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すこし真面目に、ファンタジー!

さて、バカはほっておいて食事を楽しみましょうか。姫様とカルメラちゃんは流石本場のお嬢様だけあってテーブルマナーは一流だ。


だが――、約一名だけマナーと縁遠い者の姿が……。


カチャ、チン、ギリギリギリ。


あぁ、磁器のお皿が……肉を切るより磁器の皿を切っているのではないかという不協和音が響く。それでも親父は顔色一つ変えずに、ワインを呑む。


「ふふ、どうですか? お口に合いますでしょうか?」

「おいしーの!」

「魔界でこのような食事をいただけるとは思いませんでした」

「それはよかった。沢山食べてくださいね」

「親父……」

「メイサ、会食の席ですよ? 今はその呼び方は無作法というものです」


ぬぅ、面倒くさいな。こういうところは厳しいというか厳格というか。


「ち、父上」

「なんでしょう?」


私の問いかけにグラスをテーブルに置くと、両手を置き、聞く態勢に入る。


「姉さんはどうしたのさ?」

「あぁ、ローリでしたら、自警団の任にあたっている頃でしょう。このところ物騒ですからね」

「自警団に物騒? どういうこと?」

「以前にアバトス公が倒れられたとお話しましたでしょう?」

「あぁ、アレか……それで、自警団を?」

「聖霊が関与している事案ですからね。見過ごすわけにはいきません。治安を守るのも貴族の役割ですよ?」

「で、原因はわかったの?」

「レペルの騎士、第3奏者の仕業だったようです。そのため天界から降りてきたレペルの騎士達への警戒です」


レペルの騎士……厄介な連中が動いているわけか。しかし、いきなり第3奏者とは大物中の大物。私では手に負えない相手だ。


するとカルメラちゃんは疑問を投げかける。


「師匠、レペルの騎士とは?」

「ご存じありませんか? ふむ、人間の間では聖霊の存在事態も薄い。知らなくても無理はない……か」

「はい、聖霊という存在も、あまり知られてはいませんので……」

「レペルの騎士とは聖霊を守る12人の騎士の事を言います。ちなみに実力は悪魔32貴族の侯爵級ですので、私の手に負える相手ではありません」

「師匠でも勝てないのですか!?」

「正直無理でしょうね……」


そんな時、今まで黙っていたレイビーが口を開く。


「あら、メイドーサなら問題ないでしょう? あなたがレペルの騎士の実力より劣っているとは思わないわ」

「何を根拠に、私は侯爵級の実力はありませんよ? 子爵のちょい下くらいです」


妙な期待をしないでもらいたい。思い違いもいい加減にしてほしいものだ。私がレペルの騎士と戦えるわけがない。伯爵級の実力を持っている姉なら別だが。


「だが、メイサ。脅すつもりはないが、レペルは姫様に目をつけるだろう。そのことは覚えておいてほしい」

「そう、そこ! その理由ですよ。今はレモニードがいませんが、死神が護衛をするほどな事情なのですか?」

「ふむ、メイサには話しておかなければならない。人間界の魔王をしていたのは悪魔72貴族、第68階級のユースデス卿だ」

「その話は初めて聞いたぞ?」

「魔王を決めることは、(おおやけ)けにはされてはいない。決めるのはベルトトス閣下だからだ。基準としては60階級辺りの男爵が選ばれる」

「では、シャレル様は悪魔だと?」

「確かに魔物と悪魔は違う。だが、自然界に高級悪魔は干渉を許されてはいない。そのため、ユースデス卿は悪魔から魔族に転身されたのだ。爵位のはく奪と引き換えに自然界を統治する権利が与えられる」

