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さぁ、お風呂だ! 戦闘準備!!

 さてさて、昼食もたべましたし(血のジャムを塗ったパンでしたが)そんな事は気にしない。それは私と姫様の甘い一時を過ごせる時間となったのだからぁ。


 と、思いつつもどこか自重せねば怪しまれてしまう。変質者として――。いや、いいのですよ? 社会的に抹殺されようがどうされようが。私の姫様に対する気持ちは愛に満ち溢れているのですから。だ・か・ら――。


 別にかわないよ! かかってこいや汚名! そんなもの名誉じゃぼけがぁ! などと思うのは私の心が尖がっているせいなのだろうか? はたまた崩壊の兆しを見せているのだろうかと疑問が頭を過ぎる。後者でないことを願いたい。


 うーんと考えていたところに、私の袖をクイクイとひっぱる姫様の姿。


 「どうされましたか?」

 「これからどうするの?」

 「申し訳ありません、考えておりませんでした……」


 少し肩を落とす姿に姫様は「お風呂は?」と何気ない提案をしてくれる。その何気ない提案は私のヘブンズドアを大きく開きグッドサインを見せる私の善幸の姿。神よこの心意気に感謝いたします。え? 悪魔が神に祈るのは反している? いえいえ、悪魔にも神様はいるのですよ?


 「それはよろしいかもしれませんね」

 「おっふろー!」


 そうなんだよねぇ、宿屋にはお風呂がないんだよなぁ……これまでは2日に一度という間隔だったけど、今日は巾着袋はホクホクな私。昼間っからの贅沢にも揺るぎはしない。うむ! どーんときなさい!


 「ではお風呂に参りましょうか」

 「うん!」


 ふふ、無垢な笑顔で……私の邪心はニッコリと不気味な笑みを浮かべておりますぞ姫様――。ふぉっふぉっふぉ。姫様とお風呂ぉ、楽しみも増えてまいりますね。


 そこで向かったのは街一番と称される大浴場、一度入ってみたかったんだよね――。もうね、一般大衆なんて寄せ付けない外観。何軒の民家が入るのだという広さ。入口からして高級感のあるお風呂屋さんなんてめったにないからね。前から気にはしていた。


 いつもは、大衆浴場というか、芋の子を洗うほどに、人間が大勢いたお風呂だった……一度の贅沢も姫様のためにあるのではないか? そう思えば安いものだ。まぁ、高級感でいうのならば昔のお城がすごかったのですけどね。大理石で造られた姫様専用のお風呂。あれは凄いね。


 そしてたどり着く、高級浴場。人間の姿はチラホラ、それに身なりの整った人間しかいない。流石と言うべきだろう。


 「ほぉー、ここはなにメイサ」

 「ここいつもと違うお風呂で御座いますよ」


 ニコリと微笑むと、姫様は首を傾かせ、頭の上に『(ハテナ)』の記号がポンポンと飛び出しているのがよくわかる。う――ん、かわいい。


 「早速行ってみましょう」


 私は姫様の手を引いて、中に入るとそこは別世界というにもふさわしい光景だった。1人で驚いていたわけではない、姫様も口をぽかんと開けて周りをキョロキョロとしている。当然だろう。大理石に囲まれた石畳に装飾の施された玄関口、受付まで自分の姿が反射して映るほどの綺麗さ、まさに姫様にふさわしい場所である。


 受付で銀貨3枚をを支払うと、肌触りのよい布と石鹸まで渡してくれる。これが大衆浴場だと、自前で用意しなければならない。今まで不憫な思いをさせてしまって姫様には申し訳ないと思っている……。


 だが、今日は違うのだと――!!


 「はい、こちらがシャレル様の体拭きですよ」

 「わぁ、ふかふか!」


 ふふふ、そうでしょう、どうでしょう! このメイサ、姫様には不憫な思いなどさせませぬぞ。まぁ、以前までは苦労をというか、姫様は口には出しませんが、色々と気を使われていることだと思います。


 そして、私達は脱衣場へ、昼間ということもあってか人間の姿は少ない。着衣を脱ぎ、裸になるとワンピースが首のところで詰まっている姿の姫様が……。


 「あの、シャレル様……お1人で脱げますでしょうか?」

 「うーん、むー! メイサ助けて」


 グフフ、お世話のかかる姫様で御座います。でもそこがかわいいんだよ!! わかるか周囲の人間共! この可憐な美少女が魔王様の娘である事とは到底思えまい!! だが、禁句にも程がある発言になるのだがね!!


