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会食です! でもその前に…

古城です。広いです。と、こんな説明では伝わりませんね。代々受け継がれている代物なのですが、詳しいことはわかりません。


私が物心をつく前から住んでいる場所ですので、久々だと懐かしく思えます。それは私が魔王様の側近として仕えていた約60年もこの家ともおさらばしていたわけですし。


城の広さは人間のお城とは大差ありませんが、唯一の違いは礼拝堂がないことでしょうか。別段、神に祈りや懺悔をするわけではありませんので不必要と判断したのでしょう。


外観は使われていないベルフリト()や側防塔がありますが、これも使用されてはいません。外観を設計した際に建てられ造られたものだとか。


内装は父の意向で嗜好品などの調度品は置かれていません。すがすがしいほどに廊下の先まで障害物のない向こうの壁が認識できるほどです。


さてさて……え? 主人公がいきなり勝ち組みたいだと嫌だと、最初のころはもっと貧乏かと思っていた。ふむふむ、期待に添えられなくてすみません。金持ちです。貴族です。 公爵の公女です。なにか? 魔界編から勢いがなくなったと? 醍醐味です。落として落ちる……それは駄目ですね……。


で、話は変わりますが、父の発案で今夜は皆で会食をと、もちろん姫様やカルメラちゃんもきます。(猫も)いまは何やら支度をしているのだとか、私はグレートホール(食堂)に親父と二人です。


「ララビット卿から話は受けている。少し軽率ではないかな?」

「あ、いや、そのですね……ワワン様には直に頭を下げに行く予定でして……」

「ふむ、あちらも事は荒立てたくはないと申し出ている。そこは汲んでやらねばなるまい。だが、メイサのしたことはベルトトス閣下のお許しにならない所業」

「い――!? それはちょっとまずいのでは……」

「うむ、確かにまずいことにはなるかもしれない。まぁ、閣下のお耳に入ればの話ではあるがね。今回の件は誰も(とが)めはしないだろう」


理由を聞くのは怖いですが……。このまま何もないのならばそれはそれで。


 「ところでメイサ、あなたは着替えないのです?」

 「いやぁ、この服装が馴染んでて、昔のようにドレスを着るのはちょっと……」

 「おや、それは残念ですね。他のお嬢さん達は着替えているというのに」


 ガタッ!


 「ほう!」


それは、私の(よこし)まな妄想が加速する情報。いけませんね……でも、ありじゃない?


 「急にどうしました?」

 「いえ……なんでも……」


すると、ガチャリと扉が開く。そこには二人の天使が……!?


サラサラの髪の毛を団子状に両側にまとめ、前髪を横に流し、髪を留め凛とした姫様のお姿。白いフリルのプリンセスラインのドレスに程よく染められた頬の色。まつ毛を上にあげ、もともと大きかった瞳がさらに強調され、私の心がズキュンと振動する。


 これが、姫様の、おっおっお姿――!? ときめきが止まらない。はぁはぁが許されるのはいつごろか?(永遠にきません) 


続いてはカルメラちゃん。三つ編みをほどき、後ろ髪をかき上げて、頭頂部で髪を結い、サイドバックの髪型。凛々しい表情がひときわ目立つようにセットされている。服は赤いマーメイドスタイル!! 胸元抑える大人びた少女の力作。少女の面影を残しつつ、背後に可憐に咲く花の幻が視える!しかし、それだけではない。アクセントに使用された右耳につけられた金のイヤリング。


 さすがは我が家に仕えるウェイティングメイド達。女を魅せる方法をよく理解している。どっちも似合いすぎて脳内が煮えたぎる――!!


 おほほぅ、眼福じゃぁ……。


「メイサどうかな?」

「似合いすぎてて文句の付け所もございません!」

「あの……こんな服は……はじめてで……」


初々しいなこん畜生! 畜生は私か。


「とっても似合いますよ」

「本当ですか!」

「シルル!」

「おや? シルルもおめかしを?」

「えぇ、そうです師匠」


扉からこっそりのぞく顔、何かを警戒する眼差し。あ、コレ、野生の猫だ。


「もう! シルルきて!」

「うー、行かなきゃダメかにゃ?」

「せっかく綺麗にしてもらったのに」

「むぅ……」


何をそんなに警戒しているのだろうか? 別に敵がいるわけでもあるまいに。余程に自信がないのか? いやいやシルルが恥ずかしがるなんて、はっはっは、ご冗談を。


「どうしたんです? そこに隠れていては父に失礼になってしまいます」

「はは、かまわないですよ。メイサも友人を大切にしなさい」

「笑わないかにゃ?」

「芸人にでも転職したのですか?」

「そうじゃにゃいけど……」


そう言って、シルルは頬を赤く染めながら私の前に現れる。


その瞬間、私の口から出た言葉は「誰?」という一言だった。唖然としたのだろう。いつものシルルとは違う、別人となったシルルに。


シルルは癖のある髪をカールされたマッシュウルフに整えられ。髪は流水の流れにそうような曲線をえがき、そっと化粧をそえられ、控えめのアイシャドウで目の鋭さをおさえる。ハイウエストの黒のエンパライアラインが大人の女の雰囲気を放つ。どこかの令嬢なのかと気にしてしまうほどに整った容姿。

 

 え、これがシルル!? あの怠惰の塊のようなシルルなのか……。


「どちらさまですか?」

「ほらにゃ、バカにするにゃ!」

「いえいえ、素敵なお嬢様になってるしゃないですか」

「ほ、ほんとかにゃ?」

「ほんと、ほんと」

「ね、言ったでしょ、メイサはバカにはしないって」

「バカにするどころか、変貌ぶりに呆気にとられてますが? へぇ……意外な素材」

 「みんな可愛らしいお嬢様だ。素敵だと思いますよ。では、立っているばかりでは疲れるでしょう。席にどうぞ」


そういうと、パーラーメイド(給仕)達が椅子を引き、姫様たちを椅子へと誘導する。


「さて、ようこそ魔界へ、人間がこちらに来ることは滅多にありません。私から素敵なレディ達をおもてなしいたしましょう」

「ちょっとまったぁ!!」

「ん?」


甲高い声に叫びにも似た声をあげる一人の女。その声は若く、私は知っているものだった。心の中では(やばいのがきた)と覚悟を決める。


「閣下! ここはレイビーが取り纏め役を」

「そうですか、かまいませんが」


そして、レイビーは両腕を頭で交差させ、首を傾ける。踊りでも始めるのだろうか? それはそれで一興だ。


タタンとヒールを鳴らし、両足も交差させ、ゆっくりと両手を降ろし、首を天井に向ける。なんの演目だ? どうせ人間界で毒されたのだろう……。


するとレイビーはタタッターン! とステップを踏み、私を指さし「メイド―サ倶楽部会員ナンバー2! 白鳥のレイビー、今日も白洋ドレスが映える」と、私に目線で何かを伝えようとする。


「ひ、久しぶり……」


顔もひきつるわ! どんな奴かと、昔からやかましい女のレイビーだ。


「久しぶりだなんてつれないわ……私の愛おしいメイド―サ」


こんな頭でなければ顔の整った絶世の美女といえるのに……。長いまつ毛にシュッとした顎のライン、下に行くほどに細身をおびる誰もがうらやむ小顔。縦巻きロールの肩まで届くその美しい螺旋状に輝く金色(こんじき)の髪。

 

 本当にもったいない……私がいない間に頭にウジでも沸いたか……


「シルル、あれなに?」

「アホが一人増えただけにゃ」

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