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再び親父登場! メイサ、お前はどっちをとる!?

 「私はバカだ。姫様の気持ちにも気付かなかったなんて……自分の甲斐性なさに吐き気がする」


 私は走った、今は村にペネウスが着ている。だが、そんなことは関係ない。ペネウスとの対話は必要だが、それよりも大事なのは護らなければならない姫様に謝らなければいけない……私は無能だ……目の前の事だけに目を向けて大事なもの見ようとはしなかった。

 


 それは数刻前の事。


 姫様は私の言葉にショックを受けたのか、走り去り、私の前から姿を消した。なぜこの時に追わなかったのかと後悔の念が頭を()ぎる。


 気付いた時には遅かった。姫様は村人の目の届かない場所に移動していた。それすらも気付かず私は自分の事だけしか考えてはいなかった。それはシルルに言われて初めて気が付いたことだった。


 「メイサ、ご主人は見なかったかにゃ?」

 「いえ、先程まで……いないのですか!?」

 「そうにゃ、遊ぼうと思ったのに、見つからないのにゃ。匂いも薄いし、これは森に行ったのかもしれないにゃ」

 「一人で森に!? それは危険です、探さなければ!」


 そう、姫様は森に一人で入られ、シルルの鼻でも捜索が困難となっていた。だが、この一大事に悪いことは重なるもので、慌てた様子のカルメラちゃんが私のもとに息を荒くし、報告をする。


 「はぁはぁ……師匠、ペネウス候が……ペネウス候がこの村に!」

 「な、なんというタイミングで……」

 「お前は向こうに行けにゃ! ご主人はウチが探してくる!!」

 「……しかし!」

 「事情があるのかはしれにゃいけど、今は村のために話し合いがあるにゃ、ちがうかにゃ?」


 どうすればいい……私はどうすれば……向こうから対話を求めてきたのならば、交渉の余地はある。村を救うことが出来る。でも姫様を見つけ出すことも大事だ。順番なんてつけることは出来ない。自分勝手なことだとは思っている。だが私には――。


 「やれやれ、見ていたよメイドーサ」

 「親父……いつの間に?」

 「私は失望したよ、お前の仕事はなんだね? 姫様の護衛かね? それともここの領主と交渉して村を救う事かね? どちらかな」

 「おっさんにゃ、いつの間ににゃ」

 「……親父。私は……私の仕事は姫様の護衛だ!」


 この時、強く確信した。私は姫様を護らなければならない。姫様から離れてはいけない。気持ちも、姫様が寄り添える場所としても。


 「人間の子に(うつつ)をぬかして、姫様を(ないがし)ろにした罪は重い。それは分かってはいるな? メイドーサ、いやメイサ。自分の与えられているモノを忘れては駄目だ」


 ぐうの音も出なかった。反論も、後ろめたさに対しての怒りも……返す言葉は出なかった。気持ちではわかっていた。私の中で一つの可能性が頭の中にポッと浮かぶ。昨晩の事を姫様は知っているのではいかと――。


 「早く行きなさい! 自分の仕事は姫様を護ることです。あなたがこの村の将来を考えるなど身分を(わきま)えて考えなさい。メイサ、お前は一生、この村に居続けるのですか? あなたの考えは、相手に生涯守ってくれるという考えを植え付けたのですよ? 村長との話で、一歩引くべきであった。交渉が下手にも程がありますね。あなたはまだ学ばなければならない」


 「でも、村を襲った親玉の貴族が……」

 「大人の対話に子供のあなたを出せましょうか? それは難しい。交渉は私がしましょう。それが一番の最善策です。子供は子供なりに自分の認識できる範囲で物事を考えなさい。認識を超える場合は投げ棄てなさい。それでいいのです。出来ないことを出来ると威張ってこければ、その失態を一生引きずることになるでしょうね」


 親父の言うことは正しい。私は恋愛ごっこしてただけに過ぎなかった。カルメラちゃんが私を好きだという気持ちを無邪気にも扱い、カルメラちゃんを傷つけていた……その傷は見えなく厄介な傷だ。そのことで姫様の気持ちも傷つけていた……なんと(おろ)かな行動だろう。軽率にも程がある。


 「メイサ、あなたに魔法をかけましょう。これで姫様の居場所が分かります。今のあなたには視えている筈です」


 親父は私の頭に手をのせ、念を送るように「ほっ」と言う。


 「姫様……」


 視える。姫様が森の奥ですすり泣いている姿が……これが私の行動の結果なのか、大事なものを傷つけた行く末なのか……早く姫様のもとに行かなければ!


