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げっ!食料がない! お腹空いた…

 私は嫌だと思ったのですが、多数決で王都に近い『サドス』という街に向かうことなった。


 「多数決は民主主義に反します!」

 「あらメイサ、あなたが民主主義なんて言葉を言える立場なのかしら?」

 「それはどういう意味ですか?」


 私はむっと頬を膨らませる。


 「貴族社会というものが存在していること自体が民主主義ではないわ。貴族主義というのは魔界でも一緒でしょう? それにあなたは公爵の娘なのだから、民主主義を語るのは変な話よね」

 「うぐぅ……」


 返す言葉もない。レニーの言っている事は正しい。貴族社会で下々の者はくくられた範囲内で生きなければならない。


 領主が右を向けといえば右を向かなければ、途端に干されてしまう。まぁ、そんな場所に住もうとする者はいませんけどね。


 「メイサ、お腹がすいた」

 「そうですね、私もお腹が鳴ってしまいます。師匠の言う『お昼』なのかもしれません」


 ――そんな時『ぐぎゅるるるる』と響く。


 「誰ですか、景気の良い腹の虫を飼っているのは?」

 「私じゃないわよ? 食べ物は食べないし」

 「メイサ、私も違うよ」

 「私も同じです師匠」


 はぁ……ということはシルルが犯人というわけか。ん? って私の目線で数えられる人数はいち・に・さん……アレ?


 その瞬間、私の足をガシッと掴む手が――。


 「シルル? 何を寝ているのです?」


 ……ブツブツ。


 「は? 聞こえませんよ?」

 「シルル、ここで寝たらダメ!」


 姫様、それはたぶん違うと思います。なんか虫の鳴くような声で喋ってはいますがいまいち聞き取れませんね。というか似たような光景を思い出します。


 ……ブツブツ。


 まだなにか言ってる。すると、寝ている(倒れている)(そば)にしゃがみこむ姫様。そして、耳を傾ける。


 ……ブツブツ。


 「えっと……『ウチはおなかが空いて力が出ない』だってメイサ」


 うん、まぁそんなこったろうと分かってはいた。でも、食料はもうないですし……ここは森から抜けた平原、川もありませんから食料を確保するのは難しいですね。


 「師匠、どうかされましたか?」

 「いえ、手持ちの食料も尽きていますので、今すぐにご飯が用意できるという状況ではないのです。水なら大量にありますが、水で空腹を満たすのは拷問かなにかかと……」

 「そういう拷問はありますね」

 「あら、楽しそう」

 「こらこら、レニーは怖いことを言わないで下さい。それにしても困りました。隣国まで徒歩でもう1日はかかります。これは……非常時です!」

 「でも、具体的な解決策はないのでしょう? 私みたいに(かすみ)でも食べるのかしら」

 「それは無理でしょうね。って、あなたと同じに見ないでください! 我々は物を食べなければ餓死してしまいます」

 「不便ねぇ、でも餓死したら連れて行ってあ・げ・る」

 「要らぬお世話です。まったく死神は何を考えているのやら……仕方がありません。秘術でも使いましょうか」

 「師匠! 魔法ですか!?」


 嬉々として目を輝かせるカルメラちゃん。興奮気味に私の魔法を見たいとみえる表情だ。


 「ふぅ……『我、汝の力を必要とする。ワワンの名において生命を産み出さん!』……」

 「おお! 新しい魔法!!」

 「いえ、秘術なんですけどね。万能型のワワ系です。これを唱えると……」


 私の右手はひかり、地面がモコモコと動き始める。そして、ぽこりと沸いて出てくるウサギにも似た動物。ただし、頭部には大きな一角(いっかく)を持ち、その体の大きさはヒグマの8倍ほどになる。


 討伐対称:『陸生草食魔界動物ラビ目ムドアリ(地属性)種のビビアリード』


 「さぁ、狩りましょう!」

 「え……えぇ!? こんなに大きなウサギをですか!?」

 「あら、かわいい」

 「食事は目の前です! 張り切って狩りましょう!! これが本当の自給自足です!」

 「おっきなウサギさーん!!」


 姫様ははしゃぎ、私とカルメラちゃんは即座に戦闘態勢に入る。シルルは五体当地をしたままだ。本当に使えない。レニーは私達2人の様子を楽しそうに傍観している。


 「カルメラちゃん! 今こそ勉強の成果を出すときです!」

 「はい! 『我に力を、風の王ルトバルルに願う。そよぐ風を鋭い刃に変え、慈悲の下に』……はぁ!!」


 カルメラちゃんは詠唱し、伸ばした手から風の刃を作り出すと、召喚したウサギに向けて飛ばす。


 

 ザンッ! ――ズンッ!