「魔物というべつの個体となった……でも、わからないのは姫様の体に魔力の核が存在している? あれは魔界の遺物。自然界には持ち込めない」

「私もなぜ、ユースデス卿が魔力の核を持ち、娘の体に組み入れたのかはわからない」

「おや……じゃなかった、父上でも存ぜぬことを私が知るのは無茶か」

「だが、いずれはレペルの騎士もその魔力の核を狙うことになるだろう」

「その理由は?」

「魔力の核は自然界で有名な『賢者の石』と同等の力を持つ。それがあれば聖霊の復活を可能にする」

「では、自然界の石を拾ってくればいいだろう? なんで姫様を狙う必要がある?」

「自然界の石は、ベルトトス閣下が自らの体内に埋め込んだのだ」

「そんな無茶苦茶な……あるとすれば、後は姫様の体内にある魔力の核のみ……」


どういうことだ? 第60階級程度の男爵である魔王様がなぜ、魔力の核を持っていた? そして、娘であるシャレル様に埋め込んだのだ……? 


私は雑な推測に行き当たる。だがこれは親父の前では言えない。それは魔物が死滅したのはベルトトス大公の意思もあったのではないかと。賢者の石と同等の魔力の核……偶然に手に入れたわけではないだろう。魔物の排除……そして、聖霊の復活をさせる話。


いや、やめよう。これ以上は邪推だ。今の私の考えは大公に対して裏切る行為にも等しい。危険な考えだ……。


「ねぇメイドーサ」

「なんですか?」

「そんな考え込まなくても、気楽にいきましょうよ。そうだわ、明日は城下で買い物に行きましょう」

「私はワワンさんに会いに行かなければなりません」

「あら、残念」

「ふむぅ、では、姫様たちを案内してはいただけませんか?」

「お安い御用よ。ここの領地には30年住んでるから案内もできるわ」

「へぇー、30年も……30年!?」

「えぇ、なにか変かしら?」

「家には?」

「帰ってないわよ」

「では30年間何を?」

「それはあなたの帰りを待っていたのよ。愛しいメイドーサがいつでも帰ってきていいようにね」

「いや、家にかえりなさいな。親も心配してるでしょう?」

「そんなことはないわ、ちゃんと連絡しているし、ルトバルル公爵様からも許可を得ているわ」


なにしてんだこの女は、30年も家に帰らないとは筋金入りだな……へぇぇ、頭が痛い。



その頃、私の知らないところでは新たな動きがあった。それは嵐の前触れか、それとも春を告げる和やかな風か――。


「なに、メイドーサが魔界に!?」

「はい、先ほど会員ナンバー4番のシャテラ様から伝言を承りました」

「そうかそうか、メイドーサが帰ってきたか。ふふふ、それは好都合というもの。我のために帰ってきたか」

「お嬢様、それはどういった意味が?」

「お前は知らなくてよい、ワワンの娘がそういうのなら確かな事だろう……楽しみが増えるというものだ」

「お、お嬢様?」

「メイドーサ……やっと会えるか……。明朝、ルトバルル領に向かう。馬車を用意せよ! いや、馬車では時間がかかるか。転移陣の許可を貰ってくるのだ」

「はっ」


潜むように動く影の正体に私を悩ませる。この後の展開に私は予測はできなかった。だがレイビーの存在が一つの情報として動く。


(師匠は何やら難しい話をしていた……。魔物は作為的に? そしてシャレルの存在は一体? 1000年戦争といい何もかもが人間の知る領域を逸脱している悪魔と聖霊……)


ここにもまた何かを察知する少女の姿が。


私はどちらにいるのだ? 悪魔側かそれとも人間側か魔族か……考えれば考えるほどに答えは暗い霧の中に隠されていく。


では、オチ担当をよろしくいお願いします!


ビリッ


そう、その音はシルルの方向から聞こえた。


「うにゃ、食べ過ぎたかにゃ?」

「おま……腹が妊娠したみたいになってるぞ?」

「シルルの赤ちゃん?」

「ウチはそんなのいないにゃ。ここには食料が備蓄されているにゃよシャレル」

「シルルすごい!」

「にゃは!」


オチをあざーっす! そしてデブ猫は退場を願います。姫様の教育上に悪いので。カルメラちゃんも目をそむけて恥ずかしそうだ。

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