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旅立ちです! でもコッソリと…

 今日はこのリーフの村ともおわかれの時だ。居心地が良くて、長く滞在しようかとも思ったが、昨晩の皆との話し合いで急遽(きゅうきょ)ではあるが、明日の朝に村を出ることになった。


 皆、理由はそれぞれだ。私と姫様は王都に向かいたい。シルルはその護衛として着いていきたい。カルメラちゃんは故郷の両親に会いたいといった理由からだ。


 ここに居つくのも悪くはないが、世界は広い。この広い世界を巡るのが旅の目的だ。そして迎えた朝。


 静かに村を出ようと、コッソリと泥棒のように周りを警戒しながら私達は村の囲いまで到着する。


 「師匠、よろしいのですか?」

 「あまりよろしくないですが、今生(こんじょう)の別れというわけではありませんし、いつかはまたこの村にも立ち寄るでしょう。まぁ、村長さんには挨拶をしたかったですが」

 「では、今からでも!」

 「まだ、村の方達はお休みでしょう」

 「ウチはどっちでもいいにゃ」

 「またこれるかなぁ」

 「来れますよ。その時にまた……」


 昇る朝日を後ろに逆光から村を眺める。そして一礼して、前を振り向いた時だった。目の前には村長、それに村の方達も……気付かれていた? まさかそんな。


 「()たれるのですね」

 「あ、いや……そうなのですが……」

 「水臭いお方です。我々はあなた方に恩義があるというのに、挨拶をさせてもらえないのは、この先の人生で汚点として残るでしょう。どうか、見送らせて下さい」

 「はは、参りましたね」


 まさか、隠れて待っているとは気が付かなかった。村人の誰かが知らせたのだろうか?


 「カルメラ様、あの時は助けていただき感謝しております!」

 「そ、そんな……えっと、私は正しい行いをしたと思っているだけで」

 「我々はそのお心に救われたのです。献身(けんしん)に治療を行っていただいたことで、我々は救われました」


 すると村人の一人はカルメラちゃんの前に立ち、色とりどりの花束を差し出す。カルメラちゃんは困っている様子ですが。


 「えっと……ありがとうございます」

 「旅先でも元気でいて下さい」

 「はい!」


 おや、お次は姫様ですか?


 「シャレル!」

 「みんな!」

 「これさ、みんなで集めたんだ。受け取ってくれよ」

 「うわぁ、ありがとう!」

 「へへへっ」


 姫様が貰ったのは宝石の原石だった。まだ、加工前のものだが、ここの子供たちはたくましいというか、無欲といいますか、それがいいところなのですけどね。


 「それさ、街で売れば、いいお金になると思うんだ。旅のお金にしてくれよ」

 「私たちのお小遣いみたいなものなの」

 「本当にいいの? 大切なものじゃ……」

 「みんなシャレルが大好きだから、みんなで頑張ったんだよね」

 「うん!」

 「へへっ」

 「みんな、ありがとう。大切にするね」


 姫様はポロリと涙を流して、感謝の言葉をおくった。子供の友情(あなど)りがたし。なぜかって? あの原石は時価で換算すれば相当な金額になります。それをひょいっと贈るのですからたいしたものです。


 ん? シルルには誰も……まぁ……ここは黙って――。


 「猫のおねぇちゃん……」

 「んにゃ?」

 「あの……おねぇちゃんが私を見つけてくれなかったら……その……」

 「ハッキリ言うにゃ」

 「はうぅ……」


 コラコラ、子供に対してそんなに威圧的にならなくても……ん? シルルの耳の内側がちょっと赤いぞ?


 「……ありがとう」

 「うにゃ、よくできたにゃ。スエス」

 「名前、覚えててくれてたの?」

 「シャムシェ(化け猫族)はそんなに物覚えは悪くないにゃ」


 ほほぅ、照れ隠しでしたか。シルルも隅には置けませんね。するとスエスは一輪の黄色い花を両手で差し出す。


 「にゃ?」

 「これ、御守りに……」

 「ありがとうにゃ、大事にするにゃ」


 花を受け取ると、シルルはスエスに微笑み。スエスもまたシルルに微笑返した。シルルって案外子供うけがいいのか? そして私は村長と話しをする。


 「本当にありがとうございました。あなた様のお父上にも私が礼を申していたとお伝えください」

 「えぇ、父も喜びましょう。また会える事を約束として残します」

 「その約束、確かに承りました。旅の無事を祈っております」

 「感謝いたします。本当にありがとうございました」


 そして、村人達が大きく手を振る中で私たちは朝日に照らされる道を一歩、また一歩と踏み出した。次はどんなことが待っているのでしょうか楽しみですね。


 「メイサ、これしまってて」

 「あ、私も」

 「ええ、かまいませんよ。2人には大事な物ですからね。シルルはどうします?」

 「うにゃ? ウチはいいにゃ」

 「そうですか」


 私は異空間に姫様とカルメラちゃんの贈り物をしまいこむ。枯れたりはしないでしょう。


 ふとシルルを見ると、スエスに貰った一輪の花を顔に近づけ、クルクルとまわしている。その顔はどこかはにかむ笑顔に見え、シルルも満更(まんざら)ではないと教えてくれる表情だった。