 

 しかし狙いは外れ、巨大ウサギの角を根元から切り落としただけだった。だが、ウサギは命の危機に焦ったのか、「ブゥブゥ」と鼻を鳴らし、スタンプで何度も地面をダンダンと叩き警戒の意を表す。


 「ぐ……首を狙ったのに……」

 「いえ、良い魔法です! 強度のある大きな角を切り落とすほどの威力です。狙いがそれたのは残念ですが、かなりの魔法ですよ!」

 「本当ですか!? でも精度が低い……」

 「ならば『我に力を、風の王ルトバルルに願う。そよぐ風を鋭い刃に変え、狙い打つ。立ちはだかる壁を打ち砕け』……よっと!」


 私は水平に手を振るい、巨大なウサギの首下を狙い放った。


 それは一瞬の出来事。風の刃は的確に敵の急所となる首を切り落とす。地面が揺れ、ドスンと巨大なウサギは仰向けに倒れる。


 「やった! すごいです師匠!」

 「少し長い詠唱になりましたが、カルメラちゃんの(ことば)に付け足しました。これで精度と威力が大幅に上がります。さてと解体して昼食をとりましょう。この大きさなら、数日は食料に困ることはありません」


 私達はナイフで物理的に解体し、臓器などは異空間へと投げ込んだ。

 小さく小分けし、火をおこして、串に刺して肉を焼く。ジュゥと聴こえる肉の焼ける音。漂う香ばしい匂いに猫も起き上がる。


 「メシにゃー!!」

 「急に元気になりましたね」

 「メシは元気の素にゃ」

 「ウサギさんおいしい!」


 先程まで『かわいい』と言っておられたのに、すぐに『おいしい』に変わるその揺るがない精神、姫様恐るべし。


 「師匠、疑問に思うのですが?」

 「何でしょうカルメラちゃん」

 「なぜ、今まで使わなかったのですか?」

 「う……」

 「あらぁん、メイサは口が裂けても言えないわよね。お嬢様に教えてあげる。メイサが召喚したのは悪魔界の獣。本来なら人間界にいてはいけない品種なの」

 「それはわかります。見たこともない動物だったので……なにか事情があるということでしょうか?」

 「そうねぇ……言ってもいいのメイサ」

 「かまいませんよ」

 「魔界の獣を召喚するのは本当は駄目な事なのよ。もし、逃がしてしまえばたちまち生態系は乱れてしまう。魔界の獣は強いから」

 「では、師匠は私達のために禁忌(きんき)を破って……!?」

 「そうなるのかしらね。ねぇメイサ?」

 「そうなりますね。まぁ緊急事態ということで、ワワンさんも大目に見てくれるでしょう。父には報告されますけどね」


 面倒くさい事にはなるのだけど、仕方がない事ではある。この状況は親父も観ているかもしれませんし……でも、準備を怠ったと釘を刺されるでしょう。うぅ……。


 「では、師匠はお父様に怒られてしまうということでしょうか?」

 「そこまではいきませんが……」

 「反省文が必要ね」

 「反省文?」

 「はい……禁忌を破った罰とでも言いましょうか、魔界の監察官に反省文を送らねばなりません。重い罰もあります」

 「そんな、これは非常時の事でもありますし、それは向こうも……」

 「いやぁ、そういう訳にもいかないのですよ。今食べているウサギは保護動物なので」

 「あ――。それは……」

 「にゃはっ、やっちまったにゃ!」


 ニヤリと笑うシルルは両手の人差し指を私に向け、いままでの鬱憤(うっぷん)を晴らすかのようだった。


 (今までバカ猫扱いしていたことを根に持ってるなコイツ)


 「うるさい! 早く食って、姫様と昼寝しろ!! ハラペコ猫娘(ねこむすめ)が!!」

 「そうするにゃー」

 「罰金とかあるのかしら?」

 「うーん、結果によりますね。反省文か罰金か……個人的には罰金のが楽でいいのですがね」

 「反省文より罰金がいいと?」

 「反省文といっても魔法が一時的に使えなくなる面倒なものですよ?」

 「え、えぇ――!! それは困ります!」

 「うん、私も困ります」


 すると、突然異空間が開き、一枚の羊皮紙が私の目の前に落ちる。

 拾い上げて、書いてある紙面を読むと、どうやら罰金で済むことが書かれている。だが、罰金刑に処された事を認知するサインに親父の名前が書かれていた……。


 「師匠? 顔色が悪いですけども?」

 「その羊皮紙みせて……これは……メイサには気の毒だけど覚悟が必要ね」

 「親父は大丈夫ですが、これを知った姉は怒り狂うでしょうね……『この面汚しが』と」


 とほほな日です。でも、食料が確保できたので良しとしましょう。絶対人間界に来るわあの人……。

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