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さぁ夕食です! イノシシはうめぇか?

 むくれた表情で私をにらむシルル。


 「なんですかシルル?」

 「お前、血抜きとかしてにゃかったにゃ」

 「あぁ、忘れてました。エヘ」


 今は夕餉(ゆうげ)の時、4人でテーブルを囲んで仲良くお食事です。なんと、村長さんのご好意で、空き家を貸してもらってこの村に居ついています。まぁ、機嫌の悪い猫つきですが。


 「エヘじゃ、ないにゃ! 村の人が手伝ってくれたから解体できたのにゃけども、お前は酷いにゃ!!」

 「酷い? 悪魔にとっては褒め言葉ですね。感謝感激あめあられ」

 「お前ふざけてるのかにゃ?」

 「いえ、真剣ですよ?」

 「まぁ、シルルさん。師匠も悪気があってしたことではないと思いますし」

 「シルルは不機嫌なの? 食事は楽しくするものだよ?」

 「う……うにゃ……」


 ほう、それで黙るのか。流石はお姫様とお嬢様。関係ないですけどね、エヘェ! まぁ、関係あるとすれば姫様にはいいところをみせたいという感情。カルメラちゃんに対してはお姉さん的な立場を誇示(こじ)したい思惑。やれやれですね。


 さてと、今晩の夕飯は――。採れたて野菜のサラダに猪のステーキにオニオンスープ。贅沢な食事ですね、文句のつけどころもないですし、小さな焼きたてのパンまでこんもり。いやはやこれがここの当たり前の食事と言うから驚いた。しかも美味しいときたもんだ。


 「師匠……」

 「どうかしましたか?」

 「このキノコ……」

 「なんか良い香りがしますよね。森でよくとれるとか、でも慣れてないと見つからないキノコだそうですが、それがなにか?」

 「いえ、このキノコは別名『ブラベージュ(黒い宝石)』という貴重なキノコ……貴族でもめったに食べられないキノコですよ?」

 「ほほぅ。おいくら?」

 「一個、銀貨で、に……20枚……です」


 目と鼻から液体が噴出するわ!!


 「はぁ!? ええっ!?」


 ここの村人は美食家揃いか!? なんだこの村ぁ! 平民がどうとかって問題じゃねぇ!? そしてパクパクと食べる姫様、流石は姫様だけのことはある度胸だ。私は値段を聞かされて(のど)がためらってるよ。


 「それにこのパン……」

 「パンまで!? 付けあわせじゃないの!? 俺ついてきました的な!」

 「この天然酵母は王都の高級パン屋で使われる『ミラファン(天使の酵母)』です」

 「なにこの村、あ――では猪も高級な」

 「猪は猪ですね」

 「うん、雑魚(ザコ)だったか」

 「でも、みんな喜んでたよ!」

 「そうですね、猪を持って帰ると、妙に喜んでましたね。姫様は何かお話を聞かれたのですか?」

 「えっと、きちょうな食肉だって言ってた」

 「あぁー、肉はどこでも貴重なのですね。今までは何を食べていたのでしょう? カルメラちゃんは知っていますか?」

 「そうですね……貴族は動物でしたが、平民は魔物、特にオークやオーガ、デザートはスライムを加工したゼリーとかでしょうか?」

 「魔物って意外と人間には必要なものだったのですね。だから害獣の肉は以前の街では高値で取引されていたと」

 「ドラゴンなんかは長寿薬として(この)まれて、貴族への献上品になっていましたね」

 「献上? 誰が献上するのですか?」

 「それは色々です。組合は仕事の取り合いでしたから、貴族に取り入ろうと」

 「なるほど、賄賂(わいろ)みたいなものですか。で、シルルは満足していますか? 今のご時勢で肉は貴重らしいですよ?」

 「うにゃー、おなかいっぱいにゃ。満足してるにゃよ?」

 「もう、シルルは野菜も食べなきゃ駄目!」

 「にゃにゃにゃ、ご主人。猫は野菜は苦手にゃんよ。野菜を食べると気を失うにゃ」


 なんという苦しい言い訳。お腹が膨れてデブ猫になっているのに何を言っているのだろうかこの猫は。姫様、信じちゃ駄目ですよ?