 そして、村が見えなくなった時、私は足を止め、一言。


 「レモニード、隠れてないで出てきなさい!! 今はあなたのでる幕はない」


 私の唐突な行動に他の3人は辺りを見回し警戒している様子。


 すると、茂みから赤いコートを羽織(はお)るレモニードの姿が。シルルは警戒し、姫様を守るように前に出る。カルメラちゃんは杖を持ち、緊張した様子であった。


 「何の用ですか? まさか新たな旅路の見送りというわけではないでしょう?」

 「私がそんな事をするような女に見えるかしら?」

 「見えませんね。利己的な考えしか持たない死神に用はありませんよ?」

 「死神!? 師匠、その方は死神なのですか!?」

 「えぇ、私の元、幼馴染(おさななじみ)という方でしょうか……しかし、理由がなければ関わりを持たないはず……答えなさいレモニード! 何が目的です!?」

 「では、メイドーサに言うわ。私をあなたの仲間にしてほしい。それだけよ?」

 「嘘をおっしゃい! 誰があなたを仲間に……裏があるのでしょう?」

 「隠していてもいずれはばれる。メイドーサにはかなわない……私の目的は二つ。一つはメイドーサの監視。もう一つはそこの姫様の護衛。面倒よねぇ」

 「どういうことですか? 死神が護衛なんて……それに、私を監視する理由はどこからでたのです?」

 「上司の命令よ。メイドーサは(けが)れた魂を惹き寄せる。そして、聖霊の復活の鍵となる娘。それが理由」


 姫様が聖霊を復活させる鍵? ここにきての急展開。頭は混乱しますが、姫様を狙う(やから)がいるということ。そして、その集まる者が穢れた魂の持ち主であり、レモニードの標的ということか。


 「それで、私達の仲間になるなら服装くらいはちゃんとしてほしいものですね」

 「これじゃ駄目かしら?」

 「それじゃ娼婦みたいなものです。というかこっちから遠慮いたします」

 「メイサ、いいのかにゃ!? 相手は死神にゃぞ?」

 「ですが、姫様の護衛もしてくれるのは心強い。相手は死神。下手に喧嘩を売れば、あの世へ昇天ですよ? そうでなくても相手を瞬時に気絶させることくらいは朝飯前、そんな用心棒もいれば安心でしょう」

 「それはそうにゃのかもだけど……ウチは怖いにゃ、怒らせるとあの世いきにゃ」

 「それについては大丈夫です。無理な力の使用はできませんので、明確な敵意のみに反応します。200年以上の付き合いがありますが、彼女が怒った姿をみたことはありません。逆に言うと、怒るとどうなるかは想像もつきません」

 「そんな爆弾をかかえるのかにゃ!?」

 「恐らく、この件は断る事は出来ないでしょう。深界(しんかい)の大御所が関与している可能性がありますからね。それに悪魔も死神も聖霊には警戒しています。そして彼女は幹部候補の人材。立場的に裏切ることもなければ、私達に無益な危害はくわえてこないでしょう」


 そんな話をしている最中、レモニードは下着を穿き私の服を着ると、全裸よりはいくらかはましな姿になる。


 「メイドーサ」

 「なんですか?」

 「胸が苦しいわ、ボタンあけていいかしら」

 「ちっ、でっかい胸しやがって……」

 「胸が苦しいの?」

 「そうよお姫様」

 「じゃぁ、恋してるんだね!」

 「あら、おませな子。そうねメイドーサは私をドキドキさせてく・れ・る」

 「ひぇぇぇ、寒気がすることいわないで下さい。私は姫様とカルメラちゃんがいます!」

 「つれないのね。激しいメイドーサをみたいわ。昔はそんなに物静かではなかったのに」

 「やっぱりお前等はそんな仲にゃのか?」

 「そこ引かない! 違います、誤解です!」


 さてさて、死神まで仲間になるとはとんだ構成のファミリーになりましたね。先が思いやられる……。

読んでいただきまして、ありがとう御座います!

次回より『第2部 魔界小旅行編』が始まります。

まだまだメイサと姫様の物語は続きます。

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