ポカポカです。 姫様それは…!?
「今日はいい天気ですね姫様」
「ポカポカしてるね」
今は姫様と借りている民家の裏で2人とも日向ぼっこをしている。姫様の独占時間ということだ。
私が姫様を独占しているのか、姫様が私を独占しているのかはわからないが。
そういえば、貴族との話し合いはどうなったのかという事だが、村長の話では終始親父の独壇場だった様子。ペネウスが揚げ足を取ろうにも、私の親父がそれを逆手に取るといった無謀にも等しいような話し合いだったとか。まぁ、流石は悪魔の6大貴族の公爵。爵位の違いもあるが、生きている年数が違う。親父の年齢は4桁は軽くいく。1000年戦争の当事者でもあるから経験値が違い過ぎる。残念だがペネウス侯爵ごときでは相手にはならないといったところだ。
最終的にはこの村に二度と手を出さないことで決着したようだが、ペネウスは帰り際には顔面蒼白だったと聞かされている。
話し合いが終わると、すぐに親父は帰ってしまった。村長はお礼のために私達を好きなだけこの村に滞在させてくれる事を約束はしてはくれたが……。
「姫様」
「なぁに?」
「姫様はこの村にずっと居たいですか?」
「うーん……どうかなぁ」
「我々の目的は王都ですからね」
「うん、王都!」
これは分かっていらっしゃるのでしょうか? 少々の疑問は過ぎりますが。はて、シルルとカルメラちゃんの姿が見えませんが?
「姫様、シルルとカルメラちゃんは見ていますか?」
「シルルは村の人達と狩りに行くって言ってたし、カルメラは魔法の勉強で家に居るよけど、気になるの?」
「そこまでは。ただ、見掛けなかったので気になっただけです」
「もう、今はメイサを独占するのは私なのに、メイサは2人のことばかり」
「いえいえ、姫様とこうしているのは幸せですよ。昔もこうして2人でいましたものね」
おっと、機嫌を損ねては大変だ。軽く頭を撫でると、気持ちよさそうに目を閉じる姫様。うぅん、かわいい。手放したくはない。
「ねぇメイサ」
「何でしょう?」
「ひとつ聞いてもいい?
「なんでもどうぞ」
「私とカルメラのどっちが好き?」
「――!?」
こいつぁとんでもない直球が飛んできたぁ!! 待って、待って……ぬおおおおお!!
悶絶している私の姿に姫様はニヤニヤしている。回答を待っているのはわかるけども、2択でどっちも地雷とか……。
「なんちゃって」
「え?」
「えへへ、ちょっとメイサを困らせたかったの」
「だはぁ……」
心臓に悪すぎますぞ姫様。でも、なにこの会話。甘酸っぱいよぅ!
「ところでメイサ」
「なんでしょう?」
「私はカルメラのように魔法は使えないの?」
「難しい質問ですね。使えないというのは少々語弊があるようにも思います。姫様の体には魔力の核があります。ですが、魔水晶がなければ機能はしないでしょう」
「じゃぁ、使えないってこと?」
「うーん、どうでしょうか、私は可能だとは思うのですが」
以前に親父は『姫様に魔法は使えない』と断言していた。親父が言うのだから……まて、魔力の核なのに使えない道理はない。むしろ魔力の源になる……親父は何かを隠している。
「使えないならいいや」
「諦めがいいですね」
「剣を使う騎士になる!」
「ほほぅ……って、えぇ!?」
「メイサ、剣出して」
「危ないですよ。それに重いですし」
「剣がいいの! 剣がいいの!」
「分かりました。でもちょっと触るだけですよ? 振るとかはなしで」
「うん!」
私は異次元から姫様でも扱えそうな短剣を取り出すと、姫様に渡す。柄を握り、鞘からキラリと光る刃先を目を丸くして見る。
「どうでしょう?」
「これで人斬れる!?」
「……斬っちゃ駄目です。大事になってしまいます。刃先は触っては指を切りますから慎重に」
「えい!」
「うわぁ!!」
姫様の攻撃! メイサは素早く身をかわした。って危ないわっ!! 振るのはなしって言ったじゃないですか!?
「おぉ、流石はメイサ。当たるとどうなるの?」
「血が出ます、痛いです、勘弁してください」
「それは困るね。じゃぁしまうの」
そうしてもらえると助かる。ん? あ、これ呪いの短剣だ……うぅん!? やべぇ! 退避!
姫様は短剣を鞘に仕舞うどころか、私に刃先を向けてくる。おおっと、壁際に追い詰められ、短剣を突きつけられるこの状況はどうよ? すると外の空気を吸いに家から出てくるカルメラちゃん。こちらを向くと、異様な光景が――。
「え、あの……師匠とシャレルは何してるのですか? なんか殺傷現場を目撃している気分になるのですが」
「気分で収まるならまだ楽だと思います」
「話がみえな……シャレルは呪われてませんか?」
流石はカルメラちゃん! いいとこに気が付いた。そして、助けて!
「助けが欲しいのですが……」
その間にもジリジリとにじり寄る姫様。マジで危ないから!! ちょっつ、本当に勘弁!!
「呪いを解く方法……聖水がありましたね」
「それです! 早く聖水を!!」
「すぐに持ってきます」
「姫様、落ち着いて、まだ間に合う(?)」
「キラキラしてて綺麗だねぇ……」
あかん、言動が危ない……身の危険を感じながらも、ゴクリと覚悟を決める。そんな時、姫様の背後に影が。影は姫様をひょいっと持ち上げた。その反動で短剣は手から抜け落ち、地面に突き刺さる。
「ただいまにゃってなにしてたにゃ?」
「い、いえなにも」
「あ、シルルおかえり!」
「ただいまにゃ、ご主人。で、何してたにゃ」
タイミングは悪く重なるのは自然の摂理。
「師匠、呪い消しの聖水がありました。あ、シルルさんおかえりなさい」
「にゃはー。で、それはなんにゃ?」
「シャレルが呪われていたので聖水を」
そろっと逃げようとした刹那――。
「待つにゃ、そこの色ボケ色魔。ご主人になにしたにゃ?」
「いえいえ、何も。普通に日向ぼっこを」
「え、師匠は呪いが――」
この後、シルルにしこたま怒られました。いや、そんなつもりはなかったのですよ!? ただ、偶然に……反省しろと? 分かってます。でも、不可抗力が……関係ない。はい。
「お前はご主人に呪われた短剣持たせるとかなんにゃ? 潔く貫かれたかったのかにゃ!? そこまで変態かにゃ!?」
「変態は関係ないですよ……たまたまです」
「師匠も大変ですね」
「分かってくれますかカルメラちゃん!」
「そこ、甘やかさにゃい!!」