 「そうなの? じゃぁ、しかたないね」


 姫様ぁぁぁ――。信じちゃったよ!! カルメラちゃんは凄い疑いの眼差しでお腹をポンポン叩く猫に何かを言いたげだ! 


 「シルルさん」

 「はいにゃ?」

 「村の方々がわけて下さった大切な食料を食べないということはありませんよね? 

 食糧難で困窮している村や街もありますというのに……」


 「にゃにゃにゃ、待つにゃ! カルメラ、ウチはもうお腹がいっぱいで――!」


 ゲロったかこのバカ猫め、流石は()が弟子のカルメラちゃん。直感の鋭さも真似(まね)てきたか。というより、シルルの言動がおかしいことには変わりないのですがね。野菜を食べて気絶なんて道理がとおりませんし。


 「シルルは嘘をついていたの!?」

 「え、にゃ……違うにゃご主人! 待つにゃこれには深い訳があるにゃ」

 「ほう、その深い訳を訊こうではありませんか。ん――? ほら、どうした話してみなさいな」

 「……お肉を食べ過ぎたにゃ」

 「もう、シルル!」

 「勘弁にゃ、勘弁にゃ……!」


 やれやれ、こんなにも美味しい食事を。姫様には食べ物を粗末にするのは駄目な事だと小さな頃から教えていましたからね。これも教育の賜物(たまもの)


 「食べられないのならいいですよ、私が食べますから」

 「ほんとかにゃ!?」

 「というか、ここに並べられてる食事はどれも高級品で平民では口にすることは難しいものばかりですよ?」

 「師匠の言うとおりです。貴族でもめったに食べられないものばかりなのですから、猪と比べるのは愚の骨頂! まぁ、駄猫の口には合わない代物ばかりですからね。仕方がありません」

 「そ、そんにゃに凄いのかにゃ?」

 「それはもう、シルルさんの舌では味覚が満足に機能しないのでしょう。残念です」

 「ウチは安い肉で釣られる猫なのかにゃ……」


 今更なにを……。

 

 食事は終わり、食器を片付けて長椅子に座ると、ふわりとした感触にお尻が反応する。なんですかこのふんわり感!? そして、またしてもカルメラちゃんは驚く。


 「な、ななななっ!? これは柏陽鳥(はくようちょう)の羽毛!?」

 「柏陽鳥?」

 「?」


 床に転がる猫は無視して、私は驚くカルメラちゃんにたずねる。姫様も首をかしげて不思議そうな顔をしているからだ。


 「この長椅子だけでも都市部に家が一軒購入できる……なんという村なの……」

 「へぇーえ、えぇ!?」

 「まさか!? ベッドに毛布まで!! これが各家庭にあるというの!?」

 「驚愕しているところすみません。それは凄いのですか?」

 「師匠! 各家庭が貴族の客室にも匹敵する高級な部屋なのですよ!? 外見、内装は木造の一般的な建築物なのに対し、家具はどれも一級品……これがリーフの村」


 どうやら凄い高級な家具に囲まれて生活している様子で……、そういえばお城にもこんなのあったなぁ……。


 それはいいとして、私としてはお楽しみの時間と行きましょうか!!


 「姫様、カルメラちゃん」

 「なぁにメイサ?」

 「師匠?」

 「膝枕などいかがですか?」


 それは私の目には捉えきれなかった。気付いた時にはすでに私のふとももに頭をのせ、子猫のようにスリスリし、甘える仕草の幼女とも思える天使が2人!!


 「師匠のふとももはあったかいですぅ」

 「メイサのおっひざ、おっひざ」


 あ――、もう死んでも悔いはないわぁ。とか言ってたら部屋の隅からレモニードが顔をひょっこり出しそうで怖い。


 2人の頭を撫でると、気持ちよさそうに目を閉じる。かんわっええ――! もう、おねぇさん独占しちゃう!!


 でも、本当に幸せですね。ほのぼのとこのような時間が続けばいいのになぁ。


 「今日は誰と寝ようかなぁ」

 「わたし! メイサと寝るの!!」

 「駄目よ、師匠と寝るのは私よ!!」


 あー、やぶ蛇だ。もう面倒だ、2人とも連れてっちゃう!! おっと、猫はノーセンキューだ!!

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