 あ、いかん世界に入り浸ってしまった。早く姫様を助けねば。


 「シャレル様、背中のボタンが留まったままで御座いますよ?」

 「メイサとってー」


 あーんもう、とります! とります!


 さて、2人とも布切れ一枚を巻いて準備完了で御座います。それでは……っと、扉を開けるとここは新世界かと思う内装だった。


 あっけにとられていた私の耳に壁に反響する姫様の喜ぶ声。彫刻の施された流し場、それでいて噴水の設置される広い湯船。なんだここ。これが風呂屋なのか?


 「ひろーい! すごーい!」

 「左様で御座いますね」

 「宿屋より広いね」

 「うっ」


 愛らしい笑顔とは裏腹に、私は何かに心を折られた。確かに宿屋と比べると、広いし清潔感もある……でも姫様それは禁句に……と言いたかった……。


 「さて、湯船につかる前に身体を洗いましょうか」

 「うん!」

 「では、シャレル様、私めが身体を洗って差し上げますね」

 「エヘヘ、お願いするの」


 おっらっしゃ――!! 今日一番のイベントじゃ――!! 文句あるか――!?


 血潮に流れる熱き魂――。たぎる思いで盛る感情は止められない。そうだ! これが! し・ん・せ・か・い!! 音階は不明だがちょっと歌ってみた。


 そっとふれる姫様の柔肌……あぁ、至高の幸せとはこのことか、布に石鹸をなじませ、背中や腕をシャコシャコ……プニプニの柔らかい弾力のもち肌。


 姫様は私の変化に気がつく。


 「メイサ、顔が真っ赤だよ?」

 「のぼせてます」

 「お風呂まだだよ?」

 「いえ、戦いはすでに始まっているのです」

 「たたかい?」


 首をかしげながら不思議そうに私を見ている姫様、だが私は重要なことに気付く。わっは――! 姫様のすみずみがって胸元まで見えてるじゃん!! いつもの大衆浴場は薄暗いからので、こ、こんなくっきりと見えていいの――!? むしろ、見ていいの――!?


 冷静に、冷静に……落ち着け私。だが、しかし……あたいの心は重病を患うほどに苦しい。これが変態値の高さかと、自分を卑下するが、私は正しい解答を述べている。


 「シャレル様は本当にお綺麗で羨ましい」

 「メイサも美人だよ」

 「そんな、私と比べるなどとは……」


 内なる妄動を抑えながらも、私は姫様の身体を洗いきった。これは上級に指定されてもよい任務……。危うく死ぬところであった。だが、私の目に焼きついた姫様の白く透き通る肌に、これから育つであろう乳房……ぐぅぅ。あぁ! もう面倒だ! そんなあたいは『クッ(ころ)戦士』気分。


 私なんてものの数秒で身体を洗い終えて、姫様と湯船につかる。なに? 衛生観念がなっていないと申すか!? そんなことはありません。汚れは落ちています。ところで薬湯なのか香りが心を落ち着かせてくれる。


 「気持ちいいねメイサ」

 「左様で御座いますね。今日の疲れも吹き飛びます」


 いや、まぁ……姫様の笑顔(裸体)で疲れなんて吹き飛びますけどね。意識も。


 「シャレル様、ちゃんと肩までつかりませんと」

 「だって、ちょっと熱いもん」

 「あー、確かにそんな気はしますが、それでも温まりませんと風邪を引いてしまいます」


 (ん? 違うか……うぅん?)


 「おふろでカゼはひかないよ、変なメイサ」

 「左様ですね。折角ですからゆっくりと」

 「うん!」


 一時間程度だろうか、湯船につかったり、ちょっと退避して体の熱を逃がしたりと有意義な時間が過ごせました。


 着替える際にも、服を上手に着れない姫様の格闘を見届け、私と姫様は風呂屋を後にした。


 「……」

 「どうされました?」

 「う、う……ん……」


 姫様は目をこすりながらトボトボとおぼつかない足取り。そして、時折ユラーっと倒れそうになる。


 「シャレル様。おんぶなどいかがでしょうか?」

 「いいの?」

 「えぇ!」


 私は姫様を背中におぶさると、姫様はすぐに眠りの中に入ってしまわれた。背中に感じる重みは、いま私が感じている幸せの時と同じくらいのものだろう。今日も平和に幸せな日々がゆっくりと終わろうとする。


 (いつの間にか夕暮れですね。こんな日が続くのならば私は一生懸命にがんばります)

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