くっ! 間に合うか!?
虫の知らせを感じ、急いで実家へと戻り、執事のデアボラに姫様の居場所を尋ねる。
「デアボラ! 姫様たちは!?」
「お、お嬢様。そんなに慌ててどうされましたか」
「いいから答えなさい! 姫様たちは今、どこに!?」
「それでしたら、レイビー様が城下を案内すると言いまして、お嬢様が外出された後に」
「くっ……そうだった、そんな話をしていた……この領地に首謀者が来る」
「首謀者でございますか?」
デアボラは頭を悩ませてはいたが、私にはわかる。嫌な予感が胸の辺りでザワついている。なんとかしなければ……。
「デアボラ、私は城下に行く!」
「お、お気をつけて……」
くそ、面倒な事になる前に、姫様たちと合流しないと。間に合ってく――。
私が外に出ようとしたタイミングで、姫様たちは楽しそうに帰ってくる。
「姫様!」
「あっ、メイサ!」
姫様の無事な姿を見るや、肩の力が抜け、私はその場にへ垂れ込んだ。私の慌てた様子が珍しいのか、シルルが顔をのぞかせる。
「おまえ、そんなに慌てた顔してどうしたのにゃ?」
「い、いえ……何事もなければいいのです」
「なんか事件かにゃ!?」
「師匠!?」
「はは、そんな大した事ではありませんよ。ですが、何事もなくてよかった」
胸を撫でおろし、深呼吸をする。数回の呼吸で精神を落ち着かせ、レイビーに感謝の言葉を伝える。
「レイビー、案内をありがとうございます」
「そ、そんなのいいのよ。私が好きでやってあげたのだから」
「そうですか……ふぅ……」
「どうしたの? メイドーサが慌てるなんて学院時代でも見かけなかったわ」
「いえ、首謀者が来ているとシャテラから聞いたもので、急いで帰ってきたのですが」
「首謀者? ふぅん……倶楽部の?」
「そ、そうです! 寒気がする倶楽部の!」
そして、それは突然現れた。笑い声とともに。だが、その声には聞き覚えがあった。私は心の内でその首謀者の名前を浮かび上がらせる。
「ほーほっほっほ! 久しぶりじゃなメイドーサ!」
ギリと奥歯を噛みしめ、声に反応した。
「レイニス・ヒム・メアモトス!」
「メアトモス!?」
カルメラちゃんは何かに気づいた様子。そう、声の正体は悪魔6大貴族の第1階級であるメア系の悪魔のメアトモス公。
「なぜあなたが……!?」
「ふふふ、メイドーサ。我はこの時を待ち望んだぞ!」
「メ、メイサ、怖い!」
「光の神の子メアトモス……」
「なんにゃ? 喧嘩ならウチの出番にゃ」
「あらぁ……来てしまったのね」
姫様は怖がる様子で私の服をつかみ、後ろに避難する。一方でカルメラちゃんは警戒し、杖を構えた。シルルは、魔瘴気のおかげで元気がみなぎっている様子、ここは少しは頼りになるか。
だが、レイビーだけは違った。落ち着いた様子で声の主に対して何かを知っている様子。この関係で知らないのは私だけか……。
「何が目的です! 姿を表しなさい!」
「我はここじゃ!」
「メイサ、向こうにゃ!」
シルルは遺跡のように、積み重ねられた岩の頂上を指をさし、私に教えてくれる。
そこには姫様よりも幼い背丈の少女が一人。朱色のマントを風になびかせ、こちらを見下ろす。余裕のある笑みを見せる少女。
「なぜ、レイニス先輩がここに?」
「ふっ、メイドーサよ知らぬとは罪なこととは思わんか?」
「何のことですか?」
「では、無知なお前に教えてやろう」
私はゴクリと喉を鳴らし、警戒する。
「メイドーサ倶楽部会員ナンバー1、創設者のレイニス!」
風も止み、時間も止まる。
「で?」
「『で?』とはなんじゃ! 会長様じゃぞ? そこは素直に驚くべきところじゃろうが!?」
「いや、うん……で?」
「いや、じゃから『で?』だけでは言葉に詰まるじゃろうが! もうちょっと驚くとかないのか? お前の倶楽部じゃぞ?」
「あの、会長。メイドーサは倶楽部の事はご存じです」
「え? ありゃ? なんじゃつまらん」
う――わ――! バカがまた増えた――! 面倒って次元じゃねぇ……どうすっかぁ。
「メイサのおともだち?」
「いえ、他人です、知りません、存じません、私には見えません」
「コラー、存在までもかき消すな! 目の前におるじゃろが! なんじゃいなんじゃい、無理してメイドーサの好きな少女姿で来たのに」
「え、興味ありませんよ」
「なんじゃと!? お前の少女好きは治ったのか!?」
「いや、先輩って300歳超えてる偽ロリじゃないですか」
「それにゃらご主人も50歳超えてる偽……」
シルルの言葉に私の眼光は鋭く光り、血管を脈打ちさせ、ギロリと睨みつける。
「なんでもないにゃ」
「バカな!? この姿でもなびかんのか!」
「バカはどっちですか? そんな姿に惹かれる私ではない!」
「気づいてはいましたけど、師匠は少女が好きなのですよね」
「年齢は限定ですけどね。あと姫様は別です。はっ! カルメラちゃんいつの間に!?」
「いえ、薄々気づいてました」
「それでも好きだ―!」
「私も師匠はすきですぅ!」
「私もメイサは大好きぃ!」
おっほ、両手に花だな。オラ、少女さ好きだぁ……じゃない! 悦るのは後だ!
「もうもうもう! 我を無視するな――! この日のために必死に覚えたのに……やはり本物には勝てぬか……」
悪くはないけど、年齢がなぁ……私より年上の時点で何かが違う。
「あのにゃ、聞いてもいいかにゃ?」
「なんです」
「にゃ、とりあえず鼻血ふけにゃ」
「あぁ、これは失礼。興奮の絶頂だったので、ついつい」
「んにゃ、でにゃ。悪魔はバカか変態しかいないのかにゃ? おっさん以外では」
「バカにバカと言われたくはない!」
「いにゃ、もうにゃ疲れるにゃ」
「メイドーサ、そろそろ成人もいいのよ?」
「はっはっは、ご冗談を」
ばっきゃろい! 少女の匂いが堪らないのではないか! それにもちもちな肌、くたびれてないまっすぐな髪……至高だよ!
「クンクンするのがいいんだろうが!」
(かわいいのがいいんだろうが!)
「本音と建前が逆にゃ」
「やだ、声に出てた? メイサ恥ずかしい」
「キモいにゃ」
「まぁ、そんなわけであきらめて下さい」
「いやじゃ! 我は会長としてあきらめぬぞ! この倶楽部は不滅じゃ! じゃがの……問題もある」
「ほう、ようやく問題点に気が付きましたか。遅かったというべきですね先輩」
「登ったはいいが降りられん……」
この時、真剣に悩んだ。シルルのいう通りにバカか変態しかいないのかと。