 「行って来ます!」

 「よろしい。あなたの大切な任務を忘れてはなりませんよ。メイサにしか出来ないこともあります。それは私には出来ないことですから」

 「おっさん、行かせていいのかにゃ!? 村のことはどうするかにゃ!?」

 「そこは私の仕事です。子供の火の不始末を片付けるのは親の務めです。後の事は任せなさい。あなた達は、今は4人で一つの家族です。互いを尊重しあう気持ちを忘れずに。お嬢さん」

 「わ、私ですか?」

 「娘があなたの気持ちを粗末に扱おうとしてその気にさせてしてしまったようで申し訳ない」

 「師匠は私の事は好きではないと……?」

 「いえ、好きでしょう。あなたの気持ちにも応えたかった事に偽りはありません。ですが器量の問題でしょうね。あの子は不器用なのです。人の気持ちを把握するのが。それをわかった上でウチの娘と交際していただきたい」

 「私は師匠が好きです。大好きなんです!」

 「えぇ、その気持ちは伝わっているでしょう。ですが、あの子の器では2人の気持ちを汲むのは難しい。どちらかを選べといえば、昔のあの子ならどちらも切り捨ててしまう。そう、悪魔は合理的に動くもの。しかし、今のあの子にはそういう気持ちはありません。ただ純粋に2人の気持ちにどう向かい合えばいいのか判らないのです。賢いお嬢さん、どうか不器用な娘をよろしくお願いします」

 「はい、お父様。好きだって気持ちも、師匠の傍にいたい気持ちも変わりません。たとえ傷つけられても」

 「強いお嬢さんだ。あなた達にも魔法をかけます。2人にお願いがあります。娘を補佐してやってください。お願いします」

 「まかせるにゃ! メイサは甲斐性なしだからにゃ! ウチが見てないとすぐに色目を使うにゃ」

 「分かりました。師匠は不器用な方ですが誰にでも優しい方です。憧れているんです! だから……だから私達が師匠を守ります!」

 「恵まれていますね。ではメイサの事は頼みました。私はこの村にきた害虫でも駆除しましょう。二度とこの村に来れないように」

 「笑顔にゃけども、何か怖いにゃ……」

 「さ、流石はルトバルル公爵様……裏打ちされた怖さが(にじ)み出ています」


 そして現在、私は息を切らせて、姫様の泣いている場所にたどり着いた。そこは木漏れ日の差す花畑だった。親父には感謝してる。私だけだったら見つけられなかった。でも、どうやって接したらいい。()れたら破裂しそうな空気……。


 「はぁはぁはぁ……」

 「……メイサ」


 涙ながらに私に向ける視線は何かを憎むものに近かった。でも……一歩を踏み出さなければ何も変わらない。私は膝をつき、かしこまった格好で頭を下げる。今、下手に近づけば姫様は金輪際(こんりんざい)なにも信じなくはなってしまうかもしれない。その原因を作り出したのは私だ。


 無言の中で私と姫様は見つめあった。互いに言葉を掛け合うわけもなく、ただじっと時だけがゆっくりと過ぎる。最初に話しかけてきたのは姫様だった。


 「ごめんねメイサ……私はメイサが嫌いになったわけじゃないの……一緒にいたら胸が苦しくて……痛くて……自分の気持ちが分からないの」


 今は耐えろ、ここで何かを言えば、姫様は心を閉ざしてしまう。迂闊(うかつ)に言葉をかけるのは禁物だ。


 「うっうっ……ズズー」

 「……」

 「メイサ、私はどうしたらいいのかな? 魔物の皆のようにこのまま消えたほうがいいのかな? もう苦しい思いをするのはやだよぉ!」

 「苦しまなくても良くなる方法があったら姫様はどうしますか?」

 「あるなら知りたい! 教えてメイサ!!」


 私は両手を広げ、ニコリと微笑む。


 「さぁ、姫様。ここにおいでくださいませ」

 「う、うん……」


 ヨタヨタと歩く姫様に心労と、ここまで歩いてきた体力の消耗に気が付くも、私は無言で胸の中におさまる姫様を抱きしめる。


 「メイサの匂い……昔から変わらないね。私はお母様を知らないから……今まではメイサがずっと傍にいてくれたから寂しくなかった。でも、今はシルルがいてカルメラがいて。でも苦しいのはどうしてなんだろう? 毎日が楽しいのに、苦しいのは変だよね?」

 「それはなぜでしょうか私は分かりません」

 「昨日の夜に、カルメラと話しているのが聴こえたの。その時は我慢してたけど、胸が苦しくて……これって私もメイサの事が好きってことなのかなって思ったの」

 「それは姉のようにということでは?」

 「ううん、さっきはそういったけど、メイサの事を考えるとむぎゅぅってなるの。本当の好きってなんなのかな? この気持ちの好きってなにか分からないの」

 「姫様は恋を経験されたことは?」

 「ないよ?」

 「ではそれがそうなのかもしれませんね」

 「これが恋なの? メイサは女の子だよ? 女の子同士が好きになるの?」

 「ありますとも、人を好きになる感情には種類がありますが、姫様が経験しているのは相手に対しての恋愛感情の表れだと思います」

 「じゃぁ! 私はメイサが大好きなんだ!」

 「おや、元気が出てきましたか?」

 「うん、メイサを大好きだぁーって考えたらね、胸がすぅって気持ちよくなってうずうずするの。カルメラも同じ気持ちだったのかな?」

 「多分そうだと思います。互いに気になる人を摂られたくないという気持ちが先走ってしまってどこかでぶつかってしまったのでしょうね」

 「メイサは私の事が好き?」


 私はその言葉を聞いて一筋の涙をこぼした。


 「好きに決まってるではありませんか! 私の大事な姫様ですよ!! 嫌いになるわけがどこにありましょうか!! 姫様の(そば)を離れる理由がどこにあるのか、私の宝物ですよ!?」

 「私はメイサの宝物なんだ。えへへ、くすぐったい気持ちになるね」

 「姫様、私は愚か者です。姫様の気持ちも考えなくて、こんなにも小さいのに苦しめて、自分さえと考える自分に嫌気がします!」

 「メイサにはいつものメイサに戻って欲しいなぁ。2人でいた時の気持ちでいたい」

 そう言うと、姫様は自分の胸に涙を流す私の頭を押し付けるように抱きしめる。あぁ、私は救われている……恥ずかしくはない。今はこの時が止まってくれる事を願うばかりだ。


 すると茂みからシルルとカルメラちゃんが登場する。


 「落ち着いたのかにゃ? お前は泣き虫だにゃ」

 「師匠、私はシャレルと一緒の気持ちです。だから格好をつけづに飾らないままでいてください」

 「2人とも……くぅ……」


 私は大事なものを失いかけた。始まりは些細(ささい)な事だったのかもしれないが、放っておけばそれは取り返しのつかない事になると勉強させられた。軽く3桁の年齢にもかかわらず、人間界で学ぶことは魔界よりも多い。この半月足らずの出来事が私には教訓となった。


 カルメラちゃんは話があると姫様をすこし遠くに連れて行ってしまう。女の子同士の会話は気になるが。


 「で、お前はどっちをとったにゃ?」

 「今は選びません。選ぶという立場でもないでしょうし」

 「うにゃうにゃ、まぁ。カルメラは将来は家に戻って結婚するかもにゃし」

 「そうですね、今は初恋というのに満足しているのかもしれませんし。そういえばシルルには初恋はあるのです?」

 「にゃ、侵害にゃ」

 「あぁ、あると」

 「ないにゃ」

 「……お前の胴体と首を分けたろか?」

 「落ち着くにゃ、それはご主人が泣くにゃ」

 「でも何を話しているのでしょうね?」

 「さぁにゃ」

 

 「私が師匠と魔法の勉強をしているときは私が独占して、それ以外はシャレルが師匠を独占できることにしましょ」

 「わかった、そうすれば私もカルメラも互いにメイサを独占できるね!」

 「師匠は一人なのですから、2人で半分こというわけにはいきません」

 「半分になったら……メイサ死んじゃうのかな?」

 「悪魔でも流石に死んでしまいますわ!」

 「じゃぁ、約束だね」

 「えぇ、約束です!」


 それは女の子同士の一つの約束事だった。私を困らせない理由もあるかもしれないが、各々で独占できる時間を作る。もうどちらが遊ばれているのか分からないが、その約束事は2人にとっては大切なもの、決して私達が踏み込んではいけない領域。ところで親父はどんな交渉をしたのだろうか?

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