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優柔不断! どちらもびびってるぅ!

 はぁ……右には姫様、左にはカルメラちゃん。両手に花とはこの事でしょうか。それにしても2人とも幸せそうな寝顔ですね。


 ん? 猫ですか? 猫は別のベッドで豪快な寝相で毛布を蹴飛ばして寝ていますよ。回復力のあるシルルに疑問が過ぎりますが、今は考えても仕方のないことでしょう。


 天井を見上げて一日の出来事を整理する。この村は狙われるだけの価値があるのはわかったが、それでも彼等がエルフの子孫だとは……親父なら知っているかも。1000年戦争の当事者ならば知っていてもおかしくはない。


 それに、ここのところのレモニード(死神)がいる深界の動きが活発だ。なにかあるはずなのだろうけれども……さっぱりだ、わかんねぇ。


 「う、うん……」

 「ん?」

 「ししょう……? 起きているのですか?」

 「あ、起こしちゃいましたか?」


 あちゃー、堪忍やカルメラちゃん。起こすつもりはなかったんや。


 「眠れないのですか?」

 「ちょっと考え事をしてまして、ごめんね起こしちゃって」

 「いえ、いいのです。お気になさらないで下さい。師匠。少しだけお話をしてもいいですか?」

 「何か悩みですか? 相談にのりますよ?」

 「悩み事ではないのですが、師匠は悪魔のですよね?」

 「えぇ、人間が崇拝している悪魔ですね。まぁ、その娘ですけどね」

 「でも、公女なのですよね」

 「カルメラちゃんとは一緒の立場ではありますね。ははは、こんなのが公女というのも家の恥とも思いますが」

 「そ、そんなことありません! 師匠は立派です。それに公爵のご息女、私とは身分が違います」

 「ん? 身分の事はわかりませんが、立場は変わらないかと」

 「私は子爵の娘、公爵の師匠とは身分が違いますし、師匠は魔法使いに力を貸す(とうと)きお方。私はその力(あやか)る小さな存在」

 「カルメラちゃん、大事なのは大きいか小さいかではなく、どれだけ派手に生きたかです。自分の意のままに人生が歩めるのならば、それを最大限に利用して自由に生きる。一番難しくて、一番楽しめる生き方です。身分なんて生きているものが勝手に決めた尺度。そんなの気にしていては苦しくなってしまいますよ」

 「自由な生き方ですか……? 私にできるでしょうか?」

 「おや、カルメラちゃん。あなたは不思議なことを(おっしゃ)りますね。今のあなたは何かに拘束されて生きていると? 私にはそうは見えませんね。私には自分の意思で歩む道を決めて、自分の力で生きていこうとするカルメラちゃんの姿が見えますよ」

 「……師匠」


 しんぺぇすんねぇ! 面倒はアタイがみちゃるけん!! 好き勝手に生きればよかと。


 「シルルのように我侭(わがまま)に生きてみてはどうですか? 家柄も身分も関係なく。この村に身分を気にしている人はいませんよ? よい機会ではありませんか、あなたが望む形の未来を想像してみても」

 「師匠はなんだか人生に対して達観(たっかん)している感じですね。だから私はあなたを師匠にできて嬉しく思います」

 「ははは、頼りなさい、頼りなさい。私がいくらでもあなたを導きますよ。その小さな手に溢れんばかりの希望と遊楽(ゆうらく)を差し上げますから」

 「ふふっ、楽しみにしてます。おやすみなさい師匠」


 ふと、カルメラちゃんの表情を見ると、恋をする乙女な眼差しで頬を染め、目をキラキラさせている。やべーなこの状況。完全にお・ち・て・るじゃん!! どうしよう、あぁ。まずいまずい、攻められる立場は予測してなかった! うん、寝よう!! 


 「お、おやすみなさい!」

 「ふふ、はい師匠」


 うわぁ、むずがゆい。こんな少女を私の毒牙にかけてしまっていいものだろうか? うーん、これは困った。でも、嬉しいことには変わりはない。


 翌朝。うーん、どうしよう……私は頭をクシャクシャとかきながら、ぼさぼさの髪の毛でボケっとしつつ、家の外に置いてある薪に座り頭を悩ませる。


 最近は姫様ときゃっきゃっできていない……それどころかカルメラちゃんのアタックされそうな勢い。こんなはずでは……え、昨晩の自信はどこにいったのかと? そんなのは地平線のかなたへ飛んでいきましたよ? 


 姫様は私の事はどう思っておいでなのだろうか? まさか、お嫌いになってしまわれたのだろうか……。


 そんな悩みを抱えつつ悶々(もんもん)とする感情、いえ。恋をしているわけではないのですよ、ただねぇまずいかなぁなんて考えるわけでと思っていると、目の前をシルルが横切る。


 「あ、シルル!」

 「んにゃ? メイサ何してるにゃ?」

 「ちょっと考え事をですね……そのですね……姫様の事で」

 「ご主人のことかにゃ?」

 「いや、最近はあまり(かま)ってあげられていないといいますか……」

 「ははーん、最近のお前はカルメラにベッタリにゃ、そのうちご主人から見放されるのは目に見えてるにゃ」

 「うぐっ……ぬぅ……」


 ぐぅ、この猫は鋭いですね。でも、そうなりそうで実際のところ怖い。かといって今更カルメラちゃんと距離を置くのは不自然で甲斐性なしというか……困った。


 「お前が何でもかんでも手を出そうとするからにゃ、お前が蒔いた種にゃ、自分で刈りとれにゃ」

 「まぁ、そうなるのですよね。はぁ、なんとかしなければ泥濘(ぬかるみ)に足をとられてしまう」

 「ご主人に聞けばいいにゃ。簡単にゃ」

 「それはそうですが……」


 うう、簡単に言ってくれる。これが結構心臓に悪い。ん? 姫様には恋愛感情というものがあるのだろうか? そういえば一緒にいる時間は長いですが、カルメラちゃんのように急接近してきたりと……ないなぁ。


