泣きますよ?」
「我はよかろう?」
「よくない! 当主の威厳を捨てないで!」
「あら、親も知っているわ。最近は連絡も途切れがちだけど」
それは絶縁に近いよレイビー!
「弟は呆れてるけど、親は公認よぉ」
「まぁ、跡継ぎのオビオン君がいますからね。ってかどれも悲惨でしかない」
「ねぇメイサ」
「なんでしょう姫様」
「熱いからフーフーして」
「ええ、わかりました。フーフー……」
ガタン! ガタタンッ!
うわぁ、いい歳した大人が血走った目でこっちを見てる……正直、こぇぇよあんたら。
「メイドーサのフーフーじゃと!?」
「ぐぅう……なんて羨ましいの!」
「あらぁん嫉妬しちゃう」
「メイサ、あなた人気なのね」
「レニー、冷めた視線で紅茶を啜らないでください!」
「私には関係ないもの、ふふっ、でも姫様には妬けちゃうわね」
ここにも一人いたか……私は少女に好かれたいのであって、成人には興味ないのです!
まったく、最初は真面目な話をしていたのに……でもこれで謎は解けた。なぜ親父は話したくはなかったのかを。
1000年戦争は魔界では禁忌として貴族達に広まっている。だがベルトトス大公はなんのために口止めをしたのだろうか……?
ん? アバトス伯父さんは私に話を……そして今はレペルの騎士に襲われた。仮説ではあるが、このことが大公にバレていたとするならば……しかし、何十年も前のことだ、今になって襲われる関係性は――!?
魔物の絶滅! 魔水晶の力によってレペルの騎士が封印されていたのならば復活したレペルの騎士は悪魔を狙う。それは当然だ。自分たちを封印した憎むべき存在。1000年戦争の話はトリガーになる事をベルトトス大公は予見していた。だから時をさかのぼり、アバトス伯父さんを狙った。だとするならば、この話はレペルを呼び寄せる詩になる。
その時、私は昨晩の事を思い出し、またしても自分の軽率さに後悔した。そう、私は呼び寄せてしまう詩を謡った……レペルは私に狙いを定めるだろう。




