カルメラ頑張ります! 小さな恋の始まり。
私はカルメラ、今は納屋で自身を酷使して村人の傷を癒して大忙しです。師匠に頼まれたからには無視をすることは出来ませんし。私自身、魔法の勉強になります。
悔しいのは切り傷や打撲に火傷を治せることだけです。骨折などの中傷者は治せない……。師匠ならうまく治せるのかもしれませんが。朗報があります、森で出会った子供のスエスの両親が無事であったことでしょうか。
「スエスっ!」
「お母さん? お母さーん!!」
「君がスエスを? あぁ、私は怪しい者ではなくて、スエスの父親です。本当にありがとうございます!」
「いえ、そんな大した事はしていませんので。でも、ご両親と逢えてよかったですわ」
スエスも泣きじゃくりながらお母さんを困らせているのですが、そんな時、私はスエスのお母さんと目線が合い、スエスのお母さんは涙をうっすらと浮かべた表情で軽く頭を下げた。私も思わず反射的に頭を下げたのだけど、故郷の母を思い出してしまった。
「あの、あなた様のお名前は?」
「私はカルメラ。カルメラ・ドルト・シュパードです」
「カルメラ様でございますね。私はハウド・ニドレです。不本意でしたが娘を使いに出させた不甲斐なく、酷い父親と思うかもしれません」
「いえ、この状況でしたら選ぶ猶予はなかった行動。仕方のないことです。スエスがカラリジェであったことが……あっ、すみません! その、差別的に言ったわけではないのですが……」
「いえいえ、気にはしておりません。確かに差別的に使う方もいらっしゃいますが、正確には我々は自分達のことを『リーフ』と呼んでいます。もちろん別の地域に住んでいる同胞も『リーフ』と」
「リーフですか? 聞いた事がないので……ではカラリジェとは誰が?」
「ここ最近の我々の呼び名でしょう。私共は昔からリーフと呼び合っています」
師匠もカラリジェという名には反応が薄かったですし……。ではあえて別呼称で民を分けていた? 師匠がいれば答えも導き出せそうな気もしますが……あ、私は師匠に頼りっきりですね。でも、あんなに頼れる師匠は他にはいません。師匠のような大人になりたいのが正直なところです。でも、時々鼻血を流していたり、顔が緩んでいるのはなんでしょうか?
「ブッ、エックショイ!!」
「なんにゃ、汚いにゃ」
「いえ、なんか嬉しさと、真相に触れられそうな悪寒がして……なんでしょうか?」
「さて、ここは片付いたにゃ」
「そうですね、レモニードも報告に帰ったみたいですし。兵士を街道に棄ててきますか」
どのくらいの人数をこなしたのだろう、私の疲労もかなり蓄積しています。これではどちらに介抱が必要なのかわからなくなってしまう。でも、焼印だけは消さなければ。子供にまで焼印をするとは容赦がないというか情けの欠片もない。
「お嬢ちゃん、顔色が悪いが大丈夫かね?」
「お構いなく、私の仕事は残っていますから……ふぅ……」
「そ、そうかい? 恩人に倒れられたら部族の恥になってしまう。少し休んだら――」
私は横に首を振った。後数時間もすれば、焼印は肉体の一部になってしまう……そうなる前に治療しなければ。ただでさえ村を襲撃されて子供達には心に傷を負ってしまった。残酷な記憶になって残るかもしれない。大人になって焼印が残っていれば、それは一生拭えない酷な記憶としてよみがえる傷痕になる。それだけ……意識が……。
私にはその後の記憶はない。ただ周りがざわついて……。気付いたときはベッドで寝ていた。
「はっ!」
目を覚ますと、にこやかな表情の師匠が立っていた。
「おはようございます」
「師匠!?」
「よくがんばりましたね。村の人達も感謝しています。カルメラちゃんの木像でも置こうかと言っているくらいですからね」
「えええ!? それは困ります!」
「いいではないですか『聖女ここに現れる』と残しておけば」
「もう、駄目で――す!!」
「ふふっ。しかし、カルメラちゃんも変わりましたね。会ったころはツンツンとしていたのに、今では言葉遣いが温和になったと言いますか、一人称も変わりましたね。もとからあった素直さが表に出てきた感じですね」
「そんなに変わりましたか?」
「えぇ、とても。ご両親がいたら驚くでしょうね。さて、私は狩りに出かけてまいります。がむしゃらに頑張ったもう一人の見舞品を用意しなければなりません」
「シルルさんの……あっ! 師匠!!」
「どうしました?」
「その……もう、遅いですよね……」
「何の話でしょうか?」
「いえ、全員の怪我と焼印の治療が出来なくて……私では力不足でした。傷は癒えても焼印が残ってしまっては心に傷を負ったままだと、生涯嫌な記憶が――」
「安心してください。焼印と怪我の治療はほぼ完了しました。カルメラちゃんが一生懸命に頑張った証拠です。私としては倒れているカルメラちゃんの方が心配でしたが」
「……師匠」
朝の木漏れ日が師匠を眩しく照らす。その姿はとても悪魔とは思えないくらいに綺麗で私の胸は高鳴るいっぽう。伝えておきたい言葉ある。感謝の言葉もあるけど、もっと別な贈りたい言葉、伝えたい想い。
「師匠……」
「ん? どうしました?」
「あの、私は師匠が好きです……」
突然の告白で変な子だと思われちゃうかな……同姓を好きになるなんて思ってもみなかった。でも、胸を締め付ける想いはそうなのだと自覚する。私は師匠が好きなんだって。すると師匠は笑顔で応えてくれる。
「私もカルメラちゃんは好きですよ。何事にも一生懸命に取り組んで努力を怠らないその精神は何よりも大事です」
そうだよね、私と師匠は師弟の関係。仲間として好きということが正しい捉え方なのかもしれない。期待していた私が間違いだったのかな。
「今は恋人以上愛人未満といった表現が正しいでしょうか? シャレル様もおられますから、お2人からの求愛に責められる私は幸せ者ですね。では、行って来ます」
「あ……あの、今の返答は……」
こ、恋人以上……なになになに!? 顔がほてって仕方がない。師匠は私の告白を受け入れてくれたということ? うぎゅう! 気持ちが悶々する。苦しさはなくなったけどどきどきが収まらない。師匠大好きです――!!
一方では暴れまわったシルルが唸り声をあげて苦しんでいた。私は遠くから傍観していたが……。
「き、聞いてないにゃ……全身が痛いにゃ」
「まぁ、肉体強化に防御の強化、それに耐えるあなたの体は強靭ですね」
「メイサ、そんな遠目で見てないで回復魔法かけるにゃ!」
「無理ですよ。肉体強化での損傷は自然治癒でないと副作用が出ますよ? それに、普通なら声も出せないほどに弱るので、そのくらい元気なら大丈夫でしょう」
「ご主人の警護が出来ないにゃ……」
「心配ご無用、姫様は村の子供達と遊んでいるので警護の必要はないですよ」
「うにゃ……薄情者にゃ……」
「どっちが?」
「お前にゃ!」
「私はあなたの見舞品を用意するのにこれから狩りに行くのですよ? それとも着いてきますか?」
「うううう、お肉のためにゃら我慢するにゃ……早く帰ってくるにゃよ!!」
「はいはい、豚ですか猪ですか?」
「猪がいいにゃ、歯応えが豚さんとは違うにゃ」
「くさい物が好きですねぇ。では、安静にして待ってるのですよ? 夕刻には動けるようにはなりますから」
「楽しみがいっぱいだにゃ!」
さてと、行きますか。外で遊んでいる姫様は楽しそうですね。まぁこのままここの領主が黙っているほど温厚な人間ではないことは分かりますが、どのような手で再度の侵攻をしてくるかですね。言葉での対話か、力でねじ伏せてくるか。準備だけはしておきましょう。ここが戦場にならぬようにせねば、姫様の暗い記憶を刺激しかねない。それだけは避けねばならないこと。
事態が収まるまではここに滞在しましょう。村も狙われている事でもありますし。さてと狩りに行きましょうか――。面倒くせぇ。