 頭を傾かせて腕を組んで悩む仕草はまるでこの村のことを考えている様子。でも頭の中は姫様とカルメラちゃんとの関係を安定させる事ばかり。よし、姫様に直接聞いてみましょうか。


 「え? メイサのこと?」


 振り向く姫様の顔に臆する私……まぁ浮気みたいなことをしているので後ろめたい感情が良心を刺激する。くぅ、心が痛む。


 「そ、そうです。シャレル様は私の事をどう思っているのかなぁ……なんて……」

 「好きだよ? メイサは私にとっておねぇちゃんみたいな存在だもん」


 ぬぅ!? 私に電流が走る。


 やはりそうか、おねぇちゃん的立ち位置なのか……しまったなぁ、少しは予測していましたが恋愛対象ではないということか。


 「でもね、最近はなんだかもやもやするの」

 「もやもやですか?」

 「メイサがねカルメラと一緒にいる時にもやもやするの。なんだかずるいなぁって」

 「ふむ……」


 それは自分の姉的存在がひょっこり現れた誰かに獲られてしまうようなものでしょうか? でもずるいという想いはなんでしょう?


 「ち、ちなみにですよ、私がカルメラちゃんと一緒に旅に出ることになったら――」

 「メイサは私の事が嫌いになったの?」

 「い、いえ仮定のはなし……なっ!?」


 すると姫様は大粒の涙をためて、顔をゆがませる。


 「メイサの意地悪!!」


 そう言うと、姫様は走り去ってしまった。やばい……非常にやばい。あぁ! 私はどうすればいいのだぁ!? 今更カルメラちゃんにはお遊びなのよ、なんて言えるかー! 最悪の終着点は旅の終わり。少女の心を(もてあそ)んだ罰か……。

 


 昨日(さくじつ)の同刻、ペネウス侯爵邸では先日の襲撃に対しての結果に苛立ちをみせるペネウス。

 

 私が派兵した兵士達が負傷した状態で街道で発見されるなどと誰が思ったことか、ましてや特級冒険者のモレンドを殺されるとは……くそ、役立たずな者共が!


 「ペネウス様」

 「なんだ?」

 「モレンド様の埋葬が終わりました」

 「それで、お前の目から見たモレンドの様子はどうなのだビレ」

 「モレンド様の遺体に目立った傷はなく、どのような方法で死に(いた)らしめたのか検討がつきません。もし、真っ向から相手したのであれば、相当の腕の持ち主かと」

 「どのくらいの猛者があの村にはいるというのだ?」

 「国王直属の騎士『十字聖騎士(クローツナイト)級かと」

 「なんだと!? あの村にはそんな化け物が傭兵として雇われているのか!? ばかな……」

 『十字聖騎士』といえばこの国の頂点に立てるほどの強者(つわもの)伝説的な英雄騎士だぞ?


 世の中は広いということか。現存する十字聖騎士は3人……その誰かがあの村にいるのか!? まさか国王の命にて私の行動を監視しているわけではあるまい……可能性も否定はできないか。


 「ビレ、今のあの村に侵攻するための兵力はどれほど必要かわかるか?」

 「聖騎士が相手となりますと雑兵が1000人いたとしても無理であると判断します」


 私の私兵はおよそ200人、5倍の数が居ても足りぬか。こうなれば直接出向かなければ話は進まぬ。しかし、村を強襲した行為に村人は警戒するだろう。それに手練(てだれ)の傭兵がいるのならば返り討ちにあうことも考えなければならない。


 「ペネウス様」

 「なんだ?」

 「ここは(わたくし)に任せてはいただけませんでしょうか?」

 「お前に私兵を渡せと申すか? 一介の秘書に何が出来る? 戦闘経験のないお前に手練の傭兵の相手は務まらぬ」

 「いえ、私は一人で村に(おもむ)き、内情を探ってくるだけのことでございます」

 「それで討たれてはなんの役得もなかろう? 秘策があるのならば別として、勝手な行動と発言に以後気をつけよ!」

 「はっ! 申し訳ございません」」


 相手は何を考えてあのような僻地の村に興味を示したのか……こちらの手の内が読まれているのか!? なんにせよこれが国王の耳に入れば私の立場は瓦解する。


 何者なのだ……私の計画を阻害する者は!

 

 「ヘクチッ!」


 また何かの噂ですか? 最近多いですね。そんなことよりこのままでは愛憎劇が始まってしまう……まずいまずい。でも姫様もカルメラちゃんからも好き好き言われたい! 優柔不断なのは分かっている。だが、譲れないものがあるのだよ!


 私は上に下にと頭を動かし、頭痛を抑えるように頭を両手でガッシリと掴む。そんな悩む私にシルルはジトリとした目線で見詰める。


 (あれがこの村を救ったヤツとは思えないにゃ。相手もこの事を知ったらへきへきするだろうにゃ……ご主人をはどこにゃ